122話 獣人の国
「わ〜、獣人の国だなんて初めて来たので見た事ない物ばかりです〜」
そう言ってマザリオがはしゃぎながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
その頭にはオリベルから貰った宝石亀の装飾がなされたカチューシャを着けている。
オリベル達は今、ウォーロット王国を抜け出し、獣人達の国、クラーク獣王国に居る。
何か目的があって来たわけではなく、ただ途中にある国だから情報収集のために寄っただけであった。
オリベルの目的は今も変わらず英雄であるステラを助けるため。
それを成し遂げるために前線と呼ばれている、魔獣の支配地域と人間の支配地域との境目を目指しているのである。
「それにしても武装している方が多いですね。何かあるのでしょうか?」
「ウォーロットより前線に近いからじゃない?」
そう言いつつもオリベルも少し疑問に思っていた。武装した者が皆同じ方向へ向かっているのである。
フードを目深に被りながらオリベルは周囲を観察し始める。
「……って、何か買ってない?」
「はっ!? いつの間に私、こんなに買ってたのですか!?」
オリベルに言われて我に返ったようで自身の持つ荷物を見て驚愕するマザリオ。
どうやら屋台で色々気になるものを買い漁っていたらしい。
「そんなにお腹が空いていたのですか?」
「す、すみません! つい!」
宿代すら無かった彼女は今や腕に収まりきらんほどの食べ物を購入できるほどになった。
二人と行動を共にする前には出来なかった事への反動なのだろう。
三人は魔獣を討伐しては素材を売り、その報酬を三等分していたため、マザリオは欲望を可能にするほどの金を手にしていたのだ。
「まあ別に責めてるわけじゃないんだけどね。よく食べるなって思っただけだから」
「よ、よく食べる!? いえ! 本当の私はこんなに欲深い奴じゃないんです! 今日はたまたまでして」
「これいくらですか?」
「いやオルカもかよ!」
はちゃめちゃに焦りながら弁明をするマザリオの横でオルカも近くにあった屋台で買い物を始める。
マザリオがご飯系を買い漁るのに対してオルカはスイーツをご所望のようである。
渡された棒に刺さった大きな飴を口に咥えてオリベル達の方へと戻ってくる。
「あなたも何か買ったらどうです?」
「僕は良いよ。あんまり人に近付くと良くないし」
店主と会話をすれば否が応でもフードを目深に被り顔を見せないオリベルの事が記憶に刻まれるだろう。
そして騎士団がもしここへやって来た時、オリベルの事を聞かれた店主はこう答えるのだ。
怪しい人物を見かけた、と。
「つまらない人ですね。追手が来ても返り討ちにすれば良いんですよ」
「そうですよー。お二人とも強いんですから。ていうか背負ってる鎌が死ぬほど目立つのでそんなの関係ないと思います」
「うっ、確かにそんな気がする……それなら仕方ない、仕方ないよね。親父さん、鳥串を一つ」
そうして三人は屋台での買い物を楽しみながら歩いていく。
獣王国ではかなり食の種類が豊富であり、三人は次から次へと目移りしていった。
そんな時である。
「あれ? オルカさんじゃないですか?」
声を掛けられた瞬間、オリベルとオルカは勢いよくその場から距離を取ると、声を掛けてきた人物の方を向く。
一方でマザリオは何が何やらわからず、急に身を翻した二人に驚きあたふたしている。
「あっ、すみません。久しぶりにお会いしたのでつい嬉しくなってしまいまして」
「……あなたは確か」
そうして三人の前に現れたのはいつぞやにオルカとオリベルがお世話になった定食屋兼宿である「キャッツ」の看板娘アーリであった。
「お久しぶりですね、オルカさん。それにそちらの鎌を持っているのはオリベルさんかい?」
アーリに続いてキャッツの女将と亭主も三人の前に現れる。
「お久しぶりです、御三方」
正体が分かったため、オリベルとオルカは一旦警戒心を解いて三人の話を聞く。
三人によれば、王都では既に一、二を争う程に繁盛している定食屋兼宿となり、近々全国に店舗を展開したいのだという。
その資材調達の為に故郷であるクラーク獣王国に帰って来たところちょうどバッタリでくわしたのだとか。
「それもこれも騎士様が通ってくれていたお陰ですよ。あ、今は騎士様じゃないんですっけ?」
「はい。今はただの旅人ですので」
ウォーロットの騎士が通っている、その情報で騎士に会おうとキャッツに人が集まってきた。しかし、そのサービスの良さから今では王国随一の宿屋になっているのだ。
「お知合いですか?」
「うん。王都に居た時、お世話になった宿屋さんだよ」
「お世話になっただなんてそんな。こちらこそですよ、オリベルさん」
宿屋の女将が照れ臭そうに告げる。
「そう言えばオリベルさんにオルカさんとそのお友達さん。今日泊まる宿屋はお決まりですか?」
「いや、まだ決まってないよ。ていうか普通の宿屋には泊まれないかな? 僕、追われてる身だし」
「それなら私達にお任せくださいませんか? ちょうど故郷に作った開店前の宿があるのです。ぜひそちらに!」
「え、ありがとう! お言葉に甘えます!」
こうしてオリベル達はキャッツが所有する宿へと向かうのであった。
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