146話 レグルムント王国
冒険者。それは方々を飛び回り、遺跡などを散策して一攫千金を狙う浪漫あふれる世界に憧れた者達。
元々、冒険者とは職業ではなくただ億万長者の夢を見て世界中を旅するだけの者という認識でしかなかった。
そしてその中にはいわゆるゴロツキと呼ばれる者も多く存在しており、各地で冒険者だと名乗り問題行動を起こす者が増加していた。
そこで『冒険者』という職業を確立させ、冒険者と単なる犯罪者を区別するべく設立されたのが『冒険者ギルド』であった。
『冒険者ギルド』が設立されたその国の名は『レグルムント王国』。そのような歴史がある国へとオリベル達は馬車に揺られながら向かっていた。
理由はオーディに言われた提案を成し遂げるためであった。
「ホントにこんなとこ来ちゃっても良いんですかい? ここら辺、冒険者ギルドだけじゃなくて賞金首狩りもすごく多いですよ? オリベルさん達は狙われて都合悪くないですかい?」
「殿下が言うにはここに行けって話だったんだよ、ネル」
「あの王太子ですかい? あたし、あいつのことどうも信用できないんですよね~」
「あの方は未来が見えるんだ。きっと良いことが起きるんだと思う」
長旅の結果、すっかりオリベル達の仲間として馴染んでいた元賞金首狩りの三人は旅立つ頃の怯えていた様子とは一転してかなりリラックスした状態で馬車に乗っていた。
というよりも時折会話の中心を元賞金首狩り達が担っているほどでもあった。
「ザルム。あなたの身体強化魔法はすごく練度が高いです。しかし、肝心な技術が全くと言っていいほどありません。どうですか? 落ち着いたら私の訓練をマザリオと共に受けませんか?」
「そりゃホントですかいオルカの姉御!? ぜひ頼んます!」
「ふふふ、ザルムさんも一緒なら心強いです~……オルカさん、厳しいですから」
「何かおっしゃいましたかマザリオ?」
「い、いえ何も言ってません! 鬼畜指導者だなんてそんな事は! ねえ、アーリちゃん?」
そしてオルカに問い詰められたマザリオは自白し、訓練メニューがより一層苛烈なものとなることが確定するのであった。
「……」
「ねえ、いい加減何か話したら? 君だけ顔怖いよ」
「……うっせえ」
そんな和やかな空間の中で一人だけムスッとした顔で馬車に揺られている男がいた。
鬼の獣人、シュテンである。
彼は処刑場からオリベル達によって攫われ、そのまま馬車で誘拐されたのである。
そりゃあ居心地が悪いのも仕方がないだろう。だが、すべての罪を押し付けられて処刑されるのを救われた身でもあるため、どのように振る舞えばよいのか分からず基本的にあまり言葉を発していないのである。
「元々俺はあの場で死ぬつもりだったんだよ」
「あんなに理不尽に罪を全部押し付けられて処刑されたら悔しくない?」
「理不尽じゃない。無意識とはいえ俺が王都を半壊させたのは事実だからな」
セインの言葉にシュテンは一切首を縦に振ろうとはしない。罪を償おうという思いがあったのは事実であったためである。
「ま、『国崩し』のシュテンさんは考えることが殊勝でございますな~」
「……今なんて言った?」
「だから『国崩し』のシュテン、だよ。知らないのかい? ほら」
そう言ってセインが見せたのはどこぞで手に入れたとある指名手配書であった。
金貨百枚という賞金にその上には鬼の少年の顔が描かれている。そうしてその似顔絵の下には『国崩し シュテン』と書かれていた。
「はあ!? 何で俺が逃亡犯みたいな扱いになってんだよ」
「お、シュテン。僕と同じだね」
「うっせえオリベル! そもそもてめえが俺を誘拐しなかったらこんなことにはならなかったんだよ! これじゃあ俺が処刑から逃げた卑怯者みてえじゃねえか!」
「卑怯者というよりも極悪人だね。『国崩し』なんてそんな大罪人、歴史上でもほとんど居ないんじゃないかな?」
「黙れセイン」
「何だい何だい? 仲良くするつもりなさそうなフリして全員の名前を憶えているじゃないか~。可愛い子だね~」
「それは言ってあげちゃ可哀想だよ、お母さん」
そうしてシュテンを中心として会話が回り始めたところで、目的の場所、レグルムント王国へとたどり着くのであった。
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!