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32話 妖精蝶

 幻想的な輝く森の中の世界をオリベル達は進んでいく。いつどこから妖精蝶が現れるか分からない。警戒しながら進んでいく。


「俺達が南側から、第三部隊は三つの部隊に分かれて俺達とは北、西、東の方向から調査してくれているはずだ」


 比較的小さな森とはいっても規模的には全体を見渡せないくらいはあるため、ある程度散らばって調査していかなければならない。そのための策であった。

 第十部隊は分かれるほど人数は多くなかったため、全員での移動となっている。


「早速お出ましだな」


 光り輝く背の高い木々の間から次から次へと現れる巨大な蝶の魔獣。その羽は噂通り透明ながらも時折、虹色に光を発する。


「私が一番乗りよ!」


 妖精蝶が現れた瞬間、オリベル達の隣にいたはずのミネルが真っ先にそちらの方へと駆けていき、そのまま地面を蹴って妖精蝶の方へと勢いよく跳躍する。

 ミネルの武器は拳のみ。スウッと拳を引くと妖精蝶に向かって勢いよく拳を放つ。


「せいっ!」


 魔力が纏われた拳は大気を押しつぶし、爆発的な衝撃波を生み出す。これがミネルの衝撃波を生み出す魔法、無属性魔法である。

 ある程度の膂力があれば衝撃波を生み出すのは物理であっても可能ではあるだろう。

 しかし、ミネルの生み出す衝撃波は魔力を変換して生み出すものだ。それゆえに通常よりも更に強力な衝撃波が妖精蝶を襲う。


「まずは一匹目」


 妖精蝶を倒し終えたミネルはそう呟くと、空中を蹴る。すると、ミネルの足元に衝撃波が生み出され、次の妖精蝶の下へと飛んでいく。

 こうしてミネルは翼を持たずとも魔力さえあれば常に空中を移動することが可能なのである。


「たくっ、勝手に飛び出しやがって」


 縦横無尽に妖精蝶を狩っていくミネルを見てリュウゼンは深くため息を吐く。

 以前まではミネルと共に暴れまわっていた彼も隊長となり隊員の命を預かる立場になってからというもの暴れまわる者の制御が如何に大変かという事を知った。

 それゆえに最近はミネルの言動を見るたびに先代の隊長に対して申し訳なくなるのであった。


「まあミネルは放っておいても死なんだろ。あの妖精蝶の群れはあいつに任せて俺達は先に進むぞ」


 そんな様子はまさに第十部隊の連携の悪さを表していた。個々では強い、ただ連携力が無いのが第十部隊の唯一にして最大の欠点であった。

 妖精蝶たちは一際目立っているミネルに釘付けだ。それを良いことに十数体の妖精蝶をミネル一人に任せ、オリベル達は先を行く。


「まあまあの数いたと思うんだがな。こりゃ一角狼以上だ」


 つい先ほど十数体の群れと遭遇したというのに次はそれよりもさらに大勢の妖精蝶の群れと遭遇する。

 数十体はいるであろうか、その妖精蝶たちが一斉に巨大な羽を仰ぎ、無数の竜巻を生み出す。


「ディオス」

「あいよ!」


 リュウゼンに名を呼ばれ、自分の出番を悟ったディオスは前線へと立ち、そのまま地面へと手を付ける。

 その手から魔力が流れていき、やがて全員を守るように大きな土の壁が聳え立つ。

 その土壁の強度は妖精蝶の生み出した竜巻の数々をいとも簡単に防いでいく。これがディオスの属性魔法、土属性の魔法であった。


「行きます!」


 守られている土壁の中からオルカが爆発魔法を展開する。見えていなくとも一度座標さえ覚えてしまえばその場所で爆発を起こすことができるという超人じみたオルカの能力。

 通常ならば扱いが難しい爆発魔法を使いこなせているのはオルカが築き上げたこの力によって可能にしていた。それにより、飛んでいる妖精蝶たちを次々と墜落させていく。


「今だ! 総員かかれ!」


 オルカの爆発魔法によって怯んだ隙に第十部隊の皆が妖精蝶たちへと攻勢を仕掛ける。クローネによる闇属性魔法により、視界を失った妖精蝶をオリベルが斬る。

 黒い焔を纏いながら次々に妖精蝶を斬っていくリュウゼン、そして爆発魔法と持ち前のスピード力による凄まじい速さのオルカのレイピアが貫き、ディオスが作り出した巨大な土の腕が捻り潰していく。


 その戦いぶりはずっとウォーロット騎士団最下位に位置する第十部隊とは思えないほどである。この強さは騎士団に入団してから努力によって身に着けた力である。

 現在ならば入団時には負けていた同期の騎士たちにも勝るとも劣らない実力を持っていた。


 ただ、いくら力が強くとも数には勝てない。部隊の順位はその部隊の功績によって決まる。

 他の部隊よりもはるかに数が少ない第十部隊が昇格するためには圧倒的な功績を一度で立ち上げていくしかない。

 そして一角狼の件に引き続き、今回の任務はまさにそのチャンスであるとリュウゼンは考えていた。それゆえにこの任務を絶対に成功させるという強い意志があった。


「オリベル、調子はどうですか?」

「もちろん良いよ」


 戦いの最中、背中合わせに話すオルカとオリベル。一瞬、なぜそんなことを聞いてくるのか理解できなかったオリベルだが、そう返す。


「ではこの動きくらい、付いてこられますよね」


 煽るように言うとオルカは地面を蹴り空中へと飛び上がる。その速さは常人では目で追えない程である。


「付いていけるさ」


 オリベルも負けじとオルカの後ろを付いていく。オルカの背中は一向に近づいてこない。それどころか更に引き離されていく。


 後方でオリベルの事を呼んでいる声。それにも耳を傾けず一心不乱にオルカの後ろを追いかけていたオリベルがたどり着いたのは妖精蝶たちの新たな群れのど真ん中であった。

 立ち止まったオルカがオリベルの方を向き、にこりと笑うと、その姿を変貌させていく。


 そこでようやくオリベルは自身が嵌められていることに気が付く。これがリュウゼンが言っていた妖精蝶の幻覚の力であると。

 そしてオルカへと姿を変貌させていた妖精蝶は通常種とは違い、本物の妖精のように人型に羽が生えた魔獣へと姿を変えていた。


「進化個体か」


 自身が置かれた状況の緊迫を感じ取ったオリベルはごくりと生唾を飲み込むのであった。

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