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18話 強くなること

「声を掛けられなかったな」


 第十部隊の寮の自室でベッドに寝転がりながらオリベルはそう呟く。声を掛けられなかった、というのは紛れもなくステラの事である。

 その顔に前見たものと同じ死期が刻まれており、それを再確認してしまったオリベルは苦しさから目が合っても話しかけられなかったのだ。


「ステラもオルカも……一体どうなってるんだよ僕の運命は」


 オルカの死期は後一か月。そしてステラの死期も誕生月から考えれば後一年と一か月といったところだ。

 早急に解決したいところではあったが死期という厄介な特性上、その時が来るまで何が起こるのか分からないため備えようがない。

 そしてその時は必ず訪れる。それは事前に知っているオリベルですら助けることはできない。

 助けられないのに人が死ぬ時期は分かるとはまさに運命の悪戯のようなものであった。


「時期を教えてくれるなら助け方まで教えてくれたって良いじゃないか」


 オリベルは死期を見て諦める気にはならない。助け出さなければという意思の下で動いている。

 だからこそ人一倍苦しいのかもしれない。そして力が特殊すぎるがゆえにマーガレット以外に彼が相談できる相手が居ないことも。


「明日からオルカとの訓練に備えて今日はもう寝るか」


 そうしてオリベルは部屋の灯りを消し、そのまま眠りにつくのであった。



 ♢



 オリベルの拳が走る。それを寸前で躱したオルカはすかさずその差し出された右腕を掴み、足を払ってぐるりと回転し、オリベルの体を地面へと叩きつける。


「基本は教えましたので動きは良くなってきましたがそれだけでは駄目ですね。半端な攻撃は相手に隙を与えるだけですよ」

「でもどうすれば」

「それは相手のフェイントにも応えない平静な心を保つことです。あなたが最も得意とするものだと思いますよ? 今は技の当て方に拘ってかけているように見えますが」

「平静な心か」


 母であるマーガレットからも散々言われてきた平静さ。それさえあれば相手に隙を与えないとオリベルは日々言われていた。


「よし、分かった。今度こそ!」

「だから意気込んではダメなんですって」


 そうして再度オリベルは地面へと背中を叩きつけられる。そんな時、演習場へと人影が二人へと近づいてくる。


「おう、お前ら朝っぱらから勤勉だな」

「おはようございます、リュウゼン隊長」


 現れたのは二人が所属している第十部隊の隊長リュウゼンである。二人が朝から訓練をしていたのが気になって見にきたのだ。


「痛ててて……おはようございます、リュウゼン隊長」

「ハハハッ! ま~たオルカにボコられてんのかオリベル」

「まだまだ未熟ですので」

「まあな。そうじゃなきゃギゼルには勝ってただろうしな」

「ですね」


 ギゼルはあの後、第一部隊に配属された。オルカに次ぐ二番目の成績であるため何ら不思議なことはないだろう。

 ちなみに第一部隊にはカイザー、ギゼルそしてダグラスが所属することになった。


「それでリュウゼン隊長。何か御用ですか? 御用が無ければ訓練を再開しようかと思うのですが」

「ああ、すまんすまん。俺のことは気にせずに続けてくれ。ただ見に来ただけだからよ」


 そう言うとリュウゼンは二人に背を向けて二階の観覧席へと向かう。


「それでは続きをしましょうか、オリベル」

「それはありがたいんだけどオルカは自分の訓練をしなくても良いのかい?」


 自分のために訓練をしてくれるオルカにありがたいと思いつつ、自分のせいでオルカ自身の訓練が出来ていないのではないかと申し訳なくなったオリベルがそう尋ねる。


「気にしなくて良いですよ。あなたと手合わせをするだけで訓練になってますから。武道家では予想できない戦法やその強力な身体強化魔法は何かと刺激になりますので」

「そうなのか。だったら良いんだけど」


 オルカの言葉は決して表面上の言葉ではない。基本的に嘘偽りなく物申す彼女は要らないものであれば要らないと即答するのだから。

 オリベルの強化は必要。そしてオリベルと手合わせをするのは新たな刺激を享受することができる。オルカからしても一石二鳥であったのだ。


「では続けますね。今度は属性魔法も使います。どこからでもかかってきてください」

「分かった」


 波立たない白いオーラがオリベルの全身を覆っていく。その金の眼からは何の感情も浮かんでいない、まさに無である。

 対するオルカはそれを見て、真似できないなと感じながら訓練を再開するのであった。



 ♢



「結局、一回もオルカに攻撃を当てることが出来なかった……」

「ガハハッ! 気にすんなオリベル! こいつは俺から見てもバケモンみてえなもんだからよ!」

「リュウゼン隊長程度でしたらあと数か月もあれば越せると思いますので」

「うおいっ!」


 訓練終わり、そうやって談笑しながら訓練場内にある食堂へと向かう。騎士団所属の訓練場では国から派遣された料理人が食事を作ってくれるのだ。それも無料で。

 オリベルがここに来て一番驚いたのはこのことかもしれない。

 ウォーロットの騎士達は世界のために魔獣掃討を行っているため毎日のように各国から寄付金が集まってくるらしい。それが料理人たちへの給料に充てられているとのことだ。


「俺はパスタでも頂くとするか」

「私はステーキが良いですね」


 それぞれ好みの料理人の下へと向かっていく。オリベルは二人とは違ってどちらかと言えば丼物の気分であったのでそちらの料理人の下へと向かう。


「すみません。海鮮丼お願いします!」

「は~い、少しお待ちくださいね~」


 そう言って近くに居た銀髪の料理人が早速料理を始めていく。


「今まで訓練ですか?」

「はい」


 話しかけてきた料理人の顔がはっきりと見える。やたらイケメンだな、とオリベルは心のどこかでそう思う。


「それはそれはお疲れでしょう」

「いえいえ騎士として当たり前のことですよ」

「訓練をすることがですか?」

「いえ、強くなることがです。僕はもっと早く強くならないとダメなんです」

「早く……ですか。じっくりではダメなんですか?」

「駄目なんです。それじゃ間に合わない」


 そこまで言ってオリベルはやけに言葉に熱が籠っているのに気が付く。何故初めて会った男性にこうも熱を込めて会話するのかはオリベルにもわからなかった。


「間に合わない……ですか。不思議ですね。まるで誰かがもうすぐ死ぬとでも言っているみたいです」


 料理人のその言葉にオリベルは心臓が跳ねる。勘であるとはいえまさかこうも直球で当てられるとは思わなかったからである。

 その時の男性がオリベルを見る銀色の瞳は何かを見定めるかのような不思議な光を放っていた。


「お待たせしました、海鮮丼です」

「あっ、ありがとうございます」


 先程までの異様な雰囲気から一変して料理人の男性はにこやかに出来上がった海鮮丼をオリベルへと渡す。そうしてオリベルが去っていく後姿を見てこう呟くのであった。


「ステラが言っていたから気になって見に来たけど、不思議な瞳を持つ子だったな。それに最後のあの言葉……中々面白い少年だ。っと、リュウゼンに見つかる前にそろそろ帰るか」


 そうしてその料理人は頭に巻いていた三角巾を外し、元居た料理人に邪魔したねと言ってそれを渡し奥の方へと歩いていくのであった。

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