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75話 火竜の調査

 二人だけのパーティが終わってからというもの、オリベルは自室にてベッドの上に寝転がり、考え事をし続けていた。

 今まではこんなに考えることもなかったことだろう。マーガレットが放った言葉は単なる日常会話に過ぎない。誰にだって悩み事はあり、それについて問われただけなのだから。


 オリベルでも普段ならそんなに気になる事もない。しかし、あの時は何故か凄く気になってしまった。


 それはマーガレットという最愛の母の死期が目前にまで迫っているのが見えてしまった、というのもあるが、もっと本質的な意味でオリベルの中で何かが変わった。


 その何かが分からず、オリベルはこうして頭を悩ませているのだ。


 オリベルの考え方の根本が揺らいだ瞬間であった。


「……こんな事を考えていても仕方がないな」


 答えが出ないものを考えるのを放棄して、今自分がやるべき事に目を向ける。現状、オリベルが優先すべきなのはマーガレットの命だ。

 そう考えたオリベルは不要な思考をすべて頭の中から取り払い、マーガレットを救い出すことだけに注力する。


「火竜の話を聞いたのがトリガーになったのは間違いないんだ。それまで一切変化はなかったから」


 火竜。前にも述べた通り、この魔獣はオリベルとマーガレットにとって因縁の深い相手であった。なぜなら、オリベルの父が殺された相手も以前現れた()()だったからである。


 以前の個体はオリベルの父がその命を以てして討伐に成功した。そのため、今回現れた火竜は当然違う個体ではある。マーガレットが狙われる要素はない。

 しかし、どうにもオリベルは火竜に対する嫌な予感という物が拭い去れないままでいた。


「明日、少し村の周辺を散策してみるか。何かわかるかもしれない」


 そうしてその日は眠りにつくのであった。



 ♢


 

「オリベル、どこへ行くの?」

「ちょっと散歩にね。久しぶりに帰ってきたから色んな所を見て回りたいんだ」

「なるほど~。今、魔獣が出てるらしいからあんまり村の外には出ないようにね……ってもう騎士様だから大丈夫か。でも気を付けてね」

「うん」


 一通り、家出の手伝いを終えるとオリベルはいつもの黒い大鎌を背負って家の外へと出る。マーガレットは趣味の編み物をしているらしく、手が離せないようなので一人で家を出るには都合が良かったのだ。


「あら、こんにちはオリベル君。今日は一人?」

「はい。母さんは今忙しいので」


 話しかけてきた村人にそう返事をする。その顔の上には46歳5か月という数字が書かれている。昨日も話しかけられた人物であるため、その村人の死期が大きく変化していることにオリベルは気が付く。

 マーガレットに続き、村人の死期まで変動しているのだ。


 それからすれ違う村人皆、昨日よりもさらに早まった死期が顔に書かれていた。


 確実に何かが村を襲うのだろう。そんなことを考えながらオリベルは歩いていく。


 死期を見ていく中でやはり過るのは昨日の事である。ここ何年かは他人の死期を見ても平穏を保てていた心がいつになく動揺しているのを認識する。


 その事実から目を背けるかのようにオリベルは下を向いてなるべく人の顔を見ないようにしながら村の外を目指して歩いていく。

 その恰好はまさにステラと出会う以前のオリベルの様であった。


 そうして村から出て足早に森の方へと向かっていく。その道中、ふと人の声がしたのに気が付き、オリベルはスッと物陰に身を潜め聞き耳を立てる。


「あれは……騎士か。どこの部隊だろう?」


 そこで話していたのはオリベルと同じ黒い制服に身を包んだ数名の騎士であった。オリベルの故郷の村は英雄ステラの出生地であることから、英雄が前線へ集中できるようにと他の騎士が交代で周辺を回っているのだ。


 そんなことを露知らぬオリベルは自身を追ってきた部隊なのではないかと少し警戒心を抱きながら視線を向ける。


「最近、ここらで火竜がでたらしいな」

「ああ。それで俺達第八部隊に加えて第一部隊の騎士達もこっちに来るらしい。ま、俺達下っ端はあの村を護衛してりゃ良いだけだし関係ないんだけどな」


 周りが森だからか誰にも聞かれていないと油断している騎士たちの声は大きい。少し離れたところで隠れているオリベルにもその内容は十分に聞こえていた。


「第一部隊が動くほどなのか」


 第三部隊から第一部隊は基本的には前線での任務が多く、内地での任務は第四部隊から第十部隊に任されている。

 だというのに今回の火竜の討伐に第一部隊が駆り出されているというのだ。それは国王がそれほど火竜の事を脅威であると認定したという事になる。


 取り敢えず自身を追ってきた騎士ではないことを知り、一先ず安心するオリベル。幸い、今オリベルは騎士団の制服を着ている。

 話が聞けそうだと思ったオリベルはその騎士達へと近づいていく。


「誰だ!」


 オリベルの接近に騎士の内の一人が気が付き、警戒を孕んだ怒声を上げ、他の数名が刃を向ける。


「怪しい者ではありません。ウォーロット王国騎士団、第二部隊に所属するオリベルと申します」

「おっと、同業者でしたか。それは失礼を」


 オリベルの着ている騎士団の制服を見るや否や、納得し剣を納める騎士達。


「オリベルさんも任務で来られたのですか?」

「いえ、任務じゃありません。ただ、故郷へ休暇で帰っている間に周辺で火竜が出没したと聞きましたので、ちょっと気になって見にきたって感じです」

「そうだったのですか。休暇中だというのにご苦労様です」

「いえいえ、僕が好きでやってることですので」


 話しかけてみると、かなり良い手ごたえを感じたオリベルは更に会話を続ける。


「それでお聞きしたいことがあるのですが」

「何でしょう?」

「その、火竜が出没するのってどの辺りなんでしょう?」

「ああ、その事ですか。火竜が出るのはですね……」



 ♢



「で、言われた通り来てみたけどこんな所あったんだ」


 騎士達から聞き出した火竜の居場所に来てみると第一声でオリベルはそう告げる。

 オリベル達が暮らしていた村では比較的木々が生い茂っているところであったが、オリベルが今居るところは逆に緑があまり無い、はげ山のような場所であった。

 そこだけやけに気温が高く、オリベルの身体を嫌な暑さが包み込む。


 オリベルが騎士達から聞いた話では出没情報から考えてこの山の周辺に火竜が巣を作っているらしいとのことだ。


「今のところそれらしい影は見当たらないけど……」


 火竜どころか魔獣の姿も見当たらない。そんな場所だというのにオリベルの魔力感知がそのはげ山から凄まじい程の魔力量を捉える。

 この魔力がただ一匹の個体から発せられているのだとすればそれはもう危険度Aを軽く凌駕していることだろう。


「行くか」


 そうしてオリベルは得体のしれないそのはげ山へと足を踏み入れるのであった。

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