70話 呼び出し
リュウゼン達の部隊が第二部隊に昇格することにより、本拠地をグランザニアから王都の訓練場へと移すことになった。
ただ、別にグランザニアの訓練場が別の部隊の管轄になるわけではなく、引き続きリュウゼン部隊が管轄ではある。第三部隊から第一部隊は王都に新たな訓練場を与えられるだけであるため、必然的に二つの訓練場を持つこととなるのだ。
ちなみにリュウゼン部隊と共に妖精蝶の住処を潰したイルザの部隊は変わらず第三部隊のままで最近、功績が振るわなかった元第二部隊が第四部隊に落ち、王都から撤退することとなった。
そして本日、オリベル達は王都の訓練場へと初めて足を踏み入れたのであった。
「流石は王都の訓練場ですね。何もかも違います」
グランザニアの訓練場もあれはあれでかなり豪華な造りをしていたが、王都の訓練場はそれを遥かに超えるほどに豪華であった。
まずは騎士団員たちが寝泊まりをする寮の部屋。どの部屋もトップレベルの宿屋並みに広々としている。グランザニアの寮の部屋と比べれば数倍はあるだろう。
次に食堂。グランザニアの頃も相当広かったため、広さは変わらないが、食堂で提供される食事の種類が圧倒的に豊富になっていた。
パスタ一つをとっても二十種類ほどはあるだろう。それに無料で食べられるのだから驚きだ。それを見てもオリベルはキャッツへと通うのであろうが。
「さて、お前ら、自分の部屋の片付けなりもう済んだよな?」
「はーい」
一通り王都の訓練場内部を散策し、落ち着いたところでリュウゼンからの指示が飛ぶ。
「今日は任務はないから休憩してろ。それとオリベル。お前には話があるからついてこい」
「はい、わかりました」
大方、不死神の事についてだろうと見当を付けながらオリベルはリュウゼンの後についていく。
そして騎士団寮にあるリュウゼンの部屋の中へと入ると、ソファに座るように促され、それに従う。
「さて、話っつーのはだな。端的に言えば以前の不死神の力の暴走についてだ」
「はい」
分かっていたことではあるもののいざ畏まって話すとなると緊張するものはあるのだろう。少し硬い口調でオリベルはそう返事をする。
「端的に言えばお前の力が暴走したことが原因で大臣たちが文句を言って来たらしい。その話を陛下としてきたんだが……」
少し話しにくそうに頭をかくリュウゼン。内容的に言えばオリベルに対してかなりの心労を与えてしまう事が考えられるからである。
しかし、いずれは伝えなければならなくなることだ。だからこそリュウゼンはこうしてオリベルの事を呼び出しているのだ。
「これからはずっと基本的にお前の日常生活を監視し、任務の際にだけ外出を許可することとなった。まあ言ってしまえば謹慎みたいなことだな」
「謹慎ですか……まあそれは覚悟できてましたし」
「訓練もいつ暴走するかが分からんから禁止らしい」
「なるほど、分かりました」
思いのほか、オリベルの反応が薄いことにリュウゼンは虚を突かれる。何の被害を出すこともなく、事件を解決へと導いたオリベルはどう考えても一番の功労者である。
それなのに文句の一つも言わずに納得したのが意外で仕方がなかったのだ。リュウゼンが同じ立場であれば真っ先に文句を言っていただろうに。
「本当に分かってんのか? ずっと監視される生活が続くんだぞ?」
「まあ仕方がないですね。今の僕がそれくらい危険な存在だという事は何となく理解してますので」
やけにすんなりと受け入れるオリベルを前にして一瞬ポカンとした表情を浮かべるリュウゼン。
一悶着くらいは考えていたのが杞憂に終わったことにホッとするも、今度はオリベルの情緒に対して不安を覚える。
思えばこれまでのオリベルとの付き合いでどこか達観しているような、年齢不相応な雰囲気は漂っていた。
少し大人なんだな、と軽く考えていたリュウゼンではあるが、もしかしたらそうではないのかもしれないという考えに変わる。
「……まさかすんなり受け入れられるとは思ってなかったぜ。一応陛下の提案を突っぱねてきちまったってのによ」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃねえな。近々呼び出しを食らうとは思う……まあてなわけで一応今回は突っぱねたが今後、無理やりにでもお前の動きを拘束しようとする勢力が出てくると思う。俺でも防げなかったらそん時は……ってこの調子じゃあ意味なかったけどな」
「わざわざありがとうございます」
「おうよ、まあそんだけだから今の内に好きに訓練でも何でもしておいてくれぃ」
そう言ってリュウゼンはオリベルの事を解放する。いずれリュウゼンの力では突っぱねることが出来なくなる。
そんなことになる前に拘束されていない期間を十分に堪能しておいてもらいたいというリュウゼンの計らいで今伝えられたのだ。
「それで良いのかよ、お前は」
オリベルには神の力が宿っている。そしてその神の絶大な力を制御できるのはオリベルだけだ。それだけの力を持っているのだから当然、騎士団をやめることはできないだろう。
無理やり逃げ出せばそれこそ指名手配されることになるだろう。
騎士団から逃げることも出来ず、騎士団に居ても監視され続けることになるかもしれないという事を告げてもなお不安を覚える様子もなく立ち去るオリベルの後姿を見てリュウゼンは一抹の不安を覚えるのであった。
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