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63話 交代

「あれは……オリベル」


 先程まで対峙していた魂狩りと目される魔獣。超常的なその力に圧倒されていたかと思えば横槍で入ってきた黒い魔力の正体をオルカは気が付いていたのだ。

 明らかにオリベルの意志が不死神に飲み込まれてしまっているその姿を見てどうすれば良いのかと思案する。


「あれは……」


 思案している途中、不死神が飛び出してきた場所に目をやると少年が意識を失って倒れているのが目に入る。あそこに倒れたままにしておけばいずれ戦禍に巻き込まれることだろう。

 オリベルの状況とレオンの状況を天秤にかけてオルカは自身が今取れる最善の行動を取ることに決める。


「さてと。いったんミネルさんのところへ持っていきますか」


 横たわっているレオンの身体を背負うと、上空で繰り広げられている神の戦いを避けるために大きく迂回しようと辺りを見渡すと、オリベルと魂狩りが戦っているその真下付近で何者かが横たわっているのが見えた。


「……少しお待ちくださいね」


 その者を救うべく一回背負ったレオンをもとの位置で座らせておく。まさに激戦地へと赴くために気を失っているレオンを連れていくわけにはいかないのだ。


「行きますか」


 ゴクリと生唾を飲み込むとその激戦地へ飛び込む決断を下し、オルカが平野を駆けだす。ただでさえミネルとの戦いで深手を負っていた身だ。それが魂狩りの覚醒により、痛む体に鞭打ってこうして動いているのである。


「一回でも当たれば死にますね、はい」


 緊張感が走る。直後、オルカの真横に攻撃の余波が飛んでくる。それを今出せるだけの魔力障壁と身体強化魔法で何とか回避しながら戦場を走り抜けていく。

 幸いにも二柱の神は互いの相手に夢中であり、魔力残存量が残りわずかなオルカの存在に気が付くことはない。多少、派手な行動を取っても大丈夫なわけだ。


 そうしてすべてを回避しきり、倒れている者の傍へとたどり着く。白髪の男性である。戦いの余波かは不明だが、半身が紫に変色してしまっている。現時点で生きているのかは不明だが、取り敢えず背負い、その場から離れ、大きく迂回してレオンの下へと戻る。


「お待たせしました」


 レオンを回収すると、オルカは二人を背負いミネルの下へと駆けだす。一人は少年とはいえ、この体で二人の人間を運ぶというのはかなりの負担となる。

 足を踏みしめるたびに全身を鈍い痛みが襲ってくる。身体強化魔法も微弱なため、肩は痺れ、足はパンパンに張っている。大地に足を付けることすら苦痛を伴うその状況でオルカは走っていた。


 そうしてミネルの下へとたどり着くと、オルカはゆっくりと二人を下ろし、自身もその場に座り込む。今から助けを呼ぼうにもオルカの足はそこまで持たないだろう。

 遠方から連絡する便利な魔法も持ち合わせていないオルカはただ呆然と目の前の神と暴走した仲間の戦いを見守る。


「オリベル……あなたを信じています」


 この状況でもまだオルカはオリベルの事を信じていた。オリベルならば何かやってくれると。魂狩りが覚醒した時もオリベルを信頼してなかったから応戦したのではなくあくまで気を失っているミネルを庇うためにした行動であった。

 そんな時だった。オルカのすぐ後ろで何かがゴソリと動く音が聞こえた。


「う、くぅー……頭が痛いわね」

「ミネルさん!?」


 気を失っていたミネルが意識を取り戻したのである。オルカからすれば予想外であったため、少し大きな声が出てしまう。


「私としたことが迷惑を掛けちゃったみたいね」

「はい、それはもう」

「……今の立場的にそれに対して何も言えないのが悔しいところだわ」


 操られていた時の記憶は薄くではあるが頭に残っている。魂狩りを倒すのは自分だけで十分だと豪語した癖に倒すどころか逆に相手に操られて仲間を攻撃するという失態を犯したばかりである。

 いつもならば強気に言い返しているところだがこの時ばかりはオルカの毒舌を甘んじて受け入れる他ない。子供っぽいとはいえそれくらいの良識は弁えている。


「……お兄ちゃん」


 少し周囲を見渡すと半身が紫に変色した兄の姿があった。何年もの間、魂狩りに魂を奪われつづけていたのだ。体が保てていたのもすべては魂狩りの魔力があったからこそ。

 それが今無くなってしまい、魂が今もなお奪われてしまっておりレオン達よりも何年も前に魂を抜かれてしまっていた兄の体が腐敗するのは当然の事であった。


 もうこの体に魂が戻ろうとも息を吹き返すことはあり得ないだろう。その現実をしっかりと受け止めたミネルは折れそうな心をしっかりと正気に保つ。

 幸いにもミネルはオルカと違い、魂狩りに操られている間は魂から魔力が他の魂から供給されていたためまだ十分に残っている。

 ここから村へ三人を連れて戻り、増援を要請することが唯一可能な存在である。


「後は任せなさい。さっきまでの失態はここから挽回していくわ!」

「意外ですね。前みたいに情けなく落ち込むのかと思ったのですが」

「だあー! うっさいわね! あの時はあの時! 今は今なの!」


 そうして騒がしくも頼りになる小さな先輩はプンスカと怒りながらも三人を背負い、村の方へと戻るのであった。

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