59話 魂狩りVSオリベル
「な、なぜお前は操られていないんだ!」
魂狩りがオリベルの腕で殴り飛ばされたことに驚きそう叫ぶ。
魂狩りからすればすでにチェックメイトであったところで形勢が逆転したのだ。叫ぶなと言われる方が無理な話であろう。
さて驚愕を向けられた本人はというと真っ先に空中に取り残されたレオンを救い出していた。
体中に取り付けられていたはずの金属製の輪っかは既に粉々に破壊されている。
「僕の右腕には不死神の魔力が混ざってるんだ。操られる訳がないだろ」
そう言って右腕に纏われている黒い腕甲を見せる。大鎌を置いたとはいえ不死神の魔力がそこには宿っているのだ。魂が籠もっただけの輪っかで操れるとは思えない。
そんなもので操れるのならば大鎌に封印しておく必要などないのだから。
ただ、オリベルからしてもこれは賭けであった。なにせ予想はできても確証はなかったからである。
「何にせよレオンは預かった。後はお前を倒すだけだ」
レオンを部屋の壁の方へと持たれかけさえせると黒い大鎌を構え、魂狩りの方を見据える。
このままレオンを下へと届けたところで安全なところなどありはしない。
ならばここで魂狩りを逃がす方が厄介であると判断したオリベルはレオンを目の届く範囲に置いておき、先に倒してしまおうというのだ。
「フッ、まあ良い。少し計算が狂っただけの話だ」
魂狩りはそう言うと口から流れる血を拭い、その場で立ち上がる。
「神の力などそんなものを人間如きが扱えるはずがない。どうせハッタリであろう」
魂狩りの中ではオリベルが何か秘策を持っていて、それを誤魔化すために神の力などと絵空事のようなことを言い出したのだと、そういう結論を導き出していた。
「ハッタリじゃないんだけどな。これを見たら分かると思うんだけど」
コンコンッと大鎌を小突きながらオリベルは呆れたようにそう言う。
魂狩りの目から見てもその大鎌は奇妙な恐ろしさがあった。しかし、やはり不死神ほどの恐怖は感じなかったのだ。
なぜなら不死神の力はまだ殆どが封印されたままだからだ。
「さてと、ミネルさんを操るのをやめてもらっても良いかな? 後、人間に手出しをするのもやめてほしいんだ」
「それは無理な話だ」
「そうか。なら殺すまでだ」
刹那、広々とした部屋の中で黒い光が一閃する。かと思えば、魂狩りのすぐ横に地面が深く抉れていた。
「避けたか」
すぐ近くには大鎌を振り下ろしたオリベルの姿がある。瞬きにも満たないほんのわずかな時間でオリベルが攻撃を繰り出し、それを間一髪のところで魂狩りが回避したのだ。
その斬撃で抉れた後を見やり、魂狩りはその異常な強さに目を見張る。それと同時にこの魂が絶対に欲しいと強く希うようになる。
「その力、僕の兵士にしたときどれだけの効果を発揮するんだろうなぁ」
「さあ。そんなことにはならないから知らないな」
すかさずオリベルは大鎌アーゼルを振るう。巨大な岩をも一刀両断する黒い斬撃が魂狩りを襲う。
対して魂狩りは奪った魂で作り出した金属の盾で防ぐも衝撃を殺しきれずにその身を切り裂かれる。
「ぐっ……なんて力だ」
魂狩りが使う魂は奪ったものだけである。そしてそれは一度使えば当人の下へと戻る。
もしくは肉体が滅んでいればまた現世で彷徨う事となり、どちらにせよ魂狩りの手元からは消える。
徐々に城が壊れてきていることからそのストックはかなり限られたものとなっているのが分かる。
手元の魂の消失への不安、そして目の前の黒い大鎌への底知れない恐怖心が魂狩りの焦燥感を一層加速させる。
「僕は神になる魔獣だ。こんなところで負けるわけにはいかない」
風属性魔法を用いて後方へとさがると、片手を上に向ける。するとその手を中心として紫色の光が渦となって徐々に集まってきているのが分かる。
「魂化」
魂狩りがそう呟いた瞬間、集まっていた紫色の光が膨大な魔力となって顕現する。所有している魂の中から魔力だけを抽出したのだ。
それにより、手元からはその魂は離れてしまうが手にする力は数が数だけに膨大である。
「死ねえええっ!」
純粋な力だけの暴力。それはどんな技術を弄したとしても意味をなさない破壊の一撃。
不死神と同化する前のオリベルであれば対抗する手段は回避するしかなかっただろう。そしてそれが最適解であることは間違いない。
だが今は後ろに守るべき人間が居る。このままこの破壊の一撃を受け入れてしまうのは少々危うい。
大鎌を構え、その一撃を受け止めるべくして魔力を高めながら走っていく。
「不死の鎌」
空間を切り裂くほどの高密度な魔力が放たれる。方や大量の魂を込めた高度な魔力、方や神の魔力を込めた高度な魔力。
その二つの威力が重なり合った瞬間、城を吹き飛ばすほどの強烈な爆発が起こるのであった。
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!