62話 魂魄の神
「ぶ……無事か?」
全身から血を流しながらも残ったすべての魔力を使い果たして作り出した魔力障壁で守ったレオンの方を見る。所々かすり傷はあるもののそれほど大きな傷は見当たらない。
しかし、その顔に表示されている赤い数字が死へのカウントダウンを始めていることに気が付き、これでも助けられないのかとオリベルはひどく落胆する。
「あと一時間……それまでに僕があいつを倒さないと」
立ち上がろうとするも両足に力が入らない。魔力障壁をレオンへと集中させたためにオリベルの怪我は予想以上に酷いようだ。
衝撃で全身の骨は折れ、頼みの綱の魔力ももう底を尽きた。あるのはただ不気味にそして美しく光る大きな鎌だけである。
魔力が底をついたことで同化することも出来ずただ、上空に浮かんでいる紫色の高密度な魔力を眺める。その中央には人型を象った魂狩り、いや魂魄の神『ギルゼルアス』の姿がある。
「あれは」
更に向こう側には小さな人影が一つ、上空に佇むギルゼルアスへ対抗するように細い剣を構えている者が居た。オルカである。
爆発魔法を駆使してギルゼルアスへと迫りゆくも、振るわれた強力な魔力攻撃によって軽くあしらわれているのが見える。あのまま戦い続けていても勝つことはできないだろう。
「僕も……戦うんだ」
大鎌を支えにしてゆっくりと立ち上がろうとするオリベル。震えながら少しだけ立ち上がるも、バランスを崩しその場に倒れる。
「くっ、くそぉ……」
戦う事が絶望的であることを悟った瞬間、オリベルの中で何かが動き出す。それは人の身では収めることが出来ないほどに暴力的で膨大な力。
『ようやく俺様が好きにできる時間か』
そんな言葉がオリベルの脳に響いた瞬間、底をついたはずのオリベルの体から暴力的な黒い魔力が噴き出してくる。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」
おおよそ人間の声とは思えない程、不気味な叫び声を上げ始めるオリベル。その体からは膨大な黒い魔力を放出し続けている。
オリベルの持っている白色の魔力ではない、これが意味するのは最初の時の様に力が少し暴走してしまうだけということではなく、オリベルの魔力が底を尽きたことで完全に不死神によって飲み込まれてしまっているという事である。
オリベルの全身が黒い装束に換装されていく。顔は骸骨の仮面に覆われ、それからオリベルの白い髪の毛が覗く。
「……フハハハハハッ! まだ全力ではないがようやく奪うことが出来たぞ!」
先程まで傷だらけであったオリベルの体からいつの間にか一切の傷が消え去っている。これが不死神の能力『再生』。どれほど強力な攻撃を食らおうとも体の一部が残ってさえいれば全回復することが出来るという正真正銘の化け物能力である。
これがゆえに不死神を滅ぼすことのできなかった先代の英雄は封印という手段を取らざるを得なかったのだ。
「我が手元に戻るが良い」
オリベルの姿を奪った不死神がそう呟くと地面に刺さっていた大鎌が不死神の手元へと引き寄せられていく。神の武器は神から作り出された。神の身体の一部のような物であるため、今の様にどこからでも引き寄せることが出来るのだ。
「ふむ、こ奴の体は我が依り代としては問題ないな。完全に封印が解けるまではこいつの身体を使う必要はあるが、まあ許容できるくらいか」
そう言うと、不死神は一気に全方向に向けて魔力を放出する。封印されているとはいえ、その魔力量は魂魄の神と遜色ない。
「少し試してみるか」
不死神が真っ先に目を付けたのは上空で浮かんでいる紫色の魔力、魂魄の神ギルゼルアスであった。不死神は魔力だけで空へと浮かび上がり、ギルゼルアスの横へと並ぶ。
「ナンダキサマハ?」
「俺の名はアーゼル。不死神って言った方が分かりやすいか?」
「フシガミ? シランナ」
「まあ今から死ぬお前には関係ねえからな」
「……ワレハカミダゾ?」
「俺も神だ」
「ヘラズグチヲ。カミヲカタルノナラバ、ソノチカラ、ミセテミヨ!」
不死神アーゼルの煽りに怒りを燃やしたギルゼルアスは先程まで戦っていたオルカへの意識を完全にアーゼルの方へと向ける。紫色の魔力がギルゼルアスの全身を覆い、元の人間の姿から段々と巨大化していく。
「ほう、この姿がお前の本気って訳か?」
『イマサラ、オジケヅイテモ、モウオソイ』
人間の姿から巨大な龍の姿へと変化を遂げたギルゼルアスの様子をアーゼルは眺める。周囲を飛ぶ透明な水晶玉のようなものには今までかき集めてきた魂が宿っているのだろう。
その一つ一つから人間の嘆きの声や苦しみの声が聞こえてくる。
龍の姿は常人であれば威嚇するのにはうってつけの姿であろう。だが、相手が悪い。今目の前に居るのは神の中でも最強格だ。龍など既に見飽きている。
「弱者はやたら着飾ろうとするからなぁ。やはりしょうもない」
その姿を見て何ら動じることのないアーゼルはその場で手に持っている黒い大鎌を横薙ぎに振るう。刹那、龍の姿をしたギルゼルの腹に深く大きな傷が走る。
痛みに苦悶の表情を浮かべるギルゼルアス。アーゼルはその様子を見ると少しため息を吐きながらも再度大鎌を構える。
「まあ、この体に慣れるまでの準備運動だ。お前で我慢するとするか」
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