69話 おすすめのお店
リュウゼンが国王に連れていかれた一方、リュウゼン部隊員たちは皆、王城から出て、とある飲食店へと足を向けていた。
「二人がおすすめのご飯屋さんだなんて、気になるわね~」
「看板娘の子が可愛いんだろ? いや~、楽しみだぜ!」
「まあディオスの奢りで食べられるんだし、沢山食べちゃおっかな~」
「おいクローネ。いつから俺の奢りって……」
「うるさい」
「……はい奢ります」
クローネとディオスの夫婦漫才を苦笑いで見守りながらオルカとオリベルが案内する。向かう場所はもちろん、二人が普段お世話になっている『キャッツ』である。
「クローネってディオスが女の子の話をするたびに怒るでしょ? 多分気があるのよ」
「まあそれは見ていれば分かりますね」
ディオスとクローネには聞こえないようにミネルとオルカはコソコソと話す。傍から見ればクローネは完全にディオスに対して恋をしている。
しかし、ディオスはそれに全く気が付いていないようでいつもどうしてか分からないが怒られてしまうとミネルに相談するほどである。
クローネもクローネで自分がディオスに恋をしているとは気が付いていないみたいでどうして怒ってしまうのかが分からないと頭を悩ましている。
要するにどっちもどっちなのである。
「え、気があるって?」
「まああなたには分からないでしょうね」
疑問を口にしたオリベルが何故か呆れたような口調でそう返されてしまう。オリベルは訳が分からないまま首を捻るが、あなたはそのままで良いのですよとオルカに言われて納得することにする。
「着いた、ここが僕達の行きつけのお店、キャッツです」
以前と変わらない店構え。その前でオリベルはニコニコと機嫌よさそうに紹介する。自分が見つけた店を紹介するというのは何だか通っぽくて村出身のオリベルは少し憧れていた部分があったのだ。
「いらっしゃいませ~、ってオリベルさんじゃないですか~。それにオルカさんも!」
中に入ると忙しそうに接客をしていた看板娘の猫の獣人アーリが真っ先にオリベルとオルカに気が付き、作業の手を止める。
「五人なんだけど今大丈夫かな?」
「はいはい、大丈夫ですとも。お座敷の方にご案内いたしますね~」
そういってアーリに以前と同じ座敷へと案内される。店内はかなり盛況しているようでどこの席も満席の中、少し申し訳ない気持ちになりながらもオリベルはそれに甘えることにする。
席に着くと、各々メニュー表を眺めて好きな物を注文する。オリベルが選んだのは店主おすすめ日替わりメニューである。
「おいおいおい、オリベルの言ってた通り滅茶苦茶可愛いじゃねえか。あのアーリちゃんって子」
「ディオスに賛同するのは癪だけど、本当に可愛い子ね。何かしてあげたくなっちゃうわ、お・ね・え・さ・んが♪」
「……ほどほどにしておいてくださいね。僕が来にくくなるので」
ディオスとクローネの二人の零した言葉に一抹の不安を覚えながらもオリベルはそう返す。普通の人であればこういうのは基本的に冗談なのだが、この二人は冗談ではない可能性があるのがまた恐ろしい。
「そういえばリュウゼン隊長を置いて来てしまいましたがよろしかったのでしょうか?」
「良いのよ。国王との話なんてどうせ長くなって待ってたら結局ご飯も食べずに帰ることになりましたーみたいなオチになるわよ」
遅すぎるオルカの疑問をミネルが一瞬にして斬り伏せる。口にしたくせにそもそも大して気に留めていなかったオルカはそれもそうかと納得をする。
それから少しして。全員の料理がアーリによって届けられ、五人はそれに舌鼓を打ちながら会話を弾ませることとなる。
そして話は次第に、第二部隊になったことによって前線での活動が増えるのではないかという話題へと移り変わっていく。
「俺大丈夫かな? こん中じゃ圧倒的に戦力にならねえしよ」
「まあそうね」
「おい、せめてフォローくらいは入れてくれ、ミネル」
普段の手合わせにおいてもディオスは圧倒的に他の隊員よりも弱い。唯一属性魔法を使う事が出来ないオリベルにすら、大鎌を使うことなく倒されてしまったのだから悲観してしまうのも仕方がない。
しかし、それは一対一の対人戦に限った話では弱いと位置づけられるだけで、対魔獣、そして対集団であればオルカ、リュウゼンの次には有用な能力である。
「まあ何事も適材適所ですね。ディオスさんの苦手なところを補うために他の隊員が居るわけですし」
「わ、分かってんだよ。んなことは」
オルカの言葉に少し照れくさそうにするディオス。
「僕も心配だな。いつこいつがまた暴走するか分からないし」
今も壁に立てかけてある大鎌を見ながらオリベルはそう不安を零す。オルカとミネルから聞いた限りではいつ仲間を傷つけていてもおかしくない。
そんな不安定な状況で前線という一挙手一投足が命取りとなる危険地帯に果たして自分が暴走せずにいられるのか、それが不安で仕方がないのである。
「暴走したらしたで良いんじゃない? 私なら止められるわよ」
「いやミネルでも無理だろ。だって神に覚醒した魂狩りを瞬殺したって話だろ。ワンチャン、英雄様でも無理なんじゃねえか?」
「なに嘗めてんの?」
「嘗めてるんじゃなくて、格が違うて言ってんだよ」
オリベルの不安からなぜか先輩騎士団員の口喧嘩になりながらも五人の食事会はいつになく平穏に過ぎていくのであった。
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