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25話 真の長

 長を倒した三人の前に倒したはずの長と同じ見た目の一角狼たちが合計で十体ほど現れる。

 危険度Bほどであろうと予想される個体が十体……そして仲間の一人が負傷していることを考えればかなり絶望的な状況と言えるものであった。


「どうなってるんですか? あいつが長だったんじゃ?」

「分からん。俺もこんなのは初めてだ」


 進化個体が群れに何体も居るなどリュウゼンですら遭遇したことのないケースであった。


 十体の二足歩行の一角狼のすぐ近くに通常状態の一角狼達も居る。

 しかしどの個体もまばらに点在している為、どの一角狼に付き従っているのかは分からない。

 故に三人の目からどれが群れの長なのか判別することは不可能であった。


「取り敢えず、やるしかねえか」


 黒い焔を纏ったリュウゼンが駆け出す。


黒焔剣(こくえんけん)


 体を捻って回転をしながら地面から飛びあがり、全方位に向けて黒焔を纏った斬撃が放たれる。

 触れた者からその身を黒焔で焼かれていく。それは進化した個体であっても同じだ。


 黒い焔は魔力がある限りその浸食をやめることはない。それを防ぐには強固な魔力障壁を張るか魔力誘導によって体から取り除くか触れた部分を切り離すかしかないのだ。


 次から次へと身を焼かれていく一角狼達。しかし、10体も居ればそれを掻い潜ってリュウゼンの下へと踏み出す個体も居るわけで。


 火の手から逃れた一体の進化個体がその強靭な腕でリュウゼンの体を打ち抜く。

 その膂力は通常種を遥かに上回る。いかに隊長を務めているリュウゼンであれどその威力を殺しきることはできず軽々と吹き飛ばされてしまう。


「リュウゼン隊長!」

「痛ってー、ちっと焦りすぎたか」


 吹き飛ばされたリュウゼンの下へオリベルが駆けつける。

 

 常人であれば砕け散るほどの威力で打ち抜かれたというのにリュウゼンはピンピンしていた。強固な魔力障壁によって最大限、衝撃を殺したのだ。


「正直、一体一体は大した事ねえがああも集まられると手の出しようがねえな」


 視線の先には黒い焔が燃え移った箇所を切断し、全身への延焼を防いでいる姿が見える。

 肉体だけではなく知性まで進化しているのかとリュウゼンは舌打ちをする。


「リュウゼン隊長、お話ししたいことが」

「なんだ?」

「一角狼の長は恐らくあの中には居ません」

「だろうな」


 現れた進化個体の一角狼の強さはリュウゼンの目から見ても差はない。

 もしそのどれかが長であるならば群れがこうも統率されることはなく分断されているに違いない。


「明らかにこのレベルの群れを率いる強さでもねえしな」


 二足歩行の一角狼たちの危険度は強いとはいっても精々B程度。この群れを率いるには最低でも危険度Aはないと話にならない。


「ならどこに長が居るんだ? 隠れて見てるとか?」

「その可能性は高そうですが」


 オリベルの言葉に同意を示しつつもオルカは多少の違和感を抱く。

 群れの長であればどこからか指示は出しているはず。隠れて見ているとしても指示を仰ぎに向かう一角狼が行き来していればオルカならすぐに気が付くため、本来ならあり得ないと断ずる。

 しかし、今回に関してはそれ以外には考えられない。なぜなら、この場には二足歩行の個体よりも更に上位と思える個体が見当たらないから。


「そういえば……」


 そこでオルカはあることを思い出す。それはオルカが腕に怪我を負う羽目になった群れとの遭遇の時だ。

 あの時、オルカは周囲に魔力感知を張り巡らせていたにもかかわらず、一角狼達が接近していることに気が付かなかった。


「もしも気配を消せるような魔法が使えるのならこの中に紛れていても気が付かない」

「気配を消せる?」

「はい。リュウゼン隊長も違和感がありませんでしたか? 魔力感知をしているにもかかわらずあの進化個体達が至近距離に来るまで気が付かなかったことに」

「……言われてみりゃそうだな」


 いくら他に気を取られていたとしても流石にあそこまで接近している魔獣に気が付けない二人ではない。そこには明らかに何らかの力が働いていた。


「このレベルの群れの長なら魔力量の違いですぐに気付く。でも、気配を消す魔法を持ってたとしたら話は別だってこと?」

「そういうことです」


 二人の会話を聞いてようやくオリベルも理解に追いつく。二人が言いたいのはこの中のどこかに長が気配を消して紛れ込んでいるのではないかということだ。

 基本的に魔獣は魔力量で押し切るため魔法を使えないことが多い。魔法を使う魔獣という事はそれだけ危険度も高くなる。


 そのことを知っていた三人は更に気を引き締める。


「取り敢えず炙り出せるか試してみるか。オリベルは俺と一緒に来い。オルカは後方でその援護をしながらどいつが長っぽいか魔力感知で探ってくれ。魔力感知に関してはお前の方が上だからな」

