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68話 憤り

 魂狩りを第五部隊の三人が討伐した後のお話。内側に潜む大いなる脅威を取り除いたとしてリュウゼン部隊は異例の昇格を果たすこととなり、王城へと呼ばれることとなった。

 通常種の魔獣が神へと進化するという事件は世間を震撼させるとともに、それを討伐した若き騎士団員たちを褒めたたえる声が大きくなったためである。


「此度の遠征、見事であった。民からもかなりの賛辞が聞こえてくる」

「ありがたきお言葉」


 リュウゼンが一歩前へと出て、跪く。その後ろにオリベル達も跪いていた。全員を少し眺めた後、国王は一瞬だけ悲しそうな瞳をした後、跪くリュウゼンの下へと歩み寄る。


「ここ最近の君たちの活躍ぶりに民衆の声を抑えられなくてね。異例の事ではあるが、今回君達の部隊を昇格させることに決めた」

「つい最近、第五部隊に上がったばかりでございますが」

「だから異例と言っておろう。今回の活躍で君達は今月から第二部隊へと昇格する。昇格に伴い、君達の部隊の本拠地をグランザニアから王都へと移す」

「ははっ!」


 異例の昇格。本来であれば一か月に一度に功績を鑑みて順位が変わる。以前、第十部隊から第五部隊へと昇格したのでもかなり異例の話であったのが、第五部隊から第二部隊になるというのは更に異質である。

 第三部隊以上の順位とはこの十年間は一度も変わっていなかった。それが最下位という順位から覆したのだ。それはそれは異例の事なのである。


 当然、国王のこの言葉を聞いた大臣たちは動揺を見せる。しかし、それに反発する者は居ない。神を討伐するというのはそれほどに素晴らしいことを知っているからである。


「これにて式を終える。それとリュウゼンよ。後で話がある故、ここに残っておいてくれ。他の者は解散してよいぞ」


 国王のその言葉でオリベル達は隊長であるリュウゼンを残して玉座の間から出ていくのであった。



 ♢



「それで話とは?」


 国王に玉座の間からいつもの会議場へと連れていかれたリュウゼンはそう問いかける。第二部隊になったため、訓練場の場所のこととかそういった話だろうと思っていたリュウゼンだが、国王の口から放たれた言葉はそのどれでもなかった。


「君の部隊に神との適合者が居るであろう?」

「ああ、オリベルの事ですか?」

「うむ。その子についてな、先日君を省いた隊長達と大臣と共に会議を開いたのだ。主に神の力の暴走について」


 その言葉を聞き、嫌な予感がするリュウゼン。わざわざ暴走と形容するあたり何か含みがあるのは確かだからだ。


「俺を除いてオリベルの話をする意味はあったのでしょうか?」


 一番オリベルとのかかわりが深い自身だけが排除されて会議が進んだという事に若干の腹立たしさを覚えながらリュウゼンが尋ねる。

 もしもオリベルにとって不利なことが会議されていたのだとすればそれはあまりにも一方的だろうと思うのである。


「その点についてはすまない。君は少し隊員の肩を持ちすぎるきらいがあるから、会議の内容によっては暴走しかねないと思ったのだよ」

「隊員の肩を持つのが隊長ですからね。それで俺が暴走しそうな会議の内容はどういったものだったんでしょう?」


 本来であれば不敬と言われて罰されそうな不遜な言い方ではあるが、国王も負い目があるのかそれを指摘することなく、一つ咳ばらいをするとその内容を話し始める。


「オリベル君が暴走したことにあたって、ディアーノ軍務大臣を含む全大臣から提言があったのだ。オリベル君の持つ神の力は強大ではある。しかし暴走してしまっている現状、いつか味方への甚大な被害へとつながる危険性があるのではないかと」

「……」


 リュウゼンが険しい表情を浮かべながらも何も言ってこないことを確認した国王がさらに続ける。


「オリベル君が暴走する原因は力不足にある。日常生活においてもいつ暴走してしまうのか分からない。そこで彼らはこう提案したのだよ。オリベル君は前線で必要な時にだけ投入し、それ以外は拘束しておくべきだと」

「人を駒みてぇに言いやがって!」


 国王の発言を聞いたリュウゼンは思わず声を荒らげて怒鳴ってしまう。元々、自分たちは戦場へ赴くこともなくただ内地で私腹を肥やしているだけの存在であるというのに、偉そうに意見を言ってくる大臣たちの事をリュウゼンはそこまで好きではなかった。


 それに今回の件だ。今、リュウゼンは大臣たちに対して腸が煮えくり返る程の怒りを覚えるのも無理はない話であった。


「まあ待て。落ち着けリュウゼン。流石に我が国のために身を粉にして働いてくれておるオリベル君を罪人の様に扱うような提案は即座に却下したよ。そもそも神の力を適合させてくれと頼んだのも我々からだ。オリベル君には一切の非が無いからね。ただ、やはり大臣たちの意見を無碍にすることも出来ない。いつ暴走するのかが分からないのは事実だからな」

「だとしても拘束だのなんだのとくだらないことをするのではなく、不死神の力を制御する訓練の期間を設けさせその間は任務に参加させないようにすればよいだけでは?」

「うむ。私もそう思って会議でそのように発言したのだが、訓練中にこそ暴走が起こる危険性が高いと言われてね」


 同じく適合者であるグラゼルは天才であることと元々神によって気に入られていたのがあったために最初から意思を疎通し、同化することが出来ていた。

 そのために大臣たちからの不満が発露することはなかったのだが、オリベルの場合はそうもいかない。

 元々、そんなに突出した才能を持ち合わせていたわけでも神に気に入られていたわけでもなく、挙句の果てには神を律することが出来ずに力を暴走させてしまう。

 そんな状況は大臣たちによる粗探しの格好の餌食となってしまうのであった。


「したがって会議の中で折衷案としてオリベル君は拘束はしないものの前線へ投入するとき以外の日常生活をすべて監視下に置くこととなった」

「訓練も何もかも禁止という事でしょうか?」

「その通りだ。ただ、大鎌についてはオリベル君の制御が無いと暴走する一方であるため、携帯を許可することにはなると思うが」


 国王のその言葉を聞き、放心状態になるリュウゼン。これはもはや決定事項であり、だれにもそれこそ国王ですら覆すことはできない。

 魔獣との戦いが激化している最中、内部で分裂が起きてしまうことほど恐ろしいことはないからである。


「君の心境は分かる。しかし、国としてはそう判断を下すしかなかったのだ。すまぬが、リュウゼン。汲み取ってくれ」


 その言葉はリュウゼンの胸に暗い翳りを落とすのみであった。

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