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61話 神

「何だお前達は?」


 倒れる魂狩りの方を気にかけながら後ろから歩いてくる翼の生えた二人を警戒する。

 女の方はオリベルのその態度にしかめ面を浮かべ、反応を示したが対する男の方は気に留めることもなく悠々と近づいてこようとする。


 マックスまで引き上げていた警戒心をさらに上げたオリベルは持っていた大鎌アーゼルで城の床へと一本の傷をつける。


「何をするつもりかは知らないけどそれ以上近付けば斬るよ」

「……煩わしい」


 そんな声が聞こえたかと思えばオリベルの体は宙に浮かび、いつの間にやら城の壁へと体を強く打ち付けられていた。


「ぐ……な、なんだこれは」


 突然向けられた力。恐らく魔力だけの無粋な力。しかしそれだけでオリベルの魔力障壁を貫通し、ここまで吹き飛ばせるというのはそれだけ格上の相手であることを示していた。


(しゅ)よ。こんな出来損ないに何をするおつもりです?」

「戦闘力だけで言えば塵芥同然だ。だが魔獣には似つかわしくない知性は買うところがある。もしかするかもしれない」


 何を話しているのか、その本質はオリベルには理解することが出来ない。だが明らかに魂狩りについて話しているのは言葉の端々で理解することが出来る。

 そして止めなければ何かが起こる、そんなことも直感的に理解することが出来た。


「おい! 何をするつもりだ!」

「……騒々しいな。ソル、私が取り込んでいる間、人間のガキの相手をしてくれ」

「承知しました」


 そう言ってオリベルの前へと立ちふさがる黒い翼の生えた女性。オリベルと同じ真っ白な髪の毛に二本の赤い角が映える。

 赤い角と言い、黒い翼と言いどれも人間らしさはない。獣人でもない。

 魔獣と言われた方がまだしっくりくるものの、その知性のある佇まいは人間と言っても差し支えない。


 まったくもって不気味な存在、それがオリベルの抱く印象であった。


「そいつには実験に付き合ってもらうつもりだ。殺すなよ?」

「承知しました。ですがあまりにも弱かったら手加減が少々難しいのですが」

「仕方ない。やむを得ない場合は殺しても良い。だが出来るだけ殺すな」

「ご厚情痛み入ります」


 目の前で何とも傲慢なやり取りが繰り広げられる。オリベルに勝つのは当然である、そう言いたげな二人のやり取りを見れば普通ならば腹の一つは立つだろう。


 しかしオリベルは怒りを覚えることすらしない。


 目的は実に淡々としたものである。敵ならば倒す。そこに感情など芽生えないのだ。


「魂狩りは殺す。それが僕の役割だから」


 魂狩りが生きながらえてしまえば魂を抜き取られた者は死を待つのみである。


 レオンにそしてレオンの母親の顔に浮かび上がった死期、現状オリベルにとっての最優先事項はその二人である。


 オリベルは駆けだす。そうして魂狩りに向けて大鎌を振るおうとすると、その刃の先にソルと呼ばれた女が立ちはだかる。


「主の邪魔をするな」


 瞬時に生み出された高出力のエネルギーの塊。それがオリベルに打ち出された瞬間、空間が歪むほどに強烈な一撃がオリベルの体を襲う。


 その一撃は今まで出会ったことのない、それこそ妖精女王と相対した時もなお感じられなかった程に強力な一撃に身を焼かれたオリベルは一瞬、意識が虚空へ飛ぶ。


 凄まじい轟音を鳴らしながら壁に激突したオリベルは失いかけた意識を何とか繋ぎとめて身を起こす。


「これで死なないとは。人間にしては案外頑丈だな」


 身を起こすオリベルを見てソルは感心したようにそう零す。人間にしては、という口調からしてやはり人ならず者なのであろうことがオリベルにも理解することが出来た。


「お前達は一体何なんだ」

「私達が何か? あなた達の言葉で言えば『神』になるわ」

「神だと」


 ソルの言葉にオリベルの心臓の鼓動が激しくなる。危険度が概算できないほどに強大な力を持つ魔獣を人は畏怖を込めて神と呼ぶ。


 そしてその神を打倒するために生み出されたのが英雄の存在。つまりステラである。神という名を聞いてオリベルが黙っているはずもない。


 神の存在がステラに死期を与えたと言っても過言ではないのだから。


「不死の鎌、黒死無双(こくしむそう)


 大鎌を振り回し、幾千にも上る黒い斬撃を生み出していく。

 世界が黒い斬撃で埋め尽くされる中、ソルは平然と眺めるとスッと右手を前に出す。


太陽の玉(シャイニングボール)


 右手から放たれる灼熱の球体が黒い斬撃に向かって放たれる。黒い斬撃と小さな球体が激しくせめぎ合う。

 やがてそれは決着をつけることなく世界を暴かんとするほどに強力な光を伴ってそのまま空中で激しく爆ぜる。


 爆風が大地をなでる。その余波に飲み込まれないようにとオリベルは咄嗟にレオンの下へと向かい、その体を抱き上げる。


「この威力で死なないのは優秀だな。その奇妙な武器のお陰か? どうにもそれから懐かしい雰囲気が感じ取れてな」

「さあな。お前達の目的を教えてくれたら教えてやってもいいぞ」


 レオンを抱きかかえてなるべく戦場から遠くへと移動させるとオリベルはそう答える。

 全身にひりつくほどの痛み。魂狩りとの戦いでの疲弊と最初のソルから受けた攻撃のダメージが蓄積し、今にも意識を失いそうになる。


 それでも死期を変える、そのことに拘っているオリベルが倒れることはない。歯を食いしばってソルを睨みつける。


「人間如きが我ら神と交渉するか? 烏滸がましい」


 ソルの魔力が更に上昇していく。その出量は通常の魔獣を遥かに上回る。急激な魔力の上昇に大地が揺れ、城の瓦礫が浮かび上がる。


 今まで全く本気を出していなかったのだとオリベルはその時初めて知る。近づくと胸が苦しくなるほどに濃密な魔力の渦がそこには生じていたのだ。


「行くぞ!」 

「盛り上がっているところ悪いが終わったぞ、ソル」


 オリベルの方へと飛び込もうとしていたところに主と呼ばれる男から声がかかり、一瞬にして魔力が収まる。


「承知しました、主よ。それで何が終わったのでしょう?」

「うむ。神の種を植え付けただけで生まれた新たな神だ。見てみろ」


 男に言われてソルが魂狩りの方に顔を向けると先程までとは比にならないほどに強力で凶悪な力を孕んでその場に立っている紫色の人型の存在を目にする。

 先程まで姿を奪っていたレンオウの体はすぐ近くに落ちている。魂狩りは体を奪わずとも形を保てるほどに成長したのである。


「これが……僕の……オレノチカラ」

「ああ、そうだ。開放してみろ」

「ワカッダ」


 男が促した瞬間、オリベルの視界が紫一色に染まる。先程までの魂狩りとは明らかに違うその姿はまさにあの時見た妖精女王のようであった。


「お前の名は今日から魂魄の神『ギルゼルアス』だ」


 その瞬間、世界が揺れた。新たな神の誕生を祝福するかのようにすべての自然現象が呼応する。

 力の開放に巻き込まれたオリベルは咄嗟にレオンを抱きかかえ、城から退避する。しかし、それももう遅い。


「ぐわあああ!」


 突如として世界へと産み落とされた紫色の力の波動はオリベルの背中を焼き、地面へと叩きつけるのであった。

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