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138話 鬼の巨人

「この魔力の源は間違いなくあいつだ」


 オリベルは前方で佇む巨人を見てオルカにそう投げかける。それ以外に考えられないとしたオルカもそれに首を縦に振る。


「あれ、何なんでしょうか!?」

「多分神ね」


 王城の近くで突如現れた巨人。その頭の先には鬼の様に二本の角が生え揃っている。

 破壊が進んでいる瓦礫の山の間を縫って三人は走っていく。

 至る場所から聞こえてくる悲鳴の声。先程までは活気づいていた街とは思えないほどに狂乱が街を覆っている。


「マザリオ。この近くに瓦礫に下敷きになっている人は居そう?」

「確かめます」


 マザリオは瞳を閉じ、周囲へと注意を向ける。

 様々な声。聞こえてくる殆どの声が驚き慌てふためくものと嘆き悲しむものばかりである。


「……今のところ前方、あと左の方から二つ、『助けて』と呼ぶ声が聞こえます。それ以外は聞こえません」

「ありがとう。それだけで十分」


 オリベルは礼を告げるとマザリオが指差した方向に絞って魔力感知を行う。

 そして弱弱しくなっている魔力の波動を感知すると、大鎌を引き抜きその場から勢いよく駆け出す。


「ああ、誰か助けて」

「任せて」


 オリベルが一振り大鎌を振るうと人を覆う瓦礫が真っ二つに切り裂かれる。しかし力加減が絶妙なのか、瓦礫で下敷きになっている人に切り傷一つ付く事は無い。


「あ、ありがとうございます」


 助けられた家族から礼を聞き取るより早くオリベルは次の助けを求める声の方へと向かい、同じように大鎌を振るって人を助ける。


「……よし、これで終わりかな」


 そう言ってオリベルは再度オルカとマザリオに合流する。


「もう助けたんですか!?」

「うん。少なくともマザリオが聞き取れた人は」


 まだ被害が一直線に放たれた破壊の痕跡だからか突発的に放たれた攻撃であってもそれほど被害者数は居ない。

 そのことにオリベルはホッと安堵の息を漏らしていた。


「全員を助けるつもりなのですか? あなたは」

「全員を助けられるだなんて思ってないさ。でも助けられるなら全員助けたいよね」


 もしも目の前で見過ごしてしまうようなことがあればあの時立てた全員を救い出す、という目標に嘘をついてしまう事となる。

 それすなわち、死期という呪いを乗り越えた自分さえも裏切ることとなるのである。


「すごい。私、感動です」

「そりゃどうも」

「駄目ですよ、マザリオ。この人を調子づかせたら大変なことになります。あの時みたいに」


 あの時、それはオリベルが無理矢理騎士団から抜けた日の事を言っているのだろう。

 だがオルカのその言葉は半分冗談が入り混じっている。

 あの出来事があったからこそ、彼女はディアーノ家からの束縛から脱することが出来たと思っており、寧ろ感謝している側面が強いのである。


「……ってあれ? もしかして」

「おう! やっと来たか! こっちだ!」


 前方に漂っている見覚えのある能力、そして聞き覚えのある声。

 いつぞやの仲間であったリュウゼン達の姿がそこにあった。


「リュウゼン隊長!」

「おっ、オルカも元気そうだな……っともう一人は新顔だな。まあ良い。今は再会を喜んでる場合じゃねえ。あれ、対処しに行くぞ」

「「「はい!」」」


 久しぶりの隊長からの指示にオリベル達の声はどこか力強くあたりに響く。

 赤い騎士服と黒いマントが入り混じった隊列が組まれ、二足で立っている王城の近くの巨人の下へと駆ける。


「マザリオ、付いてこられますか?」

「大丈夫です! オルカさんに鍛えられましたから!」


 マザリオの周囲を身体強化魔法が覆う。それを見てオリベルは少し感心する。

 少し前までは魔力の使い方の何たるかすら分からなかったマザリオの身体強化魔法が凡そ初心者のものとは思えないほどに制御しきれていたからである。

