128話 前王者VS現王者
「さて、初っ端から面白くなってまいりました闘技神統一大会! お次はこの方! 闘技士になってからは負け知らず! 近々の大会では全て優勝しておりますこの男! ハンゼラルゥッ!!!!」
「来ました来ました。ハンゼラルですよ! 私が今一番推してる闘技士です!」
アーリがはしゃぎながら指を差した男は筋骨隆々とはいかないどちらかと言えばスリムな男性。身長はかなり高くオリベルよりも二回りくらい大きい。
そして腰には細身の長い剣が差されている。あの獲物を振り回すとなれば相当の筋力が必要だ。狼の獣人であるからこそ使いこなせるのであろう。
「この今最もノッテいる男に挑戦するのはなんとっ! あ、なんとっ! 近年はハンゼラルに負けて優勝を逃してはいるものの一昔前まではこの女の時代だった! レジェンド闘技士、ビクウィン!!!!」
司会者の紹介を受け、更に会場中で歓声が沸き上がる。そしてハンゼラルの前に現れたのは大柄の兎人の女性であった。
「前王者VS現王者。こんな戦いがまさか第一試合だなんて……勿体なさ過ぎ! でも楽しみです!」
「ハハハ、そりゃ何よりだよ」
アーリが盛り上がっているのをオリベルは微笑ましく一瞥すると、ゆっくりとステージ上へと視線を戻す。
狼の獣人ハンゼラルと兎の獣人ビクウィン。
両者、互いを睨みあい、その場から動かない。
「ではでは今大会の目玉試合のうちの一つを始めちゃいましょう! ハンゼラルVSビクウィンで~レディファイッ!」
その瞬間、ハンゼラルとビクウィン両者の姿がその場から消える。
次に現れたのはステージのど真ん中で剣を交わす二人の姿であった。
その勢いはすさまじく、観客席にいるオリベルの所までもヒリヒリと伝わってくる。
「すっご~……やっぱり圧倒的な力を見せつける戦いも良いですけど、こうして強者同士が接戦を繰り広げているのを見るのもまたおつなものです」
「だね。撃ち合いの激しさがこっちまで伝わってくるよ」
オルカやミネルほど戦闘に飢えているわけではないオリベルですら体が疼く。
もしもオルカがこの場に居たなら今からでも参加するとか言いそうだ、なんてオリベルは一人思う。
「おおっと! ここでハンゼラルによる強烈な一撃がビクウィンを襲う!」
司会者が言う様に剣を交わし続けていた両者の均衡を崩すかのように隙を突いたハンゼラルの蹴りがビクウィンの脇腹を刺す。
食らったビクウィンはその衝撃で数メートルほど体を飛ばされるも、サッと受け身を取り地面に降り立つ。
しかし、体勢を立て直したビクウィンへすぐさまハンゼラルが迫りゆく。
細身の剣が地面を削り下方から上方へと切り裂く様に迫る。
それに反応してビクウィンが剣を斜め上方から走らせ、ハンゼラルの一撃を防ぐ……筈であった。
いつの間にか前方に居たはずのハンゼラルの姿がビクウィンの後方で剣を振るっていたのである。
「で、で、でた~! ハンゼラルの幻影! 彼の属性魔法は前王者でさえ防ぐことは不可能なのか!?」
後ろを取られたことに気が付き、ビクウィンが風で作り出した刃を打ち出そうと構えるがすでに遅い。
ハンゼラルの剣がビクウィンの背中を斬りつける。
身体強化魔法が体を覆っているためかビクウィンは致命傷を負う事はなかったもののハンゼラルの攻撃が直撃したためか、更に体勢を崩す。
こうなれば最早ハンゼラルの思い通りに事が進んでいく。
次から次へとビクウィンから放たれる風の刃はハンゼラルによって作り出された幻影に翻弄され、体力を削られていく。
そしてとうとうその時が訪れる。
ステージで膝をついたビクウィンの首筋にハンゼラルの剣が当てられる。それを受けてビクウィンは両手を上げて降参の旨を表する。
「ここで試合終了ですッ!!!! 前王者対現王者のアツき戦いは現王者ハンゼラルによって制されるのでありました! 皆さま、この名勝負により一層の拍手をお願いいたします!」
司会者がそう告げた瞬間、会場中に拍手と歓声の音が響き渡る。
「ハンゼラル! カッコよかったぜ!」
「ビクウィンもお疲れ様だ! またアンタの試合、楽しみにしてんぜ!」
観客席から浴びせられる二人を讃える声の数々。
その事から二人が如何ほどこの闘技場にて人気があるのかが分かる。
「ハンゼラル、ナイスです! いや~、やはり推しの試合は興奮しますね~」
「だね。僕も出場しておけば良かった」
オリベルの体内をゾクゾクと走る高揚感。これこそが闘技大会の一番の魅力なのと肌身に沁みる。
高揚感に気付くとオリベルは、変わったものだなと自分自身で思う。以前のオリベルならばまず無かったであろう感情だからだ。
「いやオリベルさんはダメですよ。捕まりますし」
「うん。そりゃそうだよね」
そしてアーリに突っ込みを入れられ、破顔するのであった。
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