129話 超新星ゴウル
闘技大会の控室。いくつかの大部屋に分けられている内の一つの部屋の中では大勢の闘技士達が準備体操をしたり談笑したりしながら自身の順番を待っている。
そんな中、ただ一人沈黙を貫きながら順番を待っている男が居た。
名はシュテン。紅の髪に黒い二本の角を生やしたその男はただ漫然と時が過ぎるのを待っていた。
「なあ、お前一回戦見てたぜ? 強いんだな」
「ん? ああ、そうだな」
「俺の名はゴウルだ。このまま行けばさ、3回戦目で俺達当たるんだ。そん時はよろしくな」
まだルーキーなのだろう。新鮮味溢れる笑顔をシュテンに向けるゴウル。
それに対してシュテンはニヤリと笑い返す。
「手は抜かねえぜ?」
「おうともよ。てか寧ろその逆だぜ。一回戦の時みてぇに手ぇ抜くんじゃねえぞって忠告しにきたのさ。まあ単純に気になったってのもあるんだがよ」
「ほう」
やけに強気なゴウルにシュテンは更に笑みを深くする。
元々、シュテンがこの大会に出場したのは賞金欲しさもあるが、別の理由があった。
その理由以外に意義を見出していなかったシュテンの新たな楽しみとしてゴウルが加わった瞬間であった。
「おっと、こうしちゃいられねー。一回戦行ってくるぜ」
「おうよ。俺に啖呵切ってんだ。負けたらダセーぞ?」
「負ける訳ないさ」
そう言ってシュテンに背を向け歩いていくゴウル。
その後ろ姿を見守るとシュテンはボンヤリとこう呟く。
「……親父みてえに強引な奴だったぜ」
♢
「お待たせいたしました! 次の試合は彗星の如く現れた大型ルーキー! 次の時代を背負うのはこいつか!? 超新星ゴウル!」
ビッグネームばかりが連なる中、ルーキーとして出場するという事はかなり珍しい。
つまりはそれほどの実力者であるという事だ。
「ゴウル選手もゴウル選手で中々良いんですよね〜。新人の中でもハンゼラルと人気が二分されているくらいには強いんですよ。私自身ハンゼラル選手とゴウル選手でどっちが推しか大分悩みました」
「へえ、そりゃ楽しみだ」
情報収集の事など二人の頭からはとうに抜け落ちているのだろう。
オリベルに至っては最早正体を隠そうともしていない様子で前のめりになってステージを眺めている。
「対する相手は傭兵出身の荒くれ戦士、ラングレイッ! その手に持つ盾による堅牢な守り、そしてもう片方の手に持つ鋭利な槍から放たれるは暴力的な一撃です! こちらも今大会優勝候補の一人でございます! さあ、さあ、盛り上がってまいりました、闘技神統一大会! ゴウルVSラングレイ、レディィッ、ファイッ!!!!」
獣人が多い大会で珍しく両者とも人間による戦いである。
さっそく、ゴウルの方から動きが生じる。
茶色の髪を棚引かせながらラングレイへと迫ると、片手を何もないところで引っ掻くようにして振るう。
何の効果もないように見えたその行動はしかして、堅牢な守りに身を固めていた筈のラングレイの体を地面へと叩きつけていた。
「何だあの魔法?」
「ゴウル選手の空間属性魔法ですね。今のはラングレイ選手の周辺の空間を掴んで無理やり捻じ曲げたっぽいです」
「あれだけでそこまで分かるの?」
よく見ているとかいう次元ではない理解力のアーリを見てオリベルは驚愕する。
対するアーリはこれくらい何てことはないといった様子である。
「まあかなり調べていますからね~」
「それだけじゃ無理だと思うけどな」
実戦経験があるのならまだしも宿屋の看板娘にそんな経験がある筈もなく、余計にオリベルの中で謎が深まっていく。
「それはそれとして空間に直接干渉できる魔法か。強いな」
「はい。相手の防御なんて意味無いですからね。守りを得意とするラングレイにとっては分が悪いでしょう」
アーリの言葉通り、ゴウルの攻撃に対処できないでいるのかラングレイは苦しそうにしている。
苦し紛れに放たれた槍も空間を捻じ曲げられることによって回避され、その度にゴウルによる攻撃がラングレイに突き刺さる。
ラングレイもラングレイで流石は優勝候補と言ったところか、何度地面に叩きつけられようとも持ち前の耐久力で何回も立ち上がる。
しかしそれが永遠に続くはずもない。
防戦一方であったラングレイの方に徐々に隙が生じ始めていた。
その隙を見逃さず、ラングレイは次から次へと攻撃を繰り返す。
そして遂にラングレイは槍を地面に突き刺し、立ち上がろうとするも足に力が入らずその場に倒れるのであった。
「勝負あり! いや~、アツい戦いでした! ゴウルVSラングレイの勝負はラングレイのノックダウンによりゴウルの勝利です! 負けたラングレイも流石のしぶとさを見せました! 皆さま、両者に惜しみなき盛大な拍手をお願いいたしますッ!」
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