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49話 呪い

「できた……やっとできた!」


 既に日が落ちている中、オリベルは自身の腕に纏われている黒い鎧のような物を見て喜びの雄たけびを上げる。


「まさか一週間で片腕とはいえ具現化に成功するなんてね。手までしか無理だと思ってたのに」


 オリベルの腕に纏われた黒い腕甲。肩から鋭利な突起が飛び出しているその異質さは人ならずものではの迫力があった。


「おう、終わったか?」

「リュウゼンか。今終わったところだよ」

「どれどれ……って厳ついな、それ」


 オリベルの右腕を纏う具現化された不死神の黒い腕甲を見てリュウゼンが言う。そのおどろおどろしい様相を見れば、とても正義の騎士団には思えないだろう。

 リュウゼンが厳ついというのも頷ける。


「まあまだ不死神の属性魔法を使えるようになったわけじゃないけどね。それは封印を解放してからの話だし」

「ありがとうございます。これで目的に一歩近づけたような気がします」


 不死神の魔力を解き、グラゼルに礼を述べるオリゼル。魔力を解けばオリベルの腕に纏われていた黒い腕甲が消えていた。

 神の属性魔法が使えずとも神の魔力はある程度使える。そのため、まだ憶測の範疇を出ない話ではあるが神の力で死期の力を変えられるようになるという目的については近づけている。


「それじゃ僕は帰るから。ていうか前線に行くだけだけどね」

「今回は何日かかるんだ?」

「さあ。結構大規模な侵略があったらしいからいつもより時間かかるかも」

「第一と第二も行くのか?」

「そうだね。あとは第三も来るかな」


 通常であれば第二部隊までが前線へ赴き、第三部隊は王都周辺の任務兼、王都の護衛をしている。その第三部隊までもが前線へ向かうということは今回の遠征の規模が今まで以上のものであることを物語っている。

 それじゃあ、と二人に手を振ってその場を後にするグラゼル。リュウゼンはその背中を少し見送った後、オリベルの方へ向く。


「オリベル。てなわけでお前も任務だ。俺は今回、王都へ招集がかかっててな。すまねえが、オルカとミネルの三人で向かってもらう」

「了解です」


 ミネルとの初任務。それも落ち込んでいるミネルとの初めての任務だという事で少し不安になるオリベルであった。



 ♢



「さて向かいますか」


 任務当日、相変わらず無言のまま歩いているミネルと共にオリベルとオルカがグランザニアから任務先へと出立する。


「一応、確認を。今日の任務は村周辺に現れた謎の魔獣の討伐任務です。何でも呪いを振りまく魔獣が現れたらしくて……」


 オルカがそこまで言うと、それまで落ち込んでいたはずのミネルがバッと顔を上げてオルカの方へと顔を近づける。


「呪い?」

「はい。一応、ミネルさんにもリュウゼン隊長から聞いていたと思いますが」

「あいつの話なんて聞いてるわけないでしょ。それにしても呪いね。被害者は?」

「まだ一人みたいです」

「分かったわ。それじゃあ早めに向かった方が良いわね」


 落ち込んでいるかと思えば突然やる気を出して任務先へと急かすミネル。それに二人は不思議そうな顔をしながらついていくのであった。


 それからしばらく歩き、オリベル達は件の魔獣による被害に遭っている村へとたどり着く。カリコン村の時とは違い、なんの防護壁もない、どちらかといえばオリベルの故郷の村に近い平凡な村である。

 そんな村の中は今、活気はなく外には子供たちの姿が見当たらない。その代わりに革の鎧を着た大人たちが周囲を見張っており、殺伐とした空気が漂っている。


「騎士様ですか? お待ちしておりました! ではではこちらへ」

「任務の概要はある程度聞いてるわ。呪いの被害を受けた人のところへ案内して」

「へ? は、はぁ。分かりました」


 ミネルの物言いに若干戸惑いながらも話しかけてきた男が案内していく。三人が案内された場所は村の少し奥の方に位置している家の前であった。


「こちらに住んでおります女性が一人、呪いを受けておりまして」

「そう。入るわね」

「あっ、ちょっと」


 ミネルがズカズカと家の中へと入っていく。ミネルの突然の変化に若干戸惑いながらもオリベルとオルカもそれについていく。


「どうされたのですか、ミネルさん」

「症状が見たいのよ。もしかしたら私の知っている呪いかもしれないから」

「なるほど」


 そんな三人の前に突然一人の少女が現れる。その眼は明らかにいきなり家の中へと入ってきたオリベル達に怯えていた。


「だ、誰?」

「騎士よ。呪いを受けた人はどこ?」

「騎士様? それってお母さんの病気を治せる人なの?」

「そうね」

「分かった! 案内するね!」


 ミネルの言葉を聞くと顔を眩い程に輝かせてその少女が案内してくれる。階段を上がり、そのまま二つある部屋のうち、右側の部屋の扉を開ける。

 その中にはベッドに横たわっている一人の女性と剣を背負った十歳ほどの幼い少年の姿があった。


「お兄ちゃんお兄ちゃん! 騎士様だって! お母さんの病気を治してくれるんだってさ!」

「騎士様?」


 少年は少女の言葉にオリベル達の方へと振り返る。そうして三人の顔を見定めるようにして眺めると溜息を吐く。そして落胆するかのようにこう言い放つのであった。


「なんだ神殺しじゃないのか」

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