48話 同化
「昨日ぶりだね、オリベル君」
リュウゼンによって連れていかれた場所はオリベル達の部隊の訓練場にある大きな運動場のような場所である。そこでは騎士たちが日課のランニングが出来るように広々とした敷地が存在する。
そこで待ち構えていたのはあの神殺しナンバー2であるグラゼル・シルバーである。
「指導者ってもしかして」
「ああ。グラゼルがお前の指導者だ。お前と同じ適合者はあいつしか居ねえからな」
適合者というのはオリベルやグラゼルのように神の武器と適合できた者の事を指す。
「神殺しは忙しいんだけどね。リュウゼンがどうしてもって言うから」
「ちげーよ! お前が後で責任をもって指導するからオリベルを不死神の武器と適合させてくれって頼んできたんだろうが」
「あれ、そうだったっけ?」
あっけらかんと後頭部をかいておどけるグラゼルに相変わらずだなと溜息を吐くリュウゼン。
「二人とも意外と仲良いんですね」
「ん? いや仲良くなんて……」
「そりゃあ仲良いよ。だって同期だし」
「え、そうなんですか?」
「……まあそうだな。仲良くはねえが」
「またまた~」
グラゼルがニコニコしながら肩を組む。それをリュウゼンは苛立ちながら払いのける。その様子を見てやはり仲が良いのだなとオリベルは認識する。
リュウゼンはこの年齢で隊長になれていた優秀な騎士である。しかし、グラゼルは同じ年で更に神殺しのナンバー2という地位にまで上り詰めている超天才である。
その美しい容姿も相まって世間では英雄ステラと二分するほどに人気があるのだ。
「てことで後は任せたぜ。俺は他の用事があっからよ」
「はいはーい。頑張れ~」
「うっせえ」
そうしてリュウゼンが二人から離れていく。
「さてと、リュウゼンも居なくなったことだし早速訓練を始めようか。ただ、僕は神殺しとしての任務を果たさなきゃいけない。次の長距離遠征までは一週間しかない」
さらに続ける。
「この一週間でオリベル君にはとある一つの技術を身に着けてもらおうと思う」
「技術?」
「そう技術だよ。僕が戦闘している時のことを覚えているかい? いつも銀色の鎧みたいなのを纏っていたと思うけど」
そう言われてオリベルは微かに見えていたグラゼルの戦闘を思い出そうと記憶を探る。そして確かに鎧のような物を纏っていたことを思い出す。
「そういえばそうですね」
「それがもう一つの技術、僕ら適合者だけが使える特殊な力、神との『同化』だよ」
「神との同化……ですか」
「そう。それをすればようやく神の力を自由に使えるようになる。とは言っても不死神の力はまだ封印されたままだから完全に使えるようになるわけじゃないんだけどね」
「なるほど」
同化というのは適合の次のステップである。適合でようやく神の力の一端を使えるようになり、同化することで疑似的に神となることでまるで本物の神の様に力を振るえるようになるという訳である。
「因みにこれ以上封印を解くことってできるんですか?」
「それは出来るけどお勧めしないかな。不死神は神の中でもトップクラスに強い力を持っている。多分、20%以上解放したら今の君じゃ一瞬で消し飛ぶと思うよ」
「そんなにですか」
垣間見えるグラゼルの真剣な眼。その言葉が冗談ではないことが見て取れる。
「じゃ早速始めようか。大丈夫、暴走してもまた僕が止めてあげるから」
♢
「それで何だこの有様は」
日が傾きかけてた頃、戻ってきたリュウゼンが至る所がボコボコになった大地を見て溜息を吐く。
「うん、思ったよりも不死神の力が強くてね」
「すみません」
結局、同化する過程で不死神の力が暴れ狂ってしまったのだ。一度適合しているため、完全に意識が飲み込まれることはなかったのだが、魔力だけで意思を持った怪物の様に不死神の力が暴れはじめたのである。
「まあディオスに働かせるから別に良いけどよ。進捗はどうだ?」
「具現化まではしていないけどちゃんと不死神の魔力を纏えるようになった感じかな」
見るとオリベルの周囲には元々持っていた白い魔力だけでなく不死神由来の黒い魔力も纏っているのが分かる。この黒い魔力が鎧や防具の形で具現化することが出来れば初めて同化が完成することになるのだ。
「にしてもオリベル君の成長速度は凄いね。一日でここまで出来るのは素直に凄いよ」
「ありがとうございます」
グラゼルの言う通り、実際オリベルの成し遂げたことは歴史上で見てもかなり凄いことであった。神の魔力を纏えるようになるのは才能を持った適合者が三日かけてようやく習得することが出来る力だ。
そこから計算してグラゼルは一週間もあれば同化の基礎は作れるのではないかと考えていたのだ。
「これはもう少し先まで教えられそうだな」
既に平然な顔をしたまま不死神の魔力を制御しきることに成功しているオリベルを見てグラゼルはそう呟くのであった。