64話 第二の覚醒
「ほらほらどうした? 防戦一方じゃねえか!」
高笑いをあげながら次々に黒い斬撃を放つ不死神アーゼル。アーゼルの言葉の通り、反撃する隙もなくただただ防ぐだけになってしまっているギルゼルアスは歯を食いしばってその屈辱に怒りを蓄えていた。
「クソ、タマシイガ、モウスコシ、アレバ」
神として覚醒し魔力が増幅されたとはいえ、ギルゼルアスの力の源となっていた魂の数が既にほとんど尽きてしまっていた状態のため、本領を発揮することが出来ないのだ。
一方でアーゼルは力の大半を封印されてはいるものの神の中でも最強格の神である。どちらが優勢になるかは一目瞭然であった。
「ふむ、せっかく作りだした試験体をこうも簡単に壊されてしまうのは少し癪だな」
そんな二柱の神の戦いをそれまで興味深げに眺めていた翼の生えた男が突如としてギルゼルアスの傍へと移動すると、その体に向けて手を伸ばす。
「ナニヲスルツモリダ?」
「いやなに、見るに堪えなくなってきたからお前にさらなる力を与えるだけだ。まあ体が耐えきれずに破裂するかもしれないがそれもまた実験だな」
そうして男が力を授けた次の瞬間、更に濃密な魔力がギルゼルアスの体を覆う。
「グ、グアアアアアアッ!!!!」
身が焼かれるほどの耐えがたい痛みがギルゼルアスを襲う。強大な力とはそれ相応の器を必要とする。その器が備わっていなければ苦しみを伴うのは至極当然の話である。
「なんだ? 面白そうだから手出しせずに見てたってのに死にそうじゃねえかよ」
苦しむギルゼルアスの様子を見てアーゼルは落胆したように呟く。自身の力がどれほど使えるのか、それを確かめることが出来るのはある程度の強さを備えた者でしか不可能だ。
その恰好の相手として戦っていたのがギルゼルアスであったのだが、それでも足りず少し物足りない気持ちになっていたところだったのである。
そんなところで強化されると聞けばアーゼルも楽しみに待っていたというものだが、戦うまでもなく相手が自滅しそうなのだ。
「おい貴様。代わりに俺と戦え」
もはやギルゼルアスの事など眼中から消え失せたアーゼルが次に視界の中に入れたのは魂魄の神ギルゼルアスを生み出した男であった。
「遠慮しておこう。私は忙しいのだ」
「知るか。俺には関係ねえ話だ」
男が拒否するのも無視してアーゼルはその大鎌を構えたまま男へと刃を向け、そのまま攻撃を仕掛ける。
「……やれやれ。ソル、さがってなさい」
「はっ」
襲い掛かってくるアーゼルを迎え撃つために前へ体を乗り出そうとしていたソルと呼ばれた女性を手で制止すると、男は前方に向けて右掌を向ける。
そうして放たれるは圧倒的な魔力の波動。何の属性も持たない魔力だけの攻撃が神の身体を穿つはずもない。しかし、この男だけは少し違っていた。
魔力の波動はアーゼルを飲み込んだかと思えば、凄まじい威力を発してアーゼルの全身を押しつぶす。それはまるでその空間だけ異常に圧力が高まったかのように、アーゼルの全身を押しつぶす。
そうしてその魔力だけの無粋な攻撃はアーゼルの攻撃を防ぐだけではなく大地へ激しく体を打ち付けさせるに至るのであった。
「さて、実験は失敗のようだな。ただ知性があるだけでは真の神にはなれないみたいだ」
「止めはささないのですか?」
男が帰ろうとしている雰囲気を悟ったソルはそう問いかける。
「止め? この程度の存在が私に影響を与えるとは思わんからな。必要ないだろう」
「ですが不死神と言えば、10年ほど前まで神の最高位に位置した存在ですよ?」
「所詮は過去の覇者だ。まああの時の不死神であれば私も警戒すべき相手であったのは間違いないがな。器があれでは正直、恐れるに足らん。そんなことに魔力を使うより、真の神を作り出すことに魔力を使ったほうが良いだろう」
「……流石は主です」
ソルから見れば十分脅威に思えた相手もこの男にとっては取るに足らない存在なのである。同じ神でありながらこうも差があるのかと思いう気持ちはある。しかし、味方とすればこれほど頼もしいことはない。
「さあそうと決まれば帰るぞ」
「御意」
そうすると二人の周囲を金色の魔力が覆い始める。そうしてその魔力のベールが無くなった瞬間、その場から二人の姿は消え去っているのであった。
一方で男に吹き飛ばされたアーゼルはというと全身が八つ裂きにされた状態で地面へと倒れ伏していた。黒い体が所々剥げて、下にあるオリベルの肌に生々しい傷がいくつも見える。
常人であるならばすでに死んでいるであろう怪我。それも不死神であるならばどうという事はない。
「再生」
アーゼルがそう呟いた瞬間、見る見るうちに全身の傷が癒えていく。剥がれた黒い体も徐々に戻っていき、まだ何もくらっていない状態にまで回復する。
これが不死神の持つ能力、『再生』の力。これがあったがゆえに先代の英雄が倒しきるのは不可能であると判断し、封印するに至ったのである。
「少し封印が解けたお陰でようやく俺の力を使えるようになったか。ちっ、嫌な事を思い出しちまったぜ」
生前に見た英雄の姿を思い浮かべ、アーゼルは舌打ちをする。アーゼルにとってあれ程の屈辱を受けたのは初めてであったのだ。
「にしてもこれである程度分かったな。あいつには勝てねえくらいの力しか今の俺にはないって事か」
自身の力の限界を悟ったアーゼルは次に上空で未だに紫色の魔力に蝕まれ続けているギルゼルを視界に入れる。
「あいつ、まだ生きてやがったのか……いや、待てよ。もしかして」
何かを悟ったアーゼルはニヤリと笑みを浮かべる。
刹那、全身を覆っていた紫の魔力が解き放たれたかと思うと、その中から凄まじい魔力を纏ったギルゼルアスが現れる。先程までの曖昧な見た目ではない。
紫色の長髪に、褐色の肌をした男がその場で宙に浮いていたのである。
「おいおいおい! 楽しくなってきたなあ!」
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