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20話 初任務

 明日の任務に備え、自室へと向かっていると掲示板に張られた一枚の紙がオリベルの視界に入ってくる。他の物とは違う豪華な様相に惹かれて近づく。題名は「不死神の適合者を求む」と書かれたものであった。


「不死神?」

「気になる?」


 オリベルが掲示板に張られている紙を見ていると後ろからそう声が掛けられる。振り返るとそこには胸が強調された服に着替えているクローネの姿があった。その妖艶な姿にオリベルは一瞬胸をドキリとさせながらも平静を努める。


「他の物よりも見た目が派手でしたのでつい気になってしまいまして」


 それに不死神という文字。それは「神」の名を冠する魔獣。先代の英雄が命を賭して倒したと聞いていたオリベルが気にならないはずがなかった。


「仕方ない。お姉さんが教えてあげよっか」

「お、お願いします」


 一々言動が艶めかしいクローネをなるべく意識しないようにしながら返事をする。


「これはね。不死神の持っていた武器の適合者を募る紙よ」

「不死神の持っていた武器? 魔獣が武器を使うのですか?」

「知能がある魔獣は独自の武器を使う事もあるわ。それに神と名の付く魔獣が持つ武器は神自身の魔力によってものすごく強いの。でもその魔力のせいで誰でも使えるという訳じゃないのよ。ウォーロット王国では今、不死神の武器の持ち主が決まっていないの」


 だからこそ適合者が最も見つかる可能性が高い騎士団内部で掲示しているのだとクローネは続けて言う。それを聞いてオリベルは納得をするとともに自分には関係のない話だと理解する。


「僕は関係なさそうですね」

「あらどうして?」

「だってまだ属性魔法すら使えないんですよ? そんなに魔力の扱いが出来ない僕が神の魔力を持ってる武器を扱えるなんて到底思えないです」

「う~ん、そうね~。ウォーロット王国で唯一、神の武器と適合した人も属性魔法の扱いに関しては右に出る者が居なかったくらいだし、もしかしたら魔力の扱いが上手な人じゃないと厳しいかも?」


 一瞬、強くなれるのではないかと思って聞いていたオリベルだが自分には関係のない話だという事が分かると少し落胆する。まさか属性魔法を使えない弊害がこうも出てくるとは。


「教えていただきありがとうございます」

「うん! 気にしないで!」


 そう言ってクローネへと別れを告げるとオリベルは自室へと戻るのであった。



 ♢



「リュウゼン隊長。徒歩なのですか?」

「ああ。わざわざ戦闘員じゃねえ御者を呼ぶと護衛対象が増えて面倒だろ? 俺達が自分で馬車を引くにしても荷車を買うのがもったいねえしな。他の部隊ぐらい金が多けりゃ買ってるだろうがそうじゃねえ第十部隊の俺達は基本徒歩だ」


 リュウゼンと共に初の任務となるオリベルとオルカ。任務地へと向かう手段は徒歩である。リュウゼンの言葉を聞き、オルカはそれ以上の追及をやめる。


「任務内容については昨日の夜、軽く伝えた通り、ここグランザニアから20分くらい歩いた先にあるカリコン村近傍で異常発生した魔獣『一角狼(いっかくおおかみ)』の討伐及びその調査だ。魔獣の危険度はD程度だが数によってはAにもなり得るから気を付けておけ」


 グランザニアというのは第十部隊の訓練場がある町の名である。そして危険度というのは基本的には魔獣の強さを表しており、F~SSまで存在する。ただし、群れた場合であればその分、危険度が上がることもある。ちなみに神の名を冠する魔獣の危険度は測定不能である。


 一角狼というのは冒険者にはなじみが深い魔獣であり、基本的に群れることはないためそこまで危険度は高くないが、それでも頭に生えている巨大な一本の角は岩をも貫くといわれるほど強力であり、またその獰猛な性格から被害に遭う者は多い。


「リュウゼン隊長。質問してもよろしいでしょうか?」

「ああ、良いぜ」

「なぜ前線に行かずに魔獣退治に行くのでしょう? 私達ウォーロット騎士団は世界の半分を支配する魔獣と戦うのが宿命なのではないでしょうか?」


 少なくともオルカは養成学校でそう習った。内部の魔獣討伐は基本的に冒険者が受け持ち、魔獣が支配する世界の半分の領地の奪還を進めるのがウォーロット騎士団であると。

 しかし、今自分たちが行っているのは明らかに冒険者たちがする仕事である。想像していたものと異なっており、オルカは疑問に思ったのだ。


「まあその意見も(あなが)ち間違っちゃいねえ。確かに今から受ける任務は冒険者が良くやる依頼と似たようなもんだ。ただ忘れちゃならねえのが俺達はウォーロットの国民を守る騎士だってことだ。外にばかり目を向けて中を疎かにするような奴に騎士を名乗る資格はねえ」


 オルカの質問にいつになく真面目な表情をしてそう返すリュウゼン。それは彼の中のモットーでもあり、曲げられない信念のような物でもあった。


「……申し訳ありません」

「いやいやそんなに落ち込むなよ。お前の疑問は何も間違っていたわけじゃねえ。そういう依頼を冒険者たちのために残しておいて俺達は外に専念するってのも正しいっちゃ正しいからな」


 落ち込むオルカの肩をトンと軽く叩いて励まそうとするリュウゼン。それをちらりと横目で見たオルカは一言。


「セクハラですよ、リュウゼン隊長」

「なっ!? 違う! 俺はそんなつもりで触ったわけじゃ……っておいオリベルよ。なんだその眼は?」

「いや別に何でもないですよ」

「その言い方、絶対なんかあるだろうが!」


 ムキになるリュウゼンを二人して笑って誤魔化す。そんな光景を見て実は隊長としての威厳が無いのではないかと不安になるリュウゼンであった。

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