45話 王都での遭遇
不死神の鎌と適合したオリベルは少し話した後、すぐに解放されて王城から出る。帰りにグラゼルに送ろうかと言われたがそれを断り、一人で町へ出る。
その背中にはしっかりと不死神の鎌を背負っている。地下室で魔力が漏れ出していたこの危険な鎌も今となればオリベルによって制御され、力が外へ漏れることはない。
大鎌という少し変わった武器ではあるが、騎士団員の中には変わった武器を持っている者も多いため、多少は目立つものの特筆して目立つというわけでもない。
そのため、不死神の武器であるという事は事情を知らない民間人には分かりようがないだろう。そういう国王の言葉もあってオリベルは自然と鎌を背負ったまま王都の町へと出ていた。
かなり時間が経過してしまい、今日中にグランザニアへと戻ることが不可能であると悟ったオリベルはとある場所を目指していた。
その道中、オリベルの視線の先に見覚えのある人物の姿が現れる。
少し俯き気味に歩き、顔を判別しにくいが魔力の感じやウォーロットの騎士団員しか身に着けない黒い制服で誰なのかをすぐに悟ったオリベルは走り寄って声を掛ける。
「よっ。オルカも王都に来てたんだな」
「オリベル……そういえばあなたも王都に呼ばれていたのでしたね。すっかり忘れてました」
オリベルに話しかけられたオルカは驚いたような顔でそう言った後にまた少し暗い顔に戻ってしまう。
「何かあったのか?」
「いえ。少し親と喧嘩しただけです。それよりもその大きな鎌……適合できたのですね」
「うん。結構ギリギリだったけどな」
「でしょうね」
「おい。そこは信じてた、とかじゃないのかよ」
「信じてはいましたとも」
そこでようやくオルカの顔に笑顔が戻る。それを見たオリベルもそれ以上の追及は止めにする。
「そういえば晩御飯はまだ? 今からキャッツに行こうと思ってるんだけど」
「良いですね。行きます。王都に来てから何も食べていませんので」
そうして二人はあの猫の獣人が切り盛りしている宿屋兼ご飯処の『キャッツ』へと向かうのであった。
♢
「いらっしゃいませ~。ってオリベルさんとオルカさんじゃないですか! お久しぶりです~」
キャッツに入るとあの快活な猫耳の少女、アーリが真っ先に二人を認識し、近寄ってくる。その後ろにはいつになく十人程度の客が楽しそうに食事をしている姿が見える。
「久しぶり」
「はい! ていうか聞いてくださいよ! あの後、お二人が来てくれたおかげでどこから広まったのか騎士様愛用の食事場所ってことで地道に人気が出てきたんですよ!」
「いやいや、僕達はただ普通に利用させてもらってただけだよ。人気が出たのはアーリさん達の実力さ」
「ですね。新米騎士の私達にそんな影響力はありませんし」
オルカに関して言えば影響力がないなんてことはないだろう、という言葉を胸の内にしまいながらオリベルは聞き流す。別に今言う必要のないことだ。
「またまた~。今も皆さんの注目を浴びてるじゃないですか」
アーリの言葉で確かに自分たちがやけに見られていることに二人は気が付く。ウォーロットの騎士団員というのはそれだけでかなりの地位になる。
魔獣の支配から自分たちを解放する救世主、そんな見方をされている騎士団員たちは基本的に民衆からは尊敬のまなざしを向けられることが多い。
しかし普段は訓練場もしくは町の外へと繰り出している二人からすればその視線は意外なものであった。功績を立てることで注目されるのは分かるが、その肩書だけで注目されるとは思っていなかったのだ。
「あなたが変な武器を持っているからじゃないのですか?」
「変な武器言うな」
「あはは、それもあるかもしれませんね……っとお仕事しなくちゃ。今日はお泊りですか? それともお食事のみにしますか?」
「僕は泊りで。オルカはどうする?」
「私も泊りでお願いします」
「は~い。後、朝晩のご飯はご入用ですか?」
「お願いします」
「承知しました~。ではまずはお部屋にご案内しますね~」
前まではおかみさんが注文を聞いていたのが最近はアーリが聞くようになっていた。忙しくなったため、わざわざ奥で作業をしているおかみさんを呼んで聞くのは効率が悪いからであろう。
それにアーリが単純にその業務が出来るようになったというのもあるが。
それから二人はアーリによって前と同じく当然のように二人部屋へと案内される。
「また晩御飯が出来ましたらお呼びしますので。それではごゆっくり~」
ニヤニヤしながら扉を閉めるアーリ。何故笑みを浮かべているのが分かっていないオリベルの横でオルカは一人、頬を赤く染めていた。
「……別にそんなんじゃありません」
「ん? なんか言った?」
「いえ、何もありません」
確実に何か言ってはいたがそれ以上の追及はしない。こういう時は無理に聞き出さないほうが良いのだと母であるマーガレットから聞かされていたのだ。
オリベルは早速背負っている不死神の鎌を下ろし、ベッドの近くの壁に立てかける。いつ見てもその銀の刃に刻まれている紋様は美しい輝きを放っている。
「取り敢えず私はお風呂に入ってきます……前みたいに覗かないで下さいよ」
「覗かない覗かない! ていうか前もわざとじゃないよ!」
「どうだか」
そう言うとオルカは今度はしっかりとタオルを持って脱衣所へと向かうのであった。