124話 闘技場
「ということで私はマザリオと訓練いたしますので」
「僕が一人で情報収集に行けって?」
オリベルが尋ねるとオルカは深く首を縦に振る。その横でマザリオが助けを求めるかのように目を潤わせながらオリベルの方を見つめている。
「一応、追われてる身なんだけどな」
「あなたなら追手くらい蹴散らせるでしょう?」
「それは相手によるけど。ていうか道分からないしさ」
どうしたものかと後頭部を掻きながら思考を始めるオリベル。初めての町であるため、人に道を聞きたいところではあるが生憎追われている身であるため、それもかなわない。
そんな時であった。
「あ、じゃあ私がご案内しましょうか? 暫くは宿も開きませんし」
アーリがオルカ達の後ろからそう声を掛けてきたのである。確かにアーリであれば獣王国を案内するのはうってつけであろう。
「本当!? じゃあ頼むよ」
「うふふ、頼まれました!」
猫耳をピンとさせてそう返答するアーリの様子はどこか嬉しそうである。今のオリベルはお尋ね者であっても彼女の中ではまだ騎士のままなのである。
だからこそ再会した際にも指名手配を受けている凶悪犯としてではなく以前のような尊敬できる存在として接していたのだろう。
それに彼女はオリベル達のお陰で店を繁盛させることが出来たと思っている。その恩返しをしたいと常日頃から考えていたのだ。
「じゃあ行きましょうか。オリ……リベルさん!」
「もうオリベルで良いよ。面倒だし」
「あっ、ちょっと待ってください」
そうしてアーリに連れられてオリベルが町への一歩を踏み出そうとすると、マザリオから待ったの声がかかる。
二人が不思議そうにマザリオの方を振り向くと、何やら手を差し出しているのが見える。
「お三方とも少し手をお貸しください」
「うん? 分かった」
三人は言われるがままにマザリオの手に触れる。しかし、待てど暮らせど三人の体に変化が現れることはない。首を傾げながらただ目を瞑るマザリオの方を向く、まさにその時であった。
『聞こえますか?』
三人の頭の中にマザリオの声が響き渡るのであった。マザリオの口は動いていない。直接脳に話しかけてくるような、そんな声であった。
「魔力を自由に操れるようになったお陰で魔力を覚えた人と遠く離れていても会話することが出来るようになったんです。もちろん、私とだけではなく私を仲介させて他の人と会話することも可能です」
「ええっ!? 凄すぎませんかそれ!?」
「いや流石に僕も驚いたな」
「そうですね。こんなことが可能だと世間に知られれば途轍もないことになりそうです」
そんなことが可能ならば遠方での連絡はもちろん秘密の会話もこの力を通してすればよいのである。突然の報告であまりにも有用なその力を知らされた二人は驚きに顔を染める。
『驚けていただけたみたいで嬉しいです! これで訓練が無しになるとか……』
「素晴らしい力ですね。その力と更に戦闘力も身に付ければ完璧です。さあ、訓練に行きましょう」
「ですよね~」
そうしてオルカに引きずられていくマザリオを二人は苦笑いしながら見送ると、くるりと二人に背を向けて歩き出すのであった。
♢
アーリから案内された場所は城と見紛うほどに大きく武骨な建物であった。二人はそのまま建物の中に入るといかにも戦士然とした男女が数多く列をなしていたのである。
どうやら獣人の他にも普通の人族も参加可能であるらしく、所々に人族の姿が見受けられる。
「ふーん。ここが闘技場かぁ」
「はい! それに今日は何とあの闘技大会で最も大規模な大会だとされている闘技神統一大会が開かれるんです。いや~、今年の闘技神が誰になるのか気になりますね~」
闘技神統一大会というものは闘技を行う者の中で最も強い闘技神を決める大会であるのだという。一度、闘技神になれば各国からのスカウトが止まらなくなるほどだという。
そして伝説の獣人と呼ばれていたバウラスはこの大会で無名でありながら見事、闘技神の座を手に入れて人気を勝ち取ったのだという。
「ここならきっと沢山人も集まりますし情報も集まりますよ♪」
「あはは、ありがとう」
そう言うアーリの表情は興奮を抑えきれないといった具合だ。誰の目から見ても彼女が来たかっただけという印象を受けるが、それを敢えて言う事はなく観客席の方へと足を踏み入れたオリベルは闘技場の中を見渡す。
そしてその視線はとある一点でピタリと止まる。
「おい。この闘技士はどんくらいの倍率なんだ?」
「お? 騎士のお兄さん、良い目してますねぇ。今んとこ大体200倍くらいですぜ」
「200倍だと!? おいどこが良い目だ! 全然弱えじゃねえか!」
恐らくどの闘技士が優勝するのか金をかけることで予想をしているのだろう。ただ、オリベルの目に留まった理由はそれだけではない。
倍率が200倍だと聞いて声を荒らげるそのオレンジの髪の若者が羽織ってるのはウォーロット王国の騎士を表す紋章が施されたマント。
以前とは違い、赤い騎士服と赤いマントを身に着けているその男性はどこからどう見てもリュウゼン隊長その人なのである。
「どうかされましたか?」
「い、いや。知り合いかと思ったけど多分気のせいだったみたいだ。うん。取り敢えずここから離れてもっと景色の良いところに移動し……」
オリベルがそう言ってリュウゼンらしき人物に背を向けて歩き出そうとしたその瞬間であった。
「っておい! そこの大きい鎌背負ってる奴! ちょっと待ちやがれ!」
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