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119話 決着

 次から次へと打ち出されてくる極太の光線。それらを軽々と回避しながら口元にまで接近すると、勢いよく鎌を振り抜き攻撃を加える。


「しぶといな」


 一体これまでに何回鎌を振るったことか。一回一回で決定的なダメージを負わせているはずだというのに一向に倒れる気配を見せない宝石亀に段々と業を煮やしてくるオリベル。

 下方ではオルカの爆発魔法がひっきりなしに足を宝石亀の足を吹き飛ばし、宝石亀の機動力は最早無いに等しい。

 口から光線を放つことしか出来ない宝石亀にただただ鎌を振り下ろしていくだけではあるが、オリベルにも全力を出せる時間の限界という物はある。

 全身を同化させることに成功しているとはいえ、まだ不死神の声が聞こえるわけではない。声が聞こえて初めて神からの全ての力を享受することが出来る。それでも強力なのには変わりないが。


 そんな中、突如として宝石亀の全身が輝き始める。あの第三部隊の面々を一掃した超爆発である。

 もちろん、先程来たばかりのオリベルがそれを知っているわけはない。ただ、異常なまでの魔力の高まりには気が付いているようで、オリベルは警戒を示す。

 そんなオリベルの前方に水で出来た盾が現れる。第三部隊隊長のイルザ・ホーエンハイムの魔法によって作り出されたものであった。


「手助けしてくれるのですね」

「仕方ないじゃない。あなた達が倒れたらあの魔獣を倒すのは無理なんだし」


 次の瞬間、眩いばかりの光を放ちながら超爆発が巻き起こる。すべてを薙ぎ払わんとするその爆発は周囲の者をすべて吹き飛ばすほどの爆風を引き起こす。

 イルザはすぐさま自身とその近くに居るオルカやマザリオを水の球で覆い、爆風から身を守る。幸いにも三人は宝石亀からかなり離れていたため、爆風に吹き飛ばされずに済む。

 

 問題は宝石亀の近くに居たオリベルである。水の盾を張ったとはいえ、それだけであの爆発を凌げるはずがないということはイルザがよく知っている。

 自身が無事であるとわかるとすぐさまオリベルの姿を探し始める。そうしてやがて眼前に広がるその景色を見て驚愕するのであった。


「嘘、でしょ」


 宙に浮く真っ白な魔力の防壁。あれほどの魔力爆発の近くに居たというのにその中から出てきたオリベルの体には傷一つ付いていなかったのである。


「オリベルの身体強化魔法は異常ですからね。あの程度の爆発では太刀打ち出来ません」

「いやいやいや、ただの身体強化魔法よ? それだけであの爆発を防げるだなんて、あり得ない」


 確かに身体強化魔法は防御壁となって魔法使用者の身体を守ることはできる。ただ、今放たれた攻撃はその程度では到底防ぎきることが出来ないほどに強力な一撃であったのだ。


「もし本当にただの身体強化魔法で防いだのだとしたら、そんなの神殺し以上じゃない」


 イルザが衝撃を受けている一方でオリベルはすぐさま攻撃態勢に入っていた。


「その攻撃を撃った後、隙だらけだな」


 超爆発を放った直後、ピクリとも動かない宝石亀を前にしてオリベルは強大な黒い斬撃を放つ。そしてその斬撃は超爆発前よりもはるかに大きな傷を宝石亀に与える。


「なるほど、あの技を使うと一時的に防御に回せる魔力が消えるのか。それなら一気に畳みかける!」


 そう呟いた瞬間、オリベルの纏う魔力がガラリと変化する。真っ白な魔力から光の一切を通さぬような漆黒の魔力へとその姿を変えていく。

 そして金色に光っていたオリベルの両眼も徐々に赤く染めあがっていく。


『ようやく俺様の力を使うようになったか、小僧。さあ、早く体を明け渡せ』


 オリベルの全身にズシリと響き渡る悍ましい声。完全に同化した者だけが聞こえる、封印されし神の声である。

 本来であれば神と友好関係を結んだ者にしか聞こえないその力をオリベルは無理やりに引き出していた。


「少し大人しくしていてくれ」


 オリベルの体がその場から消える。そして次に現れたときには既に宝石亀の真正面に居た。放たれるは天をも分かつ黒い閃光。


天牙黒閃(てんがこくせん)!」


 宝石亀の巨体をも飲み込むほどの強大な斬撃。魔力が戻り、防壁を張ろうとした宝石亀であるが、時すでに遅し。

 天をも分かつ黒き斬撃が巨大な頭蓋を砕き、宝石亀の体に深い斬撃痕を残す。


 そしてその攻撃に耐えかねた宝石亀は少し間が空いた後、その場に崩れ落ちるのであった。


『何だ詰まらねえな、もっと苦戦しやが――』

「同化解除」


 完全に宝石亀を倒しきったと判断したオリベルは着地するとすぐさま不死神との同化を解除し、その場に倒れこむ。


「危なかった。あともう少し同化していたら飲み込まれるところだった」


 それでいて最早オリベルは自分の身体を動かすのですら困難であった。神の力を強引に引き出すというのはそれだけ危険を伴うものなのである。


「お疲れ様です、オリベル」

「オルカ、ごめん。僕一人じゃ立てそうもないや」


 オリベルのその言葉を聞き、マザリオを背負ったままオルカはハアとため息を吐く。


「いつになったら一人で戦えるようになるんですか? というか戦闘中の力の出し方がまるでなってません。どうして毎回毎回動けなくなるような戦い方をするんですか? 戦闘後に介抱する私の身にもなってください」

「ご、ごめんなさい」

「あなたという方はですね本当に――」

「まあまあオルカさん。オリベル君のお陰で宝石亀を倒せたんだから」


 オリベルに不満を募らせるオルカを宥めるのは先程までオリベルの強さに驚愕していたイルザ・ホーエンハイムである。

 オルカもイルザのその言葉で説教を止める。それと同時にオリベルの表情に安堵の色が浮かぶ。

 その場の空気が和んでいく。推定危険度SSである宝石亀をようやく討伐できたのだという安心感もあるだろうが、イルザはそれよりも二人が本当に悪の心を持っていないのだと知って安心していたのである。


 イルザはオリベル達が騎士団を抜け出した真の理由を知らない。だからこそ指名手配を受けていると聞き、悲しみを抱いていたのである。


「あなた達、騎士団に戻る気はあるのかしら?」

「ありません。あそこでは僕の目的が果たせませんから」

「私も戻るつもりはありません」

「そう。分かったわ