「了解!」

「了解です」


 今度はリュウゼンとオリベルが一角狼たちの下へと向かう。

 二人が近づこうとするも一角狼たちは先程のように安易な手出しをしてこない。

 魔獣らしからぬその行動は近くに指示者が居ることを明示していた。


「オリベル! オルカの言う魔法が使われてるとするならやっぱ長は進化個体の方に居る可能性が高え! 進化個体は俺が相手をする! お前は通常種を狩ってくれ!」

「了解!」


 そう言うと、リュウゼンが黒い焔を纏った剣を縦に振り抜き、ちょうど進化個体の一角狼と通常種の一角狼達を分断するように焔を走らせる。

 その瞬間に、一方は進化個体の方へ、もう一方は通常種の方へと駆ける。


「集中」


 オリベルの全身に均質なオーラが纏われてゆく。無の感情となったオリベルの意識に入ってくるのは目の前の一角狼たちの動きと自分の取る動きのみだ。

 一角狼達が動く前にその軌跡がオリベルの目にははっきりと見える。それらの攻撃が一切届かない道筋をオリベルだけが把握できる。


 真正面から爪を振りかざしてくる三体の一角狼を攻撃の動作に入る前に斬りつける。

 それと同時に横から突進してくる二体の一角狼の攻撃を避けて、すれ違いざまに剣で首を刎ねる。


 そうした中で一体の一角狼の様子にオリベルはとある違和感を覚える。


(なんで動かないんだ?)


 オリベルが一角狼達を斬りつけている中、その一体だけは微動だにせずオリベルの方を見据えていた。それがどれほど異常なことか。

 オリベルの目は呼吸の動作や眼球の動作までも捉えることができる。

 つまりオリベルの目からして微動だにしないとは、そんな生命維持に必要な動作すら見えないという事なのである。


 見た目は通常種の一角狼の姿である。しかし、その佇まいは明らかに他とは違っていた。


「もしかしてあいつが……」

「オリベル! 危ない!」


 気が付いた時には微動だにしていなかったはずの一角狼がオリベルの目の前で角を振るおうとしていた。

 その状況にオリベルは混乱しながらもギリギリで剣を当てて、心臓への直撃を逸らす。


「ぐあっ!」

「オリベル!」


 肩を貫かれたオリベルはそのまま地面へと押さえつけられる。一角狼が角を勢いよく抜いたオリベルの肩からは夥しい量の血が流れだしていく。


「くそ! 邪魔すんじゃねえ!」


 リュウゼンがそれを見て駆け寄ろうとするがそれを十体の進化個体が阻む。


「エクスプロード!」


 まさに絶望的な状況の中、戦場に凛とした声が響き渡る。途中まで後方で援護していたオルカがオリベルの危険を察して駆け寄っていたのだ。

 オルカの爆発魔法が放たれるや否やオリベルを押さえつけていた一角狼はその場から瞬時に離脱する。


「ごめん、ちょっと油断した」

「反省は後です。今は止血を」


 駆け寄ってきたオルカがオリベルの肩を布で縛って止血する。


「まだ動けますか?」

「ああ」


 肩の痛みに歯を食いしばって耐え忍びながらオリベルは立ち上がる。


「良かったです。私一人ですと勝てるかどうか分からなかったので」


 いつも自信満々なオルカですら勝てるか怪しいと言わせる存在。それが意味することは一つであった。


「気を付けろ、奴は何か違う」 

「でしょうね。通常種と全く見た目が同じでしたので分かりませんでしたが、あれが正真正銘、この群れの長でしょうから」


 二人の視線の先に居る何ら通常種と見た目が変わらない一角狼。だが内に秘めた力は底知れぬほど深く凶悪であった。

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