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53話 城の内部

「相変わらず趣味の悪い城ね」


 地上でオリベルとオルカが魔獣を倒している間、ミネルは単身で空へと浮かぶ城へと乗り込んでいた。

 本体を倒せば地上に居る人形たちは皆、崩れ去るというのになぜミネルが一人で乗り込んだのか。


 それにはとある理由があった。一つは地上の人形たちの進行による人的被害を防ぐため。

 仮に魂狩りを倒せそうになったとしても村を襲う指示を出されてしまえば、上空に居る騎士は魂狩りを逃がして村を救いにいく選択肢を取らざるを得ない。


 以前はそれが理由で取り逃がしてしまったのだ。それとミネルにはもう一つの理由があった。


 城の壁を破壊して進もうと試みるミネル。しかし、破壊した傍から再生していき、思うように進むことが出来なず、その場で舌打ちをする。


 この城自体にも魂が込められており、かなりの魔力を纏っている。

 破壊できている時点でミネルの力は相当凄いわけだが、なにせ何十人もの魂をつぎ込んで作り上げられた城であるがゆえにその再生力は目を見張るものがある。


「出たわね」


 城を守る鎧を被った騎士のような出で立ちをした人形たちが次から次へと廊下に現れていく。

 そのどれもが今までに現れたどの人形よりも遥かに魔力量も多く、遥かに膂力もある。


 そんな鎧騎士達を拳に纏う無色の魔力で次から次へと破壊していく。ミネルが拳を放つたびに大気が震え、地鳴りが起こる。


 倒しても倒してもキリなく現れる鎧騎士達。普段のミネルであれば玩具が増えて楽しいと言うであろう。しかし、今のミネルにはそんな感情は一切見えない。

 代わりに早く敵の本体を倒したいと希うほどに焦りが見える。


「じれったいわね!」


 地面を蹴り、城の天井ギリギリまで飛び上がると、ミネルは真下に居る鎧騎士達に向かって拳を構える。


千衝波(せんしょうは)


 無数に打ち出されるミネルの拳から数えきれないほどの衝撃波が放たれ、鎧騎士達を次から次へと屠っていく。


「これでだいぶ減ったかしら?」


 至る所にあるクレーターを眺めながらミネルが呟く。これで半数以上は先程の攻撃で破壊され、消し飛ばされただろう。


 だが、今回のミネルの目的はあくまで魂狩り本体の討伐だ。


 力を温存しておきたいと判断したミネルは半数以上が減った光景を眺めて戦闘態勢から本体を探す態勢へと意識を切り替える。


 空を蹴り、城の廊下を滑るように飛んでいくミネル。


 その速さについていける鎧騎士は居ないため、あとは新たに遭遇する鎧騎士達を破壊していくだけでサクサクと探索を進めることが出来る。


 そうして幾度か鎧騎士達を屠っているとようやく大きな扉の前へと到着する。

 所々に骸骨の装飾が為されたおどろおどろしい巨大な扉。その奥に眠っている者がどれほど強大な存在かは想像に難くない。


「やっと……やっとこの場所に戻ってこられた」


 何かを思い出すかのように目を瞑るミネル。そして次の瞬間には勢いよくその大きな扉に向けて拳を放っていた。


「魂狩り! アンタの悪事もここまでよ!」


 中にあるのは玉座の間のような荘厳な装飾が為された大きな部屋である。本来ならば玉座があるであろう場所には何もない。

 代わりに宙に大きな椅子が浮かんでおり、そこに何者かが座っていた。


「来たかい? 我が()よ」

「その声……やっぱりまだその姿だったのね」


 クリーム色の短い髪の青年が椅子の上で不敵な笑みを浮かべている。その顔にはどこかミネルの面影もある。


 魂狩りはかつてミネルの兄の魂を食らいその姿を奪った魔獣。ミネルと対峙している今もなお、当時のミネルの兄と同じ見た目をしている。


 これがミネルが一人で城へと乗り込みたかったもう一つの理由。ミネルが騎士団へと入団して間もなく、魂狩りによって姿も魂も乗っ取られてしまった兄の救出が狙いであった。



 ♢



 ミネルがまだ騎士団に入って間もない頃、同期として入団したまだ若い頃のリュウゼンが激しく息を切らしながらミネルの下へ走ってくる。


「おいミネル! 大変だぞ! この村、お前んとこじゃないのか?」

「見せて」


 リュウゼンが持ってきた任務の詳細が書かれている指令書を奪い取ると、その仔細を眺めていく。

 リュウゼンの言う通り、確かに被害地にはしっかりとミネルの村の名前が書かれていた。


「……本当ね」

「新種の魔獣だってよ。下手すりゃ危険度Sくらいあるんじゃねえか? 楽しみだぜ!」

「リュウゼン君。ミネルの前でそれはないと思うわよ」


 故郷が被害に遭っているミネルの目の前で喜ぶリュウゼンを窘めるようにしてクローネがそう言う。


「いや悪い悪い。つい強い奴が居たら楽しくなっちまうからよ」

「てめえには人の心ってもんがねえのかよ」


 そうやってリュウゼンを非難するように言うのはディオスである。

 同期の様な仲の良さを見せる四人。しかし厳密に言えば同期ではない。


 この頃のウォーロット騎士団はまだ年に十人程度しか合格しないため、入団時期が五年程度しか変わらなければ同期と同じように扱われるのである。

 この中ではリュウゼンが一番古く、ミネルが一番新しかった。


「だってさ、この魔獣が強ければ強い程、第十部隊から昇格できるかもしれねえだろ?」

「ミネルの気持ちも考えてみろ? まったく、お前が次期隊長かもしれねえなんて世も末だな」

「何だと?」

「ああ? お前とはやんねえぞ? 俺が負けっからな」


 ディオスとリュウゼンがそう言い争っている中、ミネルは一人、指令書を真剣に読み込んでいた。少しして指令書を放り投げると三人の下から離れていく。


「おいミネル。出発は明日だからな。ちゃんと準備しておけよ」

「分かってるわよ」


 そうやってぶっきらぼうに言うミネルの顔には強めの口調とは裏腹に焦りが浮かんでいるのであった。

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