126話 ゲスト
「レディースアーンドジェントルメーン、ボーイズ&ガールズ! 今年も遂にやってまいりました、闘技士達による夢の祭典、闘技神統一大会! 果たして優勝は誰の手に!?」
会場中に響き渡る司会進行の声。その声と共に観客席から凄まじい程の歓声が沸き上がる。
真の髄から伝わってくるこの感触がオリベルの身体をゾワリと撫でる。
まるで一体となったかのような観客席。オリベルの隣ではそれを体現する少女が居た。
「いえーい!」
「楽しそうだね」
「そりゃあもう! あっもちろん情報収集の事も忘れておりませんよ。こうして周囲に目を光らせておりますので。ついでにステージにも目はいっちゃいますけど!」
「ははは、別に楽しかったら何でもいいさ」
オリベルとしてももう情報収集なんてどうでも良くなっていた。その理由は先程すれ違ったリュウゼン達にある。
それだけでも十分オルカへの土産話となるだろう。
「ここで本日のゲストを紹介いたします! まずは毎度お馴染み、今年も遠い国からはるばるとお越しいただきました! 冒険者ギルド最高責任者スザク・ギルバート!」
「ほっほっほ、毎度おなじみのスザクじゃ。今宵も良さそうな奴が居ったらバシバシスカウトしていくからのぉ」
少し失礼な物言いに乗って返す高齢の男性。彼こそが冒険者たちを束ねる冒険者ギルドの頂点の存在である。かなり高位の存在ではあるが、司会者との受け答えからして顔見知りになる程には常連であることが伺える。
「我々としては人気闘技士がスカウトされるのは困りますが、これも人類のためですからね~。致し方ありません。そしてお次です! 皆さん、お待たせいたしました! 街を歩けば美女だらけ! そんな夢のような国の女王! エスメラルダ女王国の女王陛下ことスフォーニア・ディ・エスメラルダ女王陛下でございます!」
「少し大げさでしょうか。皆さん、よろしくお願いいたしますね?」
所々にピンク色が入った水色の長髪を持つ美しい女性が司会者からの振りにそう答えると会場中が大いに盛り上がる。
「エスメラルダの女王が美人美人って聞いてはいたけどよ。まさかあんなに美人だとは思わなかったぜ」
「絶世の美女ってのはああいうのを言うんだろうなぁ。くそ、あんな美女の旦那になれる奴が羨ましい」
そんな声が会場から聞こえてくる。男性のファンが多いらしく、紹介が終わってもなお、野太い声が闘技場内で響き渡る。
「そして獣王国と言えば当然この方! クラーク獣王国現獣王、そしてこの国最強の戦士でもあるアイゼンフォーグ・ドン・クラーク獣王陛下です!」
司会者にそう言われて獣王が立ち上がり、観客へと挨拶をする。闘技大会を開く国の王なだけあって虎の顔の下には鍛え上げられた黄金の筋肉が輝きを見せている。
「そして最後がなななんと!? スペシャルゲストとして最強の騎士団を擁する人類の希望、ウォーロット王国からオーディ・フォンウォーロット王太子殿下がいらっしゃってくれちゃいました! 護衛は何と最近巷で人気! あの第二部隊の方々も一緒でございます!」
その瞬間、今までで一番大きな拍手と歓声が鳴り響く。
そんな中、オリベルは先程リュウゼンと出会った理由を思い出す。
「なるほど、こんな用事で来てたんだ」
「ですね! ビックリしちゃいました! すごいです!」
ゲスト席にはオーディ王太子の他にオリベルと馴染みの深い第二部隊の面々が立ち並んでいる。それをオリベルは少しきまり悪そうに眺める。
自分が騎士団を抜け出した時に多大な迷惑をかけたであろうことを理解しているからである。
それと同時に元同僚たちが今なお賛辞の声を浴び続けている様を嬉しそうに見守る。
「第二部隊は危険度SやSSといった高危険度の魔獣を次から次へと討伐していたり、前線での拠点を一つ奪還したりしたことで急激に人気が高まったみたいです。直に第一部隊に昇格するのではなんて言われてますよ」
「まあ元々あの人たちは強いからそうなるだろうね」
実際にあの部隊に居たオリベルが一番それをよく分かっている。何せ神の力をある程度操れるようになった今のオリベルですら当時のリュウゼンに勝てるかは怪しいくらいである。
しかも先程のリュウゼンの力は以前よりも遥かに強化されていることがオリベルには分かった。だから余計に口ではああ言ってはいたものの実は尊敬の念を抱いていたのである。
「あの王太子様だから賭け事を平然とやっても許されてたんだろうな」
「王太子様ともお知り合いなのですか?」
「うん、ちょっとだけね」
そう言ってゲスト席に居るオーディ王太子を見つめるオリベル。その時、オーディ王太子がオリベルの方を向いてニヤリと笑みを浮かべた様に見え、オリベルは慌てて目を伏せた。
「さ~て、スペシャルゲストも含め様々なゲストの方々も来ていただいております! 中には現役のSランク冒険者の方もいらっしゃいますよ! てなことで前説はここまで! 早速始めちゃいましょう! 闘技神統一大会、開幕です!」
司会者がそう告げると歓声がさらに大きくなっていく。
オリベルも初めての闘技大会観戦であるためか心なしか口角を少し上げて闘技場を見やるのであった。
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