147話 組織
レグルムントに辿り着いたオリベル達は『キャッツ』の三人によって手配された隠れ家に腰を落ち着けることとなった。
表では宿屋が営業され、裏ではオリベル達の隠れ家となっているのだ。
広々とした空間である。『キャッツ』はどうやらかなり儲けているらしく、元の拠点から遠く離れたレグルムント王国にすら既に拠点を作っていたのだ。
オリベルは既に設置されていたソファに座ると、その場にいる面々を見渡す。
元賞金首狩りの三人、姉御肌のネルガース、知力は劣るが身体強化魔法はオルカからのお墨付きのザルム、鎖属性魔法を持つ身元不詳の男セイン。
更にオリベルと同じく騎士団から抜け出したオルカ、伝達属性魔法で苦しんでいたマザリオ、そして今もムスッとした表情でそっぽを向いている鬼人シュテン。
最初はオルカとオリベルだけの旅だったはずがいつの間にか増えてきたなと感心する一方でオリベルはオーディが自身に頼んできた例の件を話そうと口を開く。
「着いて早々で悪いんだけど、オーディ殿下から提案された話があるんだ」
「あの王太子が? 嫌な予感しかしませんが」
「オルカがそう言うのも分かる。実際聞いた僕も嫌な予感しかしてないから」
「え~、余計に聞きたくなくなったような」
オリベルの言葉にマザリオが泣きそうな顔になる。この場でダントツで戦闘経験が浅い彼女だからこそ不安は人一倍だ。
「僕達は今、世界から追われている身だ」
「正確に言えばあなたとそこの鬼だけですけどね」
「ぐっ……俺はお前らが連れ出さなきゃ」
「まだそういう事言うの? アンタ。助けてもらったんだから感謝しな」
「何だてめえ?」
人が増えれば話が脱線する回数は増えるというものだ。
絶対的な発言力がある者が居ればあるいはだが、この場には同等の者が多い。
会議は踊る、されど進まずの典型的な例だろう。
「世界から追われている状態じゃ僕は自由に動けない」
「まあそうですね。自由に動く、その言い方ですと何かやりたい事でもあるんですか?」
セインの問いかけにオリベルは少し言い淀む。
ステラの助けになりたいから。そんなにぼんやりとした目的ではなく、ステラを死の運命から救い出すというものだ。
つまり、今オリベルが悩んでいるのは他人の死期が見える能力について話すべきかどうかという事である。
この力は相手によっては気味悪がる者もいる。この先の信頼関係に罅が入ってしまうかもしれない。
だが今話さなくとも今後動いてもらうためには絶対に必要な情報だ。
オリベルは数瞬、悩み決断する。
「ここから話す内容は他言無用だ。僕には……他人の死期が見える能力がある」
ゴクリと生唾を飲み込む音が響く。それは誰のものか特定できない。
それほどの緊張感が一瞬にして走ったのである。
オリベルは構わず続ける。
「そしてその能力で今のウォーロットの英雄ステラに近い未来に死ぬという結果が見えた。それを防ぐために僕は騎士団を抜けたんだ」
最後の方はやや論理が飛躍してはいるが、大まかには合っているためオリベルは説明を省いた。
オリベルの話を聞いた面々はというとオルカ以外は目を丸くして驚いた様子を見せている。
少しの沈黙が訪れた後、ネルガースがポツリと言葉を零す。
「あの英雄が? まさか」
「僕が一番まさかって言いたかった。だけど僕の能力が間違えたことはないよ」
「じゃ、じゃあもう英雄様は助けられないってのかい!?」
「いや。僕の能力は間違えた結果を出すことはなくてもその結果自体を変えることはできるんだ。それは今まで証明してきている」
そう言ってマザリオとシュテンの事を思い浮かべる。
オリベルにその力がなければ接触することなどなかったことだろう。
「僕の目的は英雄であるステラを死の運命から救い出す事。そしてそれを達成するために強固な基盤を築く必要がある。それこそウォーロットに引けを取らないほどの」
「ウォーロットに引けを取らないほど? あなたは国でも作る気でしょうか?」
セインの問いかけに対しオリベルは数巡躊躇うような動きを見せるもはっきりと目を見据えてこう告げる。
「語弊があった。国なんて作らないよ。僕は名誉とか富なんかに興味はないから。言ってしまえば僕が作るのは何にも属さない組織だ」
そう言うとオリベルはちらりとオルカの方を見る。
オルカはまた振り回される事になるのかと嘆息しながらもその瞳を見つめ返す。
オリベルがまず確認するのはいつだってオルカの反応だ。
それに勢い付けられたままにオリベルはこう告げる。
「対魔獣組織『魔喰』ってどうかな?」
その自信なさげな声によりオルカは再度ため息を吐く。
そしてオリベルの隣に立つと、ジロリと隣を一瞥してから告げる。
「ここに『魔喰』の発足を決定いたします。賛同者は手を挙げなさい」
その一言で全員が手を挙げる。そう、全員である。
「あら、挙げるのね」
「職がねえから仕方なくだ」
「素直じゃないんだから」
「まだ知り合ってばっかで素直もクソもないだろうが」
それを見たオルカは満足げに1つ頷くと、そのままオリベルの肩を叩く。
「後は頼みました。リーダー」
「え? リーダー?」
「オリベルさんがリーダーですか〜良いですね〜」
オルカに続きマザリオ、更にはシュテン以外の他の面々までもが納得するかのように頷いている。
もはや逃げ場がなくなったオリベルは渋々、首を縦に振るのであった。
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