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24話 一角狼の長

 リュウゼンとオリベルが笛の音の方に走っていくと、前方に一角狼の群れが見えてくる。それも今までの数とは比にならない程の大規模な群れだ。


「……魔力感知の限り、こりゃ百体以上いるな」


 リュウゼンがそう呟いた瞬間、奥の方から強烈な爆発音が聞こえてくる。オルカの戦闘音であろうと瞬時に察した二人は二手に分かれて走り出す。


「オリベル、俺から少し離れていろよ」


 リュウゼンの体から黒い煙のような物が立ち上る。リュウゼンの属性魔法は火属性、その中でもごく僅かしか存在しないと言われている希少属性である、黒焔(こくえん)属性である。

 この黒焔が他の火属性と違う点は水をかけても消えないことにある。

 酸素を消費するのではなく周囲の魔力を燃料にして燃え上がるそれは魔力の塊である魔獣に対する有効打となる。


黒焔龍(こくえんりゅう)


 リュウゼンの体から一つの村を覆うほどの壮絶な魔力が放出され、それら全てが黒い焔として巨大な龍の形を作りはじめる。それは圧倒的な一撃。


一瞬にして数十体ほどの一角狼たちが焼き尽くされる。


「す、すごい」


 オリベルは一角狼を相手取りながら自身の隊長の姿を見る。リュウゼンの属性魔法は戦闘中でも魅入られてしまうほどに華麗で強力なものであったのだ。

 どれだけ普段がふざけていたとしてもその実力は本物そのものであった。


 神殺しを目指すのであればこれを超えなければいけない。


「僕も頑張らないとな」


 白いオーラを纏った瞬間、すべての時がゆっくりになったように感じる。

 その空間の中では四方八方から襲い来る一角狼たちの次の動きが克明に理解することができる。後はその先に剣先を這わせればよいだけ。


 何も狙っていないかのように振るわれたオリベルの剣に次から次へと一角狼たちの首が斬り落とされていく。それはまさにオリベルが戦闘の中で成長し、手に入れた力であった。


 魔法ではない、先読みの力。静の身体強化魔法を駆使した技術である。


「オリベル!」


 そんな中、オリベルの前方からオルカが走ってくるのが見える。その腕には浅くはない傷跡があった。


「オルカ、その腕」

「長であろう一角狼にやられました。今も私の事を追いかけてきています」


 オルカは周囲の一角狼たちを爆発魔法で薙ぎ払い、オリベルの隣へ来る。


「追いかけてきてるって、まさかあれの事?」


 オリベルの視線の先には通常の一角狼とはまるで異なった巨大な二足歩行の狼の魔獣がこちらへと迫ってきている姿があった。

 その頭からはひときわ大きな一本の角が生えていることから同じ種であることは分かるが、それにしても体高が違いすぎることに不思議な感覚を抱く。


「リュウゼン隊長!」

「分かってる! 分かってるからもう少し待ってろ!」


 リュウゼンと二人の間には距離があり、その間にかなりの一角狼たちが居る。リュウゼンがこちらへと辿り着く前に長と一戦を交えなければならない。


「オルカ、君は怪我をしているから援護を頼む。僕が前衛を張るよ」

「了解しました」


 地面を踏みしめ、オリベルが舞う。それを襲わんとして飛び掛かった周囲の一角狼たちがオルカによる爆発魔法ですべて吹き飛ばされる。オルカの破壊力を前にして生き残れる一角狼は居ない。


 露払いを完全に任せきっていたオリベルが見るのは目の前の長だけだ。相手の筋肉の微細な動きが次の一手をオリベルに教えてくれる。

 その動きに合わせて剣を走らせるだけだ。繰り出される長の前腕を完全に見切って斬りつける。


「くそ、避けられたか」


 オリベルの力はあくまで研ぎ澄まされた感覚によって生み出された技術であり、完全な未来視という訳ではない。

 すんでのところで気が付いた相手の動きで僅かに軌道がずれたことにより、与えるダメージが小さくなる。


「エクスプロード!」


 しかし長が回避した先にはオルカの爆発魔法が待っていた。その絶大な破壊力は3メートルはあろう長の体を吹き飛ばす。


「ちっ、キリがねえなぁ! おい」


 そこでようやくリュウゼンが合流する。その背後には夥しい数の一角狼の亡骸があった。


「んで、あれが長っぽい奴か」


 視線の先には明らかに他とは一線を画するほどの巨体を持つ二足歩行の一角狼だ。

 二人の攻撃を食らい、少しふらついてはいるが、その瞳からは戦意が消失している気配はない。


「恐らくは」

「一角狼ってあんなに大きくなるんですね」

「いや通常、一角狼がどれだけ成長してもあんなに大きくはならねえ。恐らく()()したんだろうな」

「進化?」


 聞き馴染みのない言葉にオリベルは問い返す。


「進化というのは極稀に魔獣に発生する突然変異のようなものです。原因はまだはっきりとは分かっていませんがそのどれもが元の種とはかけ離れた特徴を持つようになると言われています」

「それに進化した奴は総じて滅茶苦茶強くなる。気を付けろよ。多分、奴は危険度Aくらいあるぞ」

「そんなのがあるのか」


 今も近くにある木を引っこ抜いている長に目を向ける。背丈の何倍もあるであろう木を軽々と持ち上げると、それを勢いよく三人の方へと放ってくる。


「そんなもんが俺様に効くと思うなよ? こちとら隊長やってんだぜ!」


 リュウゼンの体から放たれた黒い焔は凄まじい勢いで投擲された丸太ごと周囲の一角狼たちの体を焼き尽くす。

 そしてそのまま剣を構えると大振りに振るわれた長の攻撃を軽々と回避し、そのまま長の腹へと剣を突き刺す。


「黒焔」


 刺された箇所から燃え広がっていく黒い焔。体の内部から燃え広がるそれは長を死の苦しみへと誘う。


「グオオオオッ!!!!」


 全身を焼き尽くされる痛みのあまり苦悶の叫び声をあげて長が暴れはじめる。

 その延長線上で自分の味方である一角狼を八つ当たりをするかのように殴り飛ばし、絶命させていく。


「おうおう、ひっでえな。仲間だろうが」


 暴れる長はやがて勢いを失っていき、その場に倒れ伏す。それを見た一角狼達は遠巻きに三人を見つめるのみで既に攻撃をやめていた。


「オルカ!」


 そんな中、オルカが体勢を崩しその場に倒れこむ。


「すみません。少し血を流しすぎたようです」

「その腕の怪我、さっさと止血しねえとだな。自分でできるか?」

「はい」


 そう言うとオルカは騎士団の制服の中から包帯とテープを取り出し、腕へと巻き付けていく。


 その様子を見てオリベルはホッと息をつく。


 オルカの死期が見えているオリベルからすればそれが死へと繋がる怪我だったのではないかと気が気ではないため、余計に心配なのだ。


「オリベル、お前はオルカを守っていてくれ。後は俺が……」


 そこまで言った時、近くで巨大な魔力の気配がリュウゼンとオルカの魔力感知に引っ掛かる。


「……おいおいマジかよ」


 そこには先程の長と同じ見た目をした一角狼たちが十体ほどこちらを睥睨しているのであった。

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