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65話 決戦

 至る所で衝撃波を伴いながらギルゼルアスとアーゼルの攻撃が交差し続ける。ギルゼルアスが覚醒してからどれくらいの時が経過したであろうか。

 何度となく衝突する二柱の力はかつての英雄と不死神との戦いを彷彿とさせるような戦いが繰り広げられていた。


「我は進化したのだ。真なる神へと。そんな我が負ける筈がない!」


 二段階目の覚醒を遂げたギルゼルアスの口調は覚醒前には力がコントロールできずに飛びかけていた理性も元に戻っている。それどころか魂に依存しない個の確立に成功していたのである。

 それがゆえに言葉も片言ではなくなっている。


「力を確かめるのにちょうど良いな、お前。思う存分、試させてもらう!」


 黒い魔力を帯びたアーゼルが一気に詰め寄ると超常なる膂力で大鎌を振るう。空気が裂かれ、激しい衝撃波を伴う一撃が放たれる。

 それをギルゼルアスも迎え撃つかのように魔力の籠もった紫の球体を生み出してそれを打ち出す。奪い取った魂をすべて己の力へと変換した末に得られた超絶の魔力である。


 二つの攻撃が上空で交わった瞬間、大地を打ち鳴らすほどの轟音と共に空気が、空間そのものが揺れる。傍から見れば世界が壊れてしまうのではないかというその乱撃戦の中に二柱の神は凡そ憂いといった感情を見せることなくぶつかり合う。


「ハハッ! 久方ぶりの打ち合いでこれほど楽しめるとは驚きだ! 一番強そうなのは取り逃がしちまったけどこれはこれでありだぜ!」

「強がりを。貴様の腕は先程の一撃で消し飛んだであろう? もう体力も残り僅かの筈だ」

「消し飛んだ? あぁ、ガキの弱っちい体のせいで魔力障壁の調節をミスったか。てかこんなので俺が日和るわけねえだろ」


 そう言うとアーゼルは失った右腕に『再生』の魔法を施し、見事元通りの姿へと戻る。


「……化け物が」

「おめえもだろうが」


 それから再度、二柱の神は戦いに舞う。美しく洗練された動きをするギルゼルアスに対して、アーゼルの動きは獰猛で苛烈である。

 体の持ち主であるオリベルとは程遠い力の使い方をしているため、微妙に波長が合わないのかアーゼルの動きにはキレがない。

 それに腹立たしさを覚えながらもアーゼルは嬉々として目の前の強敵と拳を交わす。


 激しい衝突が何合行われた頃合いであろうか。


 突如としてアーゼルの動きがピタリと止む。頭を抱え、突然苦しむようにうめき声を上げ始めたのである。


「ぐっ、急に騒ぎ始めやがって。俺に体奪われてんだから大人しくしとけよ」


 うめき声を上げながらそんなことをのたまうアーゼル。当然ながらギルゼルアスにはどういう状況になっているのかが分からない。

 力を出しすぎた故の故障か、はたまた魔力の枯渇か。そのどれかであろうとアタリを付けるギルゼルアス。どちらにせよ、それはしぶとい敵を倒す最大のチャンスであった。


「ボロが出たな、不死神とやら。せめて我に逆らったことを後悔しながら死にゆくのだな!」


 ギルゼルアスが掲げた一本の指から膨大な魔力が形作られていく。それは徐々に巨大な魔力の弾となる。


「死ね」


 ギルゼルアスがその紫色の巨大な魔力の弾を放つ。攻撃を向けられているというのにアーゼルは防ごうともせずに未だ苦悶の表情を浮かべながら俯いている。


 そして魔力の弾がアーゼルへと激突しようとした瞬間、アーゼルの口からこんな言葉が放たれる。


「邪魔」


 刹那、先程まで轟々とその存在感を世界へと知らしめていた膨大な魔力の結晶が一瞬にして弾け飛ぶ。


 目の前で繰り広げられたその光景にギルゼルアスは少しの間、状況を理解することが出来ずにポカンとその光景を眺めていた。

 理由は分からないが、突然苦しみ始めたアーゼルに勝機を見出し、ここぞとばかりに渾身の一撃を放ったはずである。

 だというのに放った渾身の一撃はせめぎ合う事もなくまるでガラスの様に儚く散ったのだ。


 一方でそれを成し遂げた本人はというと、先程までの好戦的な笑みはなく、ただ虚ろな表情を浮かべている少年の姿がある。

 それに加えて身に纏う魔力の色は黒から白へと変化している。


「……貴様は何なんだ」

「……」


 その問いかけに答える代わりにゆっくりとしかし無駄な動きは一切なく、ギルゼルアスの方へと向かってくる。


 別に見た目はそれほど変わっていない。しかし、なぜかその姿にギルゼルアスは底知れぬ恐怖を覚えていた。


「我が怖いだと? この我が? そんなこと、ある筈がないだろう!」


 神である自分が恐怖する存在などいるはずがない。しかし、言葉とは逆に体がその場から動かない。何故だか白い魔力を纏った目の前の存在に目が釘付けとなっていたのである。


 同時にギルゼルアスの脳裏に鮮烈な死のイメージが過る。それを打ち消すかのように頭を振るい、雄たけびを上げながら魔力を練り上げる。


「せっかく神になれたのだ! 死んで! 死んでたまるかぁ!」


 これまでよりも更に強力な魔力がギルゼルアスの周囲を覆っていく。そうして放たれるはすべてを破壊するほどの濃密な魔力の波動。

 対するは白い魔力を纏い、黒く大きな鎌を握った少年である。何の乱れも見えないその魔力に対し、脅威はない。なのに何故か底知れない不気味さがある。


 二者が互いに交差する。勝負は一瞬であった。


 少年が大鎌を一閃したと思えば、紫の魔力の波動ごとギルゼルアスの身体を真っ二つに斬り捨てたのである。


「ば、馬鹿な……」


 攻撃を消滅させられたどころかこれ以上ない程に高められた魔力障壁ごと体を真っ二つに分かたれたのである。


「やっと念願の神になれたというのに……今度こそこの世界を……支配できると……」


 言い終わる前にギルゼルアスの体から膨大な力が離反していく。すべての力がギルゼルアスから離れていった時、そこには何も残らなかった。


「……」


 神を倒した少年は打倒した歓喜に身を震わせることもなく無言のまま上空でフラッとよろめいたかと思うと、抗うそぶりも見せずに大地へと真っ逆さまに落ちていく。


 大地へと激突するまさにその瞬間、何者かの腕がオリベルの体を受け止める。


「オリベル、遅くなってごめんね」


 心配そうにオリベルの顔を覗き込む存在。白い制服に白いマントを羽織ったその少女は久しぶりに近くで見る幼馴染の顔をまじまじと眺めた後、その身体を抱えその場を去るのであった。

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