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60話 攻防

「向こうは向こうで上手くやれてそうですね」


 城が半壊するのを眺めてオルカはそう呟くと、視線を目の前の人物へと戻す。先程、ミネルを操っている輪っかを三つ破壊したところであった。

 残るは二つ。しかし、オルカの残存魔力もあと僅かとなっていた。


「爆発属性は魔力の消費が激しいのが難点ですね」


 オルカの魔力量があと僅かであるのに対してミネルの方はまだまだ魔力が残っていた。

 それもそのはずで、輪っかに宿っている魂から常に魔力が供給されるため、今のミネルは実質的に五人分の魔力量を持っている事になる。


 それに加えてミネルの無属性魔法はそもそも比較的消費が軽い属性魔法だ。持久戦にはかなりもってこいの性能をしていた。


「はあっ!」


 魔力を節約しながらオルカはレイピアを突き出す。それに対応してミネルの拳が交わる。

 一度、二度、三度と目にも留まらぬ速さで繰り返しレイピアの剣先とミネルの衝撃波を纏った拳が交じり合う。


「座標指定、エクスプロード!」


 オルカのレイピアと拳を交えているミネルの真後ろで絶大な破壊力を持った爆発が巻き起こる。


 背後の爆発を防ぐために後ろを振り返ったミネルの隙をつき、オルカのレイピアがミネルの腕に巻かれている輪っかを破壊する。


「あと一つ……」


 更に追撃せんとレイピアを伸ばしたところで衝撃波によってそれを阻まれる。

 

 オルカの全身を包み込むほどに巨大な衝撃波。それに飲み込まれたオルカは全身に生じる激しい痛みとともに十メートルほどその場から吹き飛ばされる。


「はあ、はあ、無理をしようとすればとんでもないものが飛んできますね」


 瞬時に魔力障壁を厚くしたため無事だが、その対応がなければ既に戦闘は終わっていただろう。全身に響く痛みをこらえながらオルカは立ち上がる。


 体力的にも魔力的にも狙えるのはあと一回といったところであろう。

 対するミネルはオルカの爆発属性魔法を食らい、多少の傷は負っているもののまだまだ戦えるレベルではある。


 不利な状況ながらもオルカは意識を研ぎ澄まし、目を閉じる。オリベルから学んだ静の魔力。

 静の魔力は生来の魔力の性質もあり完全に模倣することはできずともそれに近いことはオルカにもできる。


 先読みできるほどではなくとも目を開かずして周囲の状況を事細かに魔力感知しながら相手の動きに集中する。


 片足が動く。そうして地面を蹴り上げるとまっすぐにオルカの方へと迫りくるミネルの姿がオルカの脳内に映し出される。


 最小限の魔力で、最小限の動きでそれに対処するためにオルカは反撃を試みることにする。


 狙いは繊細。なにせ首元という致命的な部位をミネルを殺さずにレイピアを突きつけなければならないのだ。


 より一層精神を研ぎ澄ましていく。


 そうしてミネルが拳を振りかざしたその瞬間、ミネルの足元に小さな爆発を起こし体勢を崩させる。

 狙い通りミネルの体勢が崩れたところで勢いよくレイピアを突き刺す。


「これで終わりです!」


 ミネルの首に装着された輪っかにレイピアの先っぽがピタリと触れる。

 その瞬間、パリンっと何かの魔力が途絶えたような音が聞こえたかと思うと、ミネルがその場で倒れる。


「ミネルさん、大丈夫ですか?」


 倒れたミネルを介抱し、呼吸や脈を診て大丈夫であることを確認すると抱え上げて上空の城を見上げる。


「難敵でしたが何とかなりましたね。あとはオリベル、あなただけですが」


 ズキリと走る全身の痛みに顔をしかめる。オリベルの助太刀に行きたいところではある。


 しかし、自身が向かっても足手纏いになるであろうことを理解すると近くにある木の根元へと歩いていき腰を下ろす。


「任せましたよ」


 ミネルを隣に横たわらせながらオルカはそう呟くのであった。



 ♢



「ぼ、僕の力が……そんなバカな」


 上半分が吹き飛び、完全に外へ露出した城の床で力なく倒れながら魂狩りが悔しそうに言う。

 対して先程の攻撃でせめぎ合ったはずのオリベルは大した怪我を負う事もなく立ったまま倒れている魂狩りを見下ろしている。


「これで終わりだよ」


 未だ意識の残っている魂狩りに向けて大鎌を振るう。それに抵抗するすべもなく魂狩りの腕が斬り飛ばされた。


「ぐあああああっ! く、くそおおおお!」


 痛みに悶え苦しむ魂狩りを前にしてオリベルの心は酷く冷静に保たれていた。

 魔獣とはいえ仮にも人間の姿をした者だ。通常ならば躊躇うはずの行いもオリベルは何の躊躇いもなく実行する。


 死期を見るという特殊な能力。自己保身のため、伝えても無駄であることを知っているがために何人もの人間を死期という運命から見殺しにしてきたオリベルにとって些細なことであった。


「僕は神になる魔獣だ! 勝てない敵なんざ!」


 そう言って魂を呼び寄せようとも魔力が足りないせいか何も作り出すことが出来ない。レンオウの風属性魔法も使えない。最早チェックメイトであった。


「君を殺せば魂はすべて解放されるのかい?」


 魂狩りの近くまで歩いていくとその黒く大きな鎌の刃先を魂狩りの首にあてがいながらオリベルが言う。オリベルの目的はあくまで奪われた魂の解放である。

 それが出来なければ殺しても意味がない。だからこその確認であった。


「そんなこと教えるわけがない」

「じゃあ魂を解放しなければ殺すって言えば?」

「この体を殺しても僕の実体は魂そのものだ。僕は死なない」

「それも殺せると言ったら?」


 不死神の大鎌は不死を司る神の武器である。魂だろうが魔力だろうが斬ることはできるだろう。


「……僕を殺せば奪った魂も解放されるだろう。でもいいのかい? 僕を殺すという事はこの体の主も殺すという事になる。そうすればこいつの妹であるミネルも悲しむんじゃないかな?」

「ミネルさんが妹……なるほど道理で見覚えのある顔だと思った」


 それを言われてしまえばオリベルも判断に困る。もちろん、殺したとしてもミネルがオリベルを問い詰めることはないだろう。しかし、ミネルが心に深い傷を負う事は確かである。

 それはオリベルもなんとか避けたいところではある。一方で早く殺してしまわなければレオンの母親の死期が訪れてしまう。


 それに恐らくレオンも魂を奪われているであろうことを考えれば事態は一刻を争う。

 どうすれば良いか、オリベルが頭の中で思考を巡らせている中、唐突に何者かの声が背後から聞こえてくる。


「ふむ、面白い実験体になりそうだ」


 オリベルが驚き後ろを振り返るとそこには大きな翼の生えた男とその傍に控えるようにして歩く同じく翼の生えた女性がいるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 決着前の敵増援! ありがちですが地味に面倒なやつー。 とはいえ黒幕の思惑を知る絶好の機会でもあるため、頑張ってほしいところ。 死を司るからには色々できるはずだよなと思いつつ、次回以降も楽し…
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