76話 第一部隊
「第一部隊の皆さんがいらっしゃったぞ!」
第八部隊が集う仮の拠点にてそんな声が響き渡る。現在、第八部隊は英雄の故郷周辺に現れたと目される火竜の討伐に駆り出されていた所である。
危険度A指定の魔獣であるため、当初はそれで足り得ると考えられたが、思いのほか火竜が神出鬼没で調査が進まずに助っ人として第一部隊員が送り込まれたという訳だ。
「第一部隊の皆さん、こちらへどうぞ」
そう言って第八部隊員の一人が自隊の隊長の下へと案内してくる。現れた第一部隊員の数は四名。
水色の髪の毛に赤色の瞳が特徴的な青年。緑長髪にブラウンの瞳が特徴的な少し気怠げにしている青年。赤い長髪にどこか野性味を帯びた笑みを浮かべる青年。
そして最後に現れた黒髪黒目の青年の姿を見て、休憩所内は少し騒めく。
「セキ・ディアーノ。まさか貴様が動くことになるとは思わなかった」
セキ・ディアーノ。第一部隊隊長にして次期『神殺し』の座に最も近いと言われている男である。普通であればそんな男がこんな内地の任務の増援ごときで駆り出されるはずがなかった。
今回、この増援で来たのには理由があった。
「私の部隊の新人が世話になるからな。有望な彼らを死なせる訳にはいかないから私が来たという訳だ」
「ほう、つまり私の部隊では心許ないということかな?」
「ああ、そうだ」
歯に衣着せぬ物言いに少し眉根を顰める第八部隊隊長ルークス・ファグラウル。
それを言えるだけの実力を目の前の人物が持っていると知っているからこそ、なおも腹立たしく覚えるとともに言い返せないことに悔しさも湧き上がってくる。
「セキ隊長。それは俺達の力も信用していないという事になるのではないですか?」
「ああ。そう言っている」
オリベルを入団試験で下した水色の髪の青年、ギゼルの言葉もセキは何の躊躇いもなく肯定する。
当たり前だと言わんばかりの口調でそのようなことを平気で宣う冷酷な人間、それこそがセキ・ディアーノであった。
「おいおい、隊長。それはねえよ。騎士団じゃ後輩だが、戦場では俺の方が先輩なんだぜ?」
そんなセキの言いように食いつく赤い長髪の青年、ダグラス。彼は騎士団に入るまでの間、傭兵として各地を転々としていた。
戦場での経験となればかなりの数を積んでいるだろう。しかし、そんな彼に対しても変わらぬ口調でセキは告げる。
「戦場で先輩でも実力が劣っていれば意味が無い」
「ごふっ、それはストレート過ぎんぜ~、セキ隊長~」
あまりにストレートな物言いに少し大げさな反応を見せるダグラス。
その後ろでは緑髪の青年、カイザー・エリュートがはぁとため息を吐いてルークスの目の前まで行くとこう告げる。
「すんません、ウチの部隊いつもこんな感じなんでお気になさらず」
「あ、ああ、そうなのか」
好き勝手に会話を始める第一部隊の面々にこの場に居る誰もがポカンと呆気に取られていた。
騎士団としての経験が長いルークスですら戸惑っていたため、カイザーの一言に救われるのであった。
「失礼。少々、うちの部隊員が騒がしくてな」
「ま、まあ血気盛んで良いんじゃないか」
最初にセキに突っかかっていたルークスの姿はどこへやら。
すっかり毒気を抜かれたというよりはこれ以上話を長引かせると面倒なことになりそうだと判断したルークスは早速、本題へと入る。
「今回、第一部隊には火竜の住処があると目される山にある洞窟の調査に向かってほしい」
「洞窟?」
「ああ。ここから西の方に山が見えるだろう? 最近の調査で分かったのだが、あの山の麓に見知らぬ洞窟があるのを発見してな。だが、そこに出てくる魔獣が強力で私の部隊では手に負えんのだ」
「ふむ。それでその奥に火竜の住処があるのではないかという事か?」
「恐らく。それ以外の場所は粗方探したからな。あるとするのならもう調査できていないそこだけなんだ」
第八部隊と言えど、ウォーロットの騎士であるため相当の実力を持っているはずである。
その騎士達がこれだけ集まっても調査に失敗しているという事実を聞き、セキはふと考え込む。
「危険度S相当ということか」
「ああ、そうなるな」
危険度S相当の任務をギゼル達新入りにさせるのは初の試みである。とはいえ、セキの頭の中には任務を受ける以外の選択肢はない。
「ふむ、ちょうど良い機会だ。お前達、この任務を私の助力なしで遂行できたなら前線での任務参加を許可する」
その言葉はこの場に居る三人が最も欲しがっていた言葉であった。
「本当ですか隊長!」
「うっひょ~、太っ腹だぜ、セキ隊長!」
「ふふ、やっとかい」
もはや既に攻略したかのような盛り上がりに再度、第八部隊員から奇異なものを見るような視線が飛び交う。しかし、それを気にする者はこの場に居ない。
「ということで洞窟の調査は確かに私の部隊が引き受けた。引き続き、周辺の調査に注力してくれ」
「あ、ああ。心強いぜ」
難易度の高い任務だと聞いて喜ぶ姿を見て競う事すら馬鹿馬鹿しく思えてきたルークスはただ乾いた笑みを浮かべることしか出来ないのであった。
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