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44話 適合者

「はあ、はあ、はあ。くそ、流石に強いな」


 疲労ゆえに壁に寄りかかるグラゼル。その視線の先には黒い鎌を構え、赤い瞳を光らせたオリベルの姿があった。

 完全に不死神の魔力へ意識を飲み込まれてしまい、その瞳には何の感情も浮かんでいない。

 ただ淡々と目の前の敵を屠るためだけに動いていた。そしてその強さは美神と同化したグラゼルでさえ抑えきれないほどに強かった。


「想定外だね。まさか封印された状態でもこんなに強いなんて」

『まあ不死神に関してはそうね。神の中でも最上位に位置する神だもの』

「君よりも強いのかい?」

『そうよ。だから嫌いなの』


 プライドが高く、それに見合った実力を持っている筈のディーネがそこまで言う相手。


「てことは殺す気でいかなきゃこっちが殺されるって訳か」


 今までは怪我をさせてでも止めるつもりだったグラゼルの意識の中に初めて殺意というものが芽生える。

 それは怒りなどの感情から来たものではない純粋無垢な殺意。

 もしかしたらオリベルの意識を取り戻せるのではないかという希望を捨て、完全に対象を抹殺する事に重きを置く。


「オリベル君、すまない!」


 グラゼルが駆け出す。それと同時に銀の槍がオリベルを貫かんとして襲いかかる。

 それをオリベルは真っ白な魔力のみで吹き飛ばす。

 しかし、グラゼルの狙いはまさにそこであった。防御した瞬間に現れる隙。

 そこを狙ってグラゼルは斬撃を放つ。放たれた斬撃は一つ、二つと分裂していき、やがて幾重にも連なる斬撃へと変貌を遂げる。

 まさにオリベルの首筋を目掛けて斬撃が食い込まんとしたその時、真っ赤に染まっていたはずの瞳が元の綺麗な金色へと変化する。


「……え?」


 意識を取り戻した瞬間にオリベルは自身が絶体絶命のピンチに晒されている事を理解する。

 オリベルの先読みの力を以てしても回避するのは難しい。

 目の前には自身の渾身の一撃でも傷をつけられなかった妖精女王の体をいとも容易く八つ裂きにした斬撃である。

 オリベルが取れる行動はすでに限られていた。

 取り敢えずものは試しにと手に持つ黒い鎌を思う通りに迫り来る斬撃へと振るってみる。


 その瞬間、黒い斬撃がグラゼルの放った斬撃を飲み込み、さらに強大な力となって地下室の壁に大きく抉る様な傷をつける。


「へ?」


 思っていたよりも強く放たれた自身の攻撃に呆然とする。脅威を取り除けられればと思って放っただけの斬撃は見たこともないほど大きく、恐ろしいものであった。


「オリベル君? オリベル君なのかい?」


 自身の力の変化を確認するかの様に黒い鎌を眺めるオリベルにそんな言葉がかけられる。

 つい先ほど、オリベルの斬撃によって死にかけたグラゼルであった。


「はい」

「本当か! こりゃ凄いな。まさかあの状態から正気を取り戻すなんて」

『私も驚いたわね。完全にあいつに持っていかれていたはずなのに』


 オリベルが意識を取り戻した事にグラゼルとディーネまでもが驚きの声を上げる。

 その中でオリベルは現実世界の自分に何が起こったのかを知らないため、状況を理解できていなかった。


「その鎌を持っていても大丈夫なのかい?」

「はい。特に問題ないです」


 手に持つ美しい黒い鎌を地下室の明かりに照らしてみる。

 果たして自分が適合しているのか、そんな実感が湧くことはない。

 だが、体調を崩したり魔力を奪われたりする感覚がないため、オリベルは問題ないと口にした。


「ですがグラゼルさんの武器みたいな声は聞こえないですね」

「封印されたままだからじゃないかな?」

『そうね。封印された分、力が弱いからあの状態からでも意識を取り戻せたのかも。封印されてる分、使える力も少なくなるけど』


 ディーネ曰く、封印の度合いによってオリベルが使える不死神の力も変化するとの事。

 つまり、完全な力を使うには全ての封印を解いて、それに適合する必要があるわけだ。


「現状、不死神の力を何%くらい使えてるんだ?」

『多分1%ぐらいじゃない?』

「1%……これだけ頑張ってようやくそれなのか」


 ディーネの言葉にオリベルは愕然とする。オリベルが完全に不死神の力を使いこなせる様になるのに一体どれほど時間がかかるというのか。

 その果てしなさを想像して絶望する。


「まあ神の武器には違いないし、そんなに気に病む必要はないよ」


 グラゼルの言葉は決して励ましの言葉ではない。なぜなら、この少量の魔力しか解放できていない状態で拮抗した戦いを繰り広げていたのだから。

 本心から気に病む必要はないと言っているのだ。


「さ、兎にも角にもこりゃ大ニュースだ。なんてったって長年見つからなかった不死神の鎌の適合者が現れたんだからね! 早速陛下にお伝えしにいかないと」

「その必要はないぞ、グラゼルよ」


 意気揚々と国王の下へと凱旋を果たそうとしていたグラゼルの真横から聞き覚えのある声が聞こえてくる。いつの間にか国王が地下室の中へと入ってきていたのだ。


「不死神の魔力が感じられんようになったからな。まさかなと思って覗いてみたらたまげたよ。こんなにも早く不死神の力と適合できたとは。この年齢で神の力と適合できたなど前代未聞だぞ」


 グラゼルはリュウゼンと同い年である。そのため、神と適合したのは20代後半。

 それ以前に神の武器と適合した者も大体が20歳を超えている中、オリベルは15歳にして神の中でも最強格の不死神の力と適合することが出来たのだ。

 まさに前代未聞のビッグニュースである。


「ただ国民の期待を背負わせるにはまだ早い。せめてその力を十全に発揮できるようになるまでは民には伏せておこう。グラゼルもそれで良いな?」

「承知しました。団員たちにもそう伝えておきます」

「よろしい」


 そう満足げに頷くと国王はオリベルの金色に澄んだ瞳をまっすぐに見つめてこう問いかける。


「君はこの力をどう使う?」


 その問いは神の力を手にし、破滅する者を生み出さないために慣習的に王族が行っている儀式のようなものだ。こう聞かれた者は大体が頭を悩ませる。

 なぜならあまりにも漠然とした問いだから。しかし、オリベルにとっては全くの愚問であった。


「運命を変えるために使います」

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