28話 カリコン村からの帰還
苦悶の表情を浮かべながらオルカがオリベルの方に手を伸ばす。その上方には魔獣の脚のような物が今にもオルカを踏みつぶさんとして迫りゆく。
オリベルがオルカを助けるべく体を動かそうとするも何故だか全く動かない。その間にもオルカの顔の上に浮かんでいる秒数がだんだん減っていく。
それは自身の父親が死んだときに表示された死へのカウントダウンと全く同じものであった。
『オリベル……逃げ……て』
「オルカ!」
オルカの死へのカウントダウンが残り一秒となった時、オリベルは叫びながら飛び起きる。そこは先程までの荒れ果てた戦場ではなく、フカフカのベッドの上であった。
近くには突然名前を呼ばれて心底驚いているオルカの姿がある。オリベルが気を失ってからというもの、同期のよしみとして介抱していたのだ。
「な、何ですか? いきなり大声で人の名前を叫ばないでください」
「ご、ごめん。夢でちょっと」
オルカの顔の上には先程までの秒数のカウントダウンではなく、17歳2か月0日という赤い数字が刻まれているのが見えて安心する。
いや安心するというのも変な話ではあるが。
「夢で私が出てくるのも考え物ですけどね。もしかして良からぬ想像でもしてたのですか?」
「まあ良からぬものではあったね」
「……そういうことは本人の前で言わない方が良いと思いますよ」
「?うん、気を付けるよ」
オリベルが言っていた良からぬことというのは、オルカが死ぬ寸前の夢を見たということだ。
妙に噛み合ってしまったオルカの発言の意図が分からないまま取り敢えず頷く。
オルカが少し顔を赤らめてそっぽを向くと、更にオリベルの中で疑問が膨れ上がっていく。
だが、こういう時はあまり深堀りしないのが吉だとしてそのままにしておく。
「それで、一角狼はどうなった?」
「一角狼の任務はリュウゼン隊長が長を倒して達成しました。後はあなたの回復待ちでした」
まだ赤いままの顔を見られたくないため、オルカはそっぽを向きながらオリベルに事の顛末を語る。
それを聞き、今回の一件はオルカの死期とは関係なかったのかと少し悲しくなる。
「まあまさか三日も寝るとは思いませんでしたけどね」
「三日!? そんなに寝たのか」
自身が寝ていた日数を言われてオリベルは驚愕する。それと同時に待たせていた二人に申し訳ない気持ちになってくる。
「ごめん、待たせちゃったな」
「あなたが謝る必要はありません。あの厄介な魔法を突破するにはあなたの力が必要だったのですから。この休暇は無駄ではありません」
オルカの言う通り、長が持つ気配を消す魔法はオリベルでなければ対処できていなかった。
長を討伐したリュウゼンですらも長が気配を消したままの状態であれば倒せていたか分からなかった。
そんな時、二人のいる部屋の扉がガチャリと開く音がする。
「おっ! やっと起きたかオリベル」
「お陰様で」
「大丈夫そうで何よりだ」
腕には大量の食糧が抱えられている。ちょうど昼飯の買い出しに向かっていたところだったらしい。
近くの机の上にその食料をドカッと置く。
「ほら食え食え。食ったらもうここ出るぞ。陛下に報告しなきゃならねえことがあっからな」
「はい」
「了解です」
それから三人は飯を食べて、村を出る準備を進めるのであった。
♢
「騎士様。この度はカリコン村への脅威を取り除いていただき誠にありがとうございます。やっとこの恐怖から解放されたかと思うと……失礼」
村を出る直前、村長が涙ぐみながら三人に礼を告げる。今まで村の者が何人も一角狼の被害に遭っていたのだろう。
村長のその様子に周囲に居た村民たちも涙ぐむ。
「一角狼共のせいでこれくらいしか渡せるものはありませんが」
そう言って村長が野菜や果物を渡そうとしてくるが、リュウゼンはそれに首を横に振って断る。
「前も言っただろ? 礼なんか要らないって。俺達はウォーロットの騎士団だからな。国民の金で生きてんだ。助けて当然だ」
「いえ、これは私達の気持ちの問題なのです。受け取っていただかないと気が済まない」
新鮮な野菜や穀物。ただでさえ村では食料が足りないというのに村民が満場一致で渡すことを決め、村中からかき集めてきたものだ。
それほどにリュウゼンたちへ感謝の気持ちを抱いていた。
「う~ん、そんなに言われちゃあ断りずれーな。ありがとさん」
流石のリュウゼンもそこまで言われてしまえば断る理由が見当たらない。野菜や果物が入ったバスケットを手にすると素直に感謝を告げる。
「あと、こちら道中でお食べください」
「ありがとうございます」
別の村民がオルカへと三人分の弁当を手渡してくれる。至れり尽くせりとはまさにこのことだ。
「わざわざありがとうな。それじゃあ」
「本当に本当にありがとうございました」
村長が頭を下げると後ろに居た村民たちも一斉に頭を下げる。
それに軽く会釈をしながら三人は第十部隊の訓練場があるグランザニアへの道を歩いていくのであった。
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