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17話 合格後

「え、お二人とも入団試験合格したんですか!?」

「ええ」

「そ、それは一大事です! お父さーん! お母さーん! オリベルさんとオルカさんが入団試験、受かったよ!」


 国王との謁見を終えた後、第十部隊の訓練場へ行くまでの間に時間が出来たためオリベルとオルカは食事をとりがてら宿屋『キャッツ』へと報告に来ていた。

 二人が報告をするとアーリが嬉しそうに奥の方へと入っていき、少ししてドタドタと慌ただしい音を立てながら主人とおかみが現れる。


「本当ですかい!?」

「おめでとさん!」

「ありがとうございます」


 つい最近出会ったばかりのただの宿泊客だというのにそんな過剰な反応でお祝いをしてくれるとは思わず二人は少し意表を突かれる。

 だが、宿屋からすればそもそも客が少なく、最近来てくれた客と言えばオリベルとオルカだけであったので思い入れがあって然るべきではあったのだ。


「こうなりゃうんと腕によりをかけなくちゃならねえな! お二人さん、今日は俺達からの奢りだ! たんと食べていってくれい!」

「え、悪いですよ」

「良いから良いから! お国を守る騎士様に奢らねえで()()()()()()()皆にどやされちまう」


 故郷に帰ったら、という一言をオリベルの耳が捉える。


「故郷に帰るのですか?」

「そうですねー。お客さんが来なくてかなり赤字経営なところもありまして。固定客が欲しいので豪華な食事とかも提供しているんですけど中々難しいんですよねー」


 厨房へと入っていった主人の代わりにアーリが答えてくれる。それで初めてオリベルは最初の食事があれだけ豪華であったことの理由を知る。

 豪華なのに客が来ないのではなく客が来ないから豪華にしていたのだと。


「ささ、お二人はそんなこと気にせずどうぞどうぞお席の方でお待ちください。すぐにお出ししますので」


 そうしてアーリに案内され、いつもの席へと座る。


「ここが無くなってしまうのは寂しいですね」

「そうだな。でも僕達じゃどうしようも出来ない」


 赤字のままここで経営を続けたところで彼等の生活が困窮するだけだ。無理に止めることはできない。

 それに二人に経営の知識があるわけでもない。本当にどうしようもないのである。

 ただ、このまま暗い感情でお祝いを受けるわけにはいかないと二人して気持ちを切り替える。お祝いされている側が楽しくなさそうな顔をしていることほど失礼なことはない。

 第十部隊の寮へ滞在することになろうと王都に来たら絶対に一度は顔を見せると誓い、ご飯が運ばれて来るのを待つ。


 少しして見慣れた銀の蓋が乗った皿が運ばれてきて、いつも通り絶品料理を味わう二人であった。



 ♢



「ここが第十部隊訓練場だ」


 宿屋キャッツへとあいさつを済ませた後、第十部隊でもう一度集合し、馬車に揺られること数十分。 

 第十部隊隊長リュウゼンに連れてこられた場所は王都から少し離れた場所にある街の中の建物であった。

 第十部隊とはいえウォーロット騎士団の建造物なだけあって周りにある他の建物よりもかなり大きい。


「お前たちも理解してると思うが俺達騎士団は日々訓練を欠かさない。流石に新入りは初日は見学だけだがな」

「承知しました」

「うん良い返事だ。それじゃあ訓練場の中を案内してくぜ。まずは訓練場で一番重要な演習場だ。まあ入団試験の時の試験場と同じだっていえば分かんだろ」


 リュウゼンの言う通り、作りとしては何一つとして試験場の時と変わらないものであった。


「……てか忘れてた。あいつら今、任務で居ねえじゃねえか。おいおい、これじゃあ見学すらできねえぞ」


 ここに来て大事なことを思い出したリュウゼンは少し考えあぐねた結果、こう告げる。


「よし、今日は訓練場内と第十部隊の寮の案内で終わりだな」

「あのすみません、隊長」

「何だオルカ」

「やることが無いのでしたら演習場をお借りできないでしょうか?」

「ん? まあ良いが何に使う?」

「オリベルと対戦したくて」

「ほう、良いじゃねえか」


 オルカの話を聞き、リュウゼンはにやりと笑みで返す。

 そしてそんなことを一切聞かされていなかったオリベルはどういうことだとオルカの方を見る。それをオルカは良いでしょと視線で返す。


「仕方ないな」

「決まりですね」


 オリベルからすればオルカと戦ったところで勝敗は分かりきっていた。

 第十部隊に来ているとはいえオルカは今期の新入り騎士の中で最強だ。対するオリベルは補欠合格。勝てるはずがなかった。


「そうと決まれば早速始めるか! おら、きびきび動け、オリベル!」


 なぜか試合をするわけではないリュウゼンが一番ウキウキで試合の準備を促してくる。


「試合のルールを説明します。シンプルに武器と属性魔法の使用を禁止しましょう」

「え、それじゃあ身体強化魔法だけってことか?」

「はい、そうです」


 属性魔法が無いのであればオリベルにも少し勝ちの目がある。そう考えるとオリベルは俄然やる気が湧いてきた。


「一本勝負です。それでは行きます!」




 試合が始まり程なくしてオリベルはオルカによって地面へと背中を叩きつけられていた。

 身体強化魔法だけで言えばオリベルが勝っていたのだが、技術力の面で負けていたのだ。

 オリベルは一瞬でも勝てそうと思っていた自分を恥じる。


「やはりあなたにはまだ基本の武術が足りていませんね」

「村では教えてくれる人が居なかったから」


 魔法や剣の使い方ならば元冒険者であるマーガレットから教わっていたが、素手での武闘に関しては全くと言っていいほど習ったことが無かった。

 冒険者は基本的に素手での戦闘を意識していないため武闘が疎かになる場合が多い。

 オルカがギゼルに圧勝したのも実はこの点に理由があった。


「隊長。少しの間、私がオリベルの指導をしたいと思うのですが宜しいでしょうか?」

「新入りが新入りを教えるだぁ? 面白いから良いぜ!」


 親指を突き出してリュウゼンがオーケーを出す。騎士団内では基本的に合同訓練の頻度は少なく個人での訓練に終始することが多い。それがゆえにあまり問題はなかった。


「武術の基礎をあなたに叩き込んでいきます。よろしいですか、オリベル?」


 同期から教わるというのは本来ならば悔しいと思うのが普通であろう。しかし、目の前でまざまざとその技術力を見せつけられたオリベルの返事はただ一つだ。


「お願いします!」


 死期という運命に抗うオリベルは力を欲していた。

 それが悪の道にならない限りはどんなものでも縋るつもりであったオリベルからすればオルカのその提案は魅力的にしか映らなかったのだ。

 それから少しの間、オルカがオリベルに対して指導を行っていく。時間が過ぎていくごとにオリベルの動きも徐々に良くなっていった。


「もう遅いから今日はここまでだな。次は寮を案内する。付いてこい」


 リュウゼンのその言葉で二人の訓練は終了するのであった。

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