57話 危機
「地上はこれで終わりですかね?」
オルカが一先ずの仕事の達成に汗をぬぐう。見ると周辺には至る所に戦いに敗れた土人形たちの残骸が転がっている。
オリベルとオルカの二人でつい先ほど人形を駆逐したところであった。
「あとはミネルさんだけですけど」
「そうだな。レオンが攫われてるのが気がかりだけど」
ミネルはリュウゼンと同等の戦闘力を誇る。そのことを知っている二人はミネルが負けるとは思っていない。
ただ、不確定要素であるレオンという存在がそれに対して負の効果を与えるのであればどうなるのか。
その点をオリベルは懸念していた。
城は依然と崩れる様子を見せない。魂狩りがやられれば崩壊するであろうことを考えれば未だ決着がついていないことが分かる。
「座標指定、チェイン」
オルカがそう呟いた瞬間、城の一帯が爆発し始める。恐るべき威力のオルカの爆発魔法。
城を破壊するものの、破壊したところから再生していく。
「やはり壊しても壊しても治りますね。何かしらの力ではあると思いますが」
「オルカ……一応ミネルさんとレオンが中に居るんだからせめて僕に伝えてからやってよ。心臓に悪いから」
「ある程度どうなるかは予測できておりましたので」
そうじゃなくてと呟きながらもそれ以上追及はせずに上空に位置する城を見上げる。
オルカとオリベルに空を飛ぶ能力がない以上、あそこへ向かえるのはミネルだけだ。
なら他の方策はと思い、外から城自体を削ろうとしても先程のオルカの攻撃の様にまったくもって意味をなさないものとなってしまう。
「何かあの城に行く方法があれば良いんだけど」
「まああることにはありますけどね」
「え?」
意外な発言が飛び出したことにオリベルは反射的に顔をオルカの方へと向ける。
「あるの?」
「ありますけど常人では不可能ですね」
「じゃあ無理じゃないか」
「あなたは常人じゃありません」
褒められていることに素直に反応すればよいのかそれともこれから何が起こるのかという事に恐怖すればよいのか分からずに訝しげに目を細める。
対するオルカは何という事はないと言った表情のまま告げる。
「私の爆発であなたをあの城まで吹き飛ばします」
「……ん? 何を言ってるんだ?」
「私の爆発であなたをあの城まで吹き飛ばします」
「いやいや違う違う。ちゃんと聞こえた上で何を言ってるのか理解できなかったんだ」
「人間大砲という事ですね」
「何か楽しそうじゃない?」
「いえそんなことは」
試してみたいとウキウキとした感情が溢れ出ているオルカに突っ込まざるを得ないオリベル。
人間を吹き飛ばすというのは中々できることではないため、気になっているようだ。
吹き飛ばされる側からすればとんでもない話ではあるが。
「取り敢えずミネルさんが魂狩りを倒すのを待つしかないってことだな」
「人間大砲があります」
「それはないって言ってるのと同然なんだよ」
そもそもオルカの爆発魔法に耐えられるかもわからない上にあの城に突っ込んで無事なのかもわからない。不確定要素が多すぎるのだ。
そんなオリベル達の視界に城から何かが落下してくるのが見える。クリーム色の長髪に身を包まれた少女の姿。それは地上へと降り立つと二人の方を睥睨している。
「ミネルさん?」
オルカが疑問符を付けたのはいつもとは明らかに様子が違っていたからだ。どこか虚ろな表情を浮かべているその姿は異様であった。
「ミネルさん、レオンはどうなりましたか?」
オリベルはその異様さに気が付くことはなく駆け寄り、話しかける。
しかし、その言葉もミネルには響いていないようで虚ろな表情を浮かべたままこう告げる。
「暴衝」
その瞬間、大地が鳴動し盛り上がる程の衝撃波がミネルの周囲一帯に向かって放たれる。
不意を突かれたオリベルはその手に持った黒い大鎌を振るい、その衝撃を相殺する。
「オルカ!」
「ええ。操られていますね」
咄嗟に判断してオルカはミネルとオリベルとの間に爆発を発生させ、二人を遠ざける。
突然の転機。ミネルがあの状態であるならばレオンが今どのようになっているのかは予想が付く。
「オルカ、さっきは断ったけどやっぱりあれをやるしかないかもしれない。僕が魂狩りを倒してくるからその間、ミネルさんを止めておいてほしい」
「了解です。では早速ですがこれに乗ってください」
そう言ってオルカが差し出してきたのは先程まで倒していた金属製の人形の残骸である。
「これに乗れば爆発に直撃はしないはずです」
「う~ん、全然信用できないけど今はそんなこと言っている暇はないな」
ミネルの身はもちろんだがそれ以上にレオンの身が危ない。なにせレオンの顔に書かれた死期は間近まで迫っている。
もしかすれば今回のこの事件が原因であるのならば一刻を争う事態であった。
「ではご武運を」
「そっちもな」
そう言うとオルカが打ち出した爆発魔法によってオリベルの体はすさまじい勢いで上空に浮かぶ巨大な城へと吹き飛ばされていくのであった。
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