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31話 死の桃源郷

 合同訓練が始まり、日に日に近づいてくるオルカの死期にオリベルは何とかしなければという焦燥感で胸がいっぱいになる。

 合同訓練にも全く身が入らなかった。嘆息すると、自身の部屋のベッドの上に寝転がり、天井を見つめる。


「あと三日か……任務に行くのが二日後。そこでオルカの身に何かが起きるのかもしれない」


 このまま何も起こらずに過ぎ去ってくれと願っていたが、そうは問屋が卸さなかった。

 ちょうどオルカの死期に合わせるかのように任務が入ったのである。死期はいつも直近になるまでは日付しか分からない。

 三日経過した瞬間に訪れるのか、それともまだ猶予があるのかは今の時点では分からない。まさに死へのカウントダウンは突然開始されるのだ。


「気を引き締めないとな」


 自分だけがオルカの死期を知っている。自分だけがオルカの運命を変えられるかもしれない。

 そんな思いが余計にオリベル自身に焦りを生み出していることに本人は気が付かないままその日は眠りに就くのであった。



 ♢


 第三部隊との合同任務当日、オリベル達は平原の上を歩いていた。


「今回も魔獣討伐任務だ。討伐する魔獣は妖精蝶。一角狼の時と同じく突然大量発生したらしい」


 現在、第十部隊と第三部隊に分かれて任務先へと向かっている。

 前回と違って第十部隊は全員での参加となる。グランザニアの留守番は第三部隊の隊員に任せてあるのだ。

 妖精蝶というのは羽が透明で時折、虹色の光を放つ美しい魔獣の事を言う。魔獣とは言いつつも見た目は巨大な蝶だ。獣ではない。

 恐るべきはその大きな羽が生み出す竜巻。それに飲み込まれた者は体を八つ裂きにされるという。見た目に反して強靭な力で羽を振るい、風の刃を生み出すこともあるという。

 成熟した個体は魔力によって幻覚を見せることもあるため、一角狼よりも高い危険度Cに位置付けられていた。


「冒険者からの報告で判明したらしいが、村が近くになかったのとベテラン冒険者たちの狩場になってたので放置していたらしい。だが一角狼の報告をしたらもしかして……みたいな感じだな」

「フーン……あんたが言う進化個体だったら少しは楽しめそうだけど」


 ミネルが少し残念そうな声でそう呟く。今回の討伐任務がいつもの前線での任務と違って危険度が低めだからであろう。

 いくら進化個体と言えど流石に危険度Aを超えることはない。それが彼女に不満を覚えさせていた。


「任務が安全なのに越したことはねえよ」

「リュウゼン隊長の言う通りです」


 普段なかなかこういうことに口を出してこないオリベルが珍しく強い口調でリュウゼンに同調する。

 その事にミネルは少し虚を突かれ、普段なら突っかかるところをハイハイと口にして不満を胸の内にしまい込む。


「珍しいですね。あなたがこういうことに口を出すのは」

「そうか?」


 あたかも平然を装いながらオルカの指摘をやり過ごそうとするオリベル。だがオルカには効果が無かったようでより疑心の目を向けられることとなる。

 オルカの死期が近いことで死に繋がるような話題に関しては少し敏感になっていた。だからこそ普段ならば笑って流すことにも突っかかってしまったのだ。


「話すつもりがないのなら別に問いただしはしませんけど」

「そうしてくれると助かるよ」


 それからオリベルは人知れず焦燥感を抱きながら広々とした平原を歩いていく。

 しばらくして、前方に小さな光っている森のような物が見えてきたところでリュウゼンが足を止めて片手を挙げ、隊の進行を止める。


「この森が妖精蝶の住処だ」


 光り輝く森。それはある種、幻想的な光景でもあった。幻想的な光景であるがゆえに、それが妖精蝶の住処であることを知らない人間が迂闊に足を踏み入れてしまい、土の養分となることは多々あった。


「ここが噂に聞いていた死の桃源郷ですか」 


 オルカがポツリとそう呟く。輝かしく美しい、平原の中でポツリと世俗から切り離されたような異質感、されど足を踏み入れた者は二度と帰ってこられないという事から付いた名は『死の桃源郷』。


「へえ、幻覚を見せるっていう奴等にピッタリの名前だな」


 その名を知らなかったオリベルはそう言う。平原に突然現れた幻想的で美しい世界。目の前の景色を言い表すならばまさにその言葉であった。


「妖精蝶の羽持って帰りゃ、女の子が喜ぶんだよな~」

「ディオスくん? また女の子遊び?」

「な、何だよクローネ。別に良いじゃねえかよ」


 そんな二人の先輩騎士のやり取りを見てオリベルは大丈夫かと不安になる。一応、実力的には全然安心できることは訓練で知っているのだが。


「下らねえこと言ってねえでさっさと行くぞ」


 リュウゼンの言葉でオリベル達第十部隊は輝く森の中へと足を踏み入れる。


 踏み入れた瞬間に視界一杯に綺麗に光る木々が映し出される。果実すらも光り輝くその幻想的な光景はまさに桃源郷そのものであった。


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