19話 残りの隊員
「せい!」
隙が生じるまで耐え忍んだオリベルの拳が乱撃の合間を潜り抜け、オルカの腹に軽くトンッと当たる。
「や、やった! 当たった!」
初めての事にオリベルは歓喜する。対するオルカはもう当てられたかと言わんばかりにため息を零す。
「まさか三日で当てられるようになるとは思いませんでした。これでコツは掴めましたか?」
「うん! オルカのお陰で掴めた気がするよ! ありがとう!」
その言葉を聞いたオルカはもう接近戦ではオリベルには敵わないであろうことを理解する。
彼はただ技術力を身に着けていなかっただけで決して弱くはなかった。
そして一度身に着けてしまえばその順応度は早い。後はその技術を武器へと落とし込むだけだが、今まで剣を振ってきたオリベルならばそれも直に成功するであろう。
「ハッ! もうオリベルには敵わなくなったか? オルカ」
「リュウゼン隊長。お言葉ですが接近戦で勝てなくとも私には爆発魔法がありますのでそれはないかと」
リュウゼンの煽る言葉にオルカはそう返す。それを聞いたリュウゼンは負けず嫌いなところも兄譲りだな、と笑みを浮かべて二人の方へと近づいてくる。
「そういや今日ウチの隊員たちが任務から帰ってくる。ただ、そのなんだ、癖が強い奴等でな。特にオルカは気を付けた方が良いかもしれねえ」
「どうしてですか?」
「それはだな一人ヤベー奴が……」
リュウゼンがそこまで言った瞬間、突如として演習場のど真ん中に爆砕音と共に何かが落下してくる音が聞こえる。
それを見たリュウゼンがあちゃーと額に手を当てて何かを諦める。
「こーら、ミネル~。飛び込んで行ったら駄目でしょ~」
「はあ、これだから脳筋は困る」
中央の落下物とは別に演習場の入口の方から赤い色付きサングラスをかけた青髪の男性と薄いグレーでショートの髪の毛、そして片目だけ髪で隠れている女性が歩いてくる。
どちらもウォーロットの騎士団の制服である黒い服を身に纏っている。
「強者の匂いを感じたのよ」
そんな声が何かが落下したあたりから聞こえてくる。そして土煙の中からクリーム色の髪の少女の姿が現れる。先程の爆砕音の正体である。
「噂をすればなんとやらだな。二人に紹介しよう。この三人が我が第十部隊の残りのメンバー達だ」
♢
「私の名前はクローネ・アスティエールよ。よろしくね」
「俺はディオス・ラミネーターだ。よろしくな」
「私はミネル・ライバー。第十部隊最強の女よ!」
三人の先輩騎士たちがオリベルとオルカへと自己紹介をしていく。
グレーの髪の毛で片目だけ隠れているお姉さん風の女性がクローネ、赤い色付きサングラスをかけている少しガラの悪そうな青髪の男性がディオス。
そして演習場に突っ込んできたクリーム色の髪の少女がミネルである。
「この度、第十部隊に所属することとなりましたオルカ・ディアーノです」
「同じくオリベルと申します。よろしくお願いします」
二人も先輩騎士達へと自己紹介をしていく。
「よし、自己紹介が終わったところでミネルよ。貴様、あの演習場の大穴どうするつもりだ?」
「それくらいアンタが何とかしなさいよ」
「オメエのせいでああなっちまったんだろうが!」
ガンを飛ばすリュウゼンに対しミネルは素っ気ない態度をとる。
とても上司と部下には見えないその光景を見たオリベルとオルカはリュウゼンが先程少しだけ口にしたヤベー奴が誰の事なのかを察する。
「それよりもそこの二人! 私と勝負しなさい!」
「ミネル。新入りさんを怖がらせてはダメでしょう?」
開幕早々、血気盛んなミネルをおっとりとした口調でクローネが制御する。
「リュウゼン隊長。第十部隊はこれだけなのですか?」
「ん? ああ。そうだぞ?」
たった六人。それはいくら少数精鋭であるウォーロット騎士団の他の部隊と比較をしても明らかに少ない。
「第十部隊は毎年一人取れるか一人も取れないかくらいなんだ。大体の優秀な奴等が全部他の部隊に取られちまうからな。それに最近、上の世代がほとんど引退しちまって今はこれだけしかいねえ」
「そうだったのですか」
リュウゼンの言葉にオルカが納得する。基本的には今年くらい豊作でなければ上位25名以外から選ぶことなんて滅多にない。
そして部隊の配属を決定する方法が隊長が挙手をして合格者たちが希望する隊の元へ行くというものであるならば第十部隊が選ばれる確率はごくわずかだ。
ここまで少なくなるのも仕方がないのだろう。
「だが俺が隊長になったからには大丈夫だ。今年中に第八部隊にまでは昇格させてやる」
ウォーロットの騎士団の部隊はその順位に応じて第一、第二と決められていく。そしてその順位は月ごとの戦果に応じて変動するのだ。
つまり今第十部隊であったとしても第一部隊へ到達することだって物理的には可能なのだ。
ただ……
「とはいえ隊長。こんなに少なかったら無理だろう」
「心配すんなディオス。今年の新入りは格が違うぜ? なんたってオルカに関して言えば今年の入団試験のトップだからな!」
「「「トップ!?」」」
リュウゼンの言葉に三人ともが同時に声を上げて驚く。ここに居る者は皆、試験に負けてギリギリその時の隊長によって上位50名の中から引きあげられた者達しかいない。
その試験でトップを取ったというのにわざわざ第十部隊を選ぶ者など居ないがゆえに当然の驚きであった。
「やっぱりアンタ強いんだね。どう? この後、私と勝負でも」
「だから誰かさんのせいで演習場に穴が開いてるから補修を頼まなきゃいけねえって言ってんだろうが!」
「別に今日とは言ってない。明日とか」
「い~や、駄目だ。明日からオルカとオリベルには任務がある」
「え?」
リュウゼンの思いがけない一言によってオリベルは素っ頓狂な声を上げてしまう。無理もない、明日から任務があるなど誰も聞いていなかったのだから。
「ああっと、言い忘れてたな。二人とも、明日から俺と一緒に初任務だ。まあそんなに難しいモンじゃねえからそんな気ぃ張らなくても大丈夫だぜ」
そんなリュウゼンの言葉を聞いて、ああこの隊長あってこの隊員なのだなと再確認するオリベルとオルカであった。