 元々魔力量自体は多いため、宝石亀の素材で作られた装飾品で魔力量を制限されているとはいえ、マザリオの纏う魔力は常人よりも遥かに多い。


 いずれ化ける存在なのは間違い無いだろう。


「おいおい、あれマジかよ」


 リュウゼンがそう漏らすのは言うまでもなく鬼の巨人の動向について。

 あれだけの巨体を持ちながら、あらゆる属性の魔法を周囲に浮かべ始めていたのである。


「あれだけの巨体を満たす魔力量なんてイかれてるわね。でも、そうこなくっちゃ!」


 小さい体を存分に低くして走るミネルが地面を蹴り上げ、空を舞う。


 衝撃波の魔法を扱う彼女は誰よりも早く巨人の前に辿り着くと宙を舞いながら両方の拳を後ろに引く。

 そして二つの衝撃波を生み出し、巨人に向かって勢いよく放つ。


「たくっ、俺の指示も聞かずに飛び出しやがって」


 不意を突かれたのか巨人は少し体をのけ反らせると、ギロリとミネルの方を睨みつける。


「ほら、言わんこっちゃねえ! ミネル避けろ!」

「言われなくても分かって……え、ちょっとヤバすぎ」


 ミネルは十分に回避する余力を残していた。しかし、巨人の焔が纏われながら振るう拳の速さはミネルの想像を遥かに超えていた。


「おらよ!」


 ミネルが回避し損ねたのをディオスが地面を変形させてミネルの腕と脚を掴み、引っ張る。

 そのお陰でミネルの胴体の僅か数cmの所を巨人の剛腕が通り過ぎてゆく。


「ディオス、ナイスだ。ミネル、相手は神だ。もうちょいこっちに合わせろ」

「悪かったわね。いけると思ったのよ」


 ミネルも流石に焦ったのか、リュウゼンの指摘に反論する事は無い。

 相手は神、しかしミネルも神というものの力は知っている。あの魂魄の神の力を目の当たりにしているのだから、彼女が理解していない筈がないのだ。

 その知識、そしてあれから更に強くなったという自信。それらが一切効かないほどに目の前の敵のそれは想像を凌駕していた。


「クローネ」

「オッケー、震えて眠りなさい」


 クローネが放った魔力が全てを飲み込むほど深い闇となって巨人を包み込んでいく。

 クローネの属性魔法は闇属性。敵の魔力や体力などのあらゆる能力を低下させ、逆に仲間全体へ敵から奪った能力分の上昇値を与えるという力だ。

 さらに言えば敵から奪った力を集約した魔力の弾を生み出し、それを打ち出す事ですさまじい攻撃を放つこともできるし、奪った力を自分の力にすることだってできる。


「グオオオオオッ!」


 その間にも鬼の見た目をした巨人は周囲に飛び交う何種類もの魔力をすさまじい魔力の攻撃として打ち出しながら、纏っている強力な身体強化魔法によって強化された拳によって周囲に激しい衝撃波が生み出されていく。


「な、何だあの怪物」

「なにを日和ってやがる! 俺達ぁ闘技士だろ! 戦うんだよ!」


 第二部隊が戦闘を繰り広げている一方で数人、まだ逃げていない獣人がそんな会話をしている。

 一人の獣人が駆け出そうとしたその時、いきり立つ獣人の肩にポンと手を置く者が居る。


「やめときな。君が行くと邪魔になるだけだから」


 見た目はただの白髪の少年。しかし、獣人の肩を押す手に籠もった力は到底振りほどけるような物ではなく、とても子供の力とは思えない。

 そして何より背負っている凶悪な見た目をした大きな鎌がその少年の不気味さを駆り立てている。


「あなた達では役不足です。さっさとお逃げなさい」

「……お、お前達は一体」

「早くしないと首を斬り落としますよ? どうせお尋ね者ですし」

「ひ、ひぃっ!?」


 本当に殺されると思ったのだろう。数人の獣人達は怖気づいてその場から逃げていく。


「マザリオ。ここら辺で聞こえる声はあれで最後?」

「はい。そうみたいです!」

「ありがとう。じゃあ後は()()()()だけだね」


 そう言うとオリベルは戦闘している第二部隊と巨人、そしてその先にある途轍もなく大きな力を見据えていた。

ご覧いただきありがとうございます!


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