125話 王太子直属の部隊
「やっぱこいつが強そうなんだよ。そう思うよな?」
「はぁ」
オリベルとアーリは今、リュウゼンに絡まれどの闘技士が優勝するのかという賭け事に付き合わされている途中であった。
肝心なのはリュウゼンがオリベルに対して明確に正体を突き付けていないという事にある。ただ近くに居たから声を掛けられて付き合わされている、そんな雰囲気を醸し出していたのだ。
しかし、そんな事はないだろうというのはオリベルも深く理解していた。だからこそオリベルを捕えないままずっと賭け事の話を展開していることに疑問を抱いているのである。
「いえ騎士様。今期は最近の戦いぶりを見るに明らかにハンゼラルが優勝します。まだまだ新人ではありますが、闘技士になってからの大会は全て優勝していますので」
「お、マジか。おいおっさん。ハンゼラルの倍率は?」
「10倍くらいだな」
「おい滅茶苦茶良いじゃねえか! でかしたぜ、嬢ちゃん」
「そりゃあもう。何て言ったって大の闘技士マニアですからね。ウォーロットに居た頃ですら欠かさず闘技士便りを読んでいたくらいですもの」
アーリとリュウゼンが話に盛り上がるのをよそにオリベルは未だリュウゼンの考えていることが分からず、戸惑ったままだ。
良くも悪くもウォーロットの騎士というものは非常に目立ちやすい。そんなところに居たくないというのもあり、かつての上司と出会えて嬉しくもありと何とも複雑な感情なのだろう。
「よしよし、当たれば俺の未来は安泰だ。これで働かなくて済むぜ」
「あんたウォーロットの騎士だろ。しっかりしてくれよ~。あんたらの活躍に俺達の生活がかかってんだからよ」
「わあってんよ」
賭ける際には金を払って闘技士の名前が彫られた札が渡される。もしも優勝すればそれを使って換金できるのだという。
その札を購入し満足そうに呟くリュウゼンに思わず受付の男が突っ込みを入れる。
そしてそれを聞いたオリベルも尤もであると隣で頷いている。
「いやぁ助かったぜアーリちゃん。お陰で俺は億万長者だ」
「いえいえ~。闘技士の事でしたら何なりとお聞きください」
「頼もしいぜ」
そうアーリに言い放つとリュウゼンは次にオリベルの方を向いてこう尋ねてくる。
「ところでオリベル。オルカはどうした?」
「……まあやっぱり気付いてますよね」
そして案の定オリベルの正体に気が付いていたリュウゼンからそう話しかけられたオリベルは驚くこともなくそう呟く。
「そんだけ目立つ鎌持ってんだから気付いて当然だろ。もしかして変装でもしてたつもりだったのか?」
「いえ。別にバレてしまっても撃退すればいいだけですので大した変装はしてないですけど」
「へっ、言う様になりやがったな。最初は危険度Cの魔獣ですらあっぷあっぷしてた癖によ」
オリベルの言葉には暗にあなたにも捕まりませんよという言葉も隠されていたが、リュウゼンはそれに目くじらを立てることもなくただ愉快そうに笑う。
オリベルからしても半分冗談ではあったためそのリュウゼンの様子にただ懐かしそうに目を細めるだけであった。
「リュウゼン! 早く来て。ここに居ると人に囲まれて疲れるわ」
そんな時であった。遠くの方からリュウゼンを呼ぶ女性の声が聞こえる。
その女性もまた赤い騎士服に身を包んでいた。そしてオリベルにも見覚えがあった。
「悪いな。ミネルが痺れ切らしちまったみてえだから行ってくるわ。お前も頑張って逃げるんだぞ」
そう言って背中をどんどんと叩くと笑いながらオリベルの下から立ち去っていく。
「誰と話してたのよ?」
「あー、昔の知り合いだ」
「ふーん、私も知ってそうな知り合いね」
そう言い合いながら二人は遠くへと歩いていく。
「何だか穏便に済みましたね」
「おかしいな。僕でないなら何の依頼でここに来たんだろう?」
既に第二部隊になっている筈の彼等はそう易々と前線以外の任務へと駆り出されることはない。
強いて言えば危険度Sを超える魔獣が発見された時くらいなものである。
しかし、闘技大会を開いている所を見るにそんな緊急事態にも見えない。
「それにしても赤い騎士服って珍しいですね〜」
「あー、それは王太子直属だかららしいよ。この前、新聞か何かで読んだ」
「ええっ!? 王太子直属なんですか!? うわ〜サイン貰っておけばよかったです〜」
オリベルが抜けてからというもの、王太子直属の部隊として抜擢された第二部隊は大衆からの人気を集めていた。
それこそ神殺しと遜色ないほどに。
今も遠くの方で二人の正体に気付いた観衆達に囲まれているのが見える。
「まあ次会った時に僕が貰っとくよ」
「えっ!? 良いんですか! じゃあ楽しみにしてます♪……って早く席に向かわないとですね! 直に始まりますよ!」
情報収集はどこへやら目を輝かせながらアーリに引っ張られていくオリベル。
その顔には照れ臭そうに笑みを浮かべているのであった。
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