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47話 昇進

 次の日、オリベルとオルカは二人で馬車に乗り、王都からグランザニアへと戻る。昼くらいに第十部隊の訓練場に到着すると二人は早速音がする演習場へと足を運ぶ。演習場にたどり着くと少し苛立っている雰囲気を醸し出すリュウゼンの姿があった。


「ただいま戻りました」 

「遅かったじゃねえか……まあしゃあねえか」


 先程までは苛立つ顔をしていたというのに直後に笑顔で二人を出迎える。リュウゼンという男は基本的に悪戯をするのが好きな男だ。こうして怒っている様子を見せて反応を楽しむという変な趣味を披露していた。

 ただ、オルカとオリベルに対しては何の反応も得られなかったため、すぐさま切り替えたわけだが。


「お前ら二人を待ってたんだ。今日は任務もないしパーッと祝おうじゃねえか」

「祝う?」


 リュウゼンの言葉にオリベルは首を傾げる。


「聞いて驚くなよ? 今回の妖精蝶の調査任務でな、なんと俺達の部隊が……」

「第五部隊に昇進したのよ~。凄いでしょ~」


 リュウゼンがカッコよく言い放とうとした言葉を横からクローネが奪い去っていく。


「お、おいクローネよ。それは俺が言いたかったことで……」

「てかオリベル。お前、不死神の鎌と適合できたのかよ。すげーな」

「それほどでも」


 更に横合いからディオスが現れ、リュウゼンの悔しげな声が遮られてしまう。


「俺の隊長としての威厳はどこへ行きやがったんだ。ていうかそれ以前の問題じゃねえか」


 四人で楽しそうに話しているのを遠目に見ながらリュウゼンは何故か隊長である自身だけ蚊帳の外へと追いやられているという耐えがたい現状を嘆く。


「あれ? そういえばミネルさんが見当たらないですね」

「あー、それがね。前の妖精蝶との戦いでこっぴどくやられたでしょ? それで落ち込んでいるみたいで」


 そう言ってクローネが指さす方向には以前とは比べ物にならないほどに暗い表情をしたミネルの姿があった。今も訓練すらせずに端っこの方でいじけている。

 リュウゼンが先程、部屋に引きこもってばかりのミネルを引っ張り出してきたところであった。今も訓練をせずにただ地面を眺めるだけの置物と化してしまっている。


「私ちょっと声かけてきます」


 オルカがミネルへと歩み寄る。そうして後ろからトントンとミネルの肩をたたく。


「ミネルさん。私と勝負しませんか?」

「嫌よ。どうせ私、弱いし」


 以前であればオルカの誘いを断るはずもないミネル。しかし、今となってはその片鱗すら見当たらない。手合わせの誘いも断りまた部屋へと戻っていってしまう。


「重症ですね」

「あそこまでこっぴどくやられたことが無かったからかしら?」

「でも入団試験の時に負けてるんじゃ」

「その時はまだあそこまで勝気じゃなかったからな」


 最初はおとなしく控えめであったミネル。しかし、ある時期を境目に突然、勝気な少女となって戦闘狂への道を歩み始めたのだ。

 それからというもの、任務を失敗することはあっても戦闘で負けることはなかったという。


「そういえばあれからだよな。ミネルがやけに戦闘好きになったのって」


 リュウゼンが何かを思い出したようにクローネとディオスに話しかける。


「ん? なんかあったか?」

「あったじゃない。ほら、ミネルのお兄さんの件」

「そういやそんなのあったな。あんまし思い出したくねえ話だがよ」


 オリベルとオルカを除いた三人で表情を曇らせながら話し込む。その雰囲気の重さが話題であるミネルの兄に起こった顛末が何か不吉なものであるという事を二人は容易に察することが出来た。


「ま、こんなこと話しててもしょうがねえ。取り敢えず今日はミネル抜きで楽しもうや。あいつが元気になりゃもう一回祝えば良い」


 リュウゼンの言葉で話が終わる。買い出しに向かう者、演習場に机を出したり調理器具を出したりと会場のセッティングに取り掛かる者に分かれるのであった。



 ♢



 小鳥の囀りでオリベルは目を覚ます。昨日は第五部隊へと昇進した祝いで夜遅くまで飲み食いしていたというのに、オリベルの起きる時間は早い。

 村の手伝いではどれだけ夜遅く寝たとしても朝早く起きるのが普通なため、慣れているのである。


「……母さんごめん。父さんの形見、折っちゃった」


 机の上に置いてある父の形見を眺めながらそう呟く。父が唯一残した形見。そんな大事なものをマーガレットがオリベルに預けた理由はオリベルが遠く離れた地でも頑張っていけるようにという願掛けのためである。

 オリベルはそれを理解していた。大事に手入れもしていた。それなのに妖精蝶との一戦で刃を折ってしまったのだ。

 柄に締まった真っ二つに折れた父の形見。それを机の中へとしまい込むと、オリベルは近くに立てかけてあった大鎌を手にして、部屋を後にする。

 今までの剣とは勝手の違う、大鎌という武器。それにいち早く慣れるために、朝早くから練習しようという心づもりなのである。

 階段を降り、騎士寮を抜ける。まだ日も上がっていないそんな朝早くに誰かとすれ違うはずもなくオリベルはただ一人、演習場を目指し歩いていく。


 そうしてまだ仄暗い演習場へと到着すると背負っていた大鎌を構え、虚空に向かって軽く振るってみる。


 黒い斬撃が演習場内部の地面を削り取り、そのまま轟音を鳴らして壁へと激突する。軽く放っただけでこの威力である。強い力を有する武器というのは制御するのが難しい。


「……まだ完全な制御はできないな」

「何が完全な制御はできないな、だ。朝っぱらから演習場ぶっ壊しやがって」

「隊長」


 オリベルの背後から声を掛けてくるのはリュウゼンである。彼もまた早くに起きて訓練をするつもりで演習場へと足を運んでいたのだが、突然何かの破砕音が聞こえたために慌てて様子を見に来たのだ。


「すみません」

「まあ良いけどな。ディオスに直させるから」


 深く抉れた大地に壁。そのすべてを土属性魔法が使えるという理由だけで酷使される先輩騎士にも心の中で謝罪をしながらオリベルは再度、大鎌を背負う。


「ていうか勝手に訓練するんじゃねえ。お前にはちゃんと指導者を呼んでるんだからよ」

「指導者?」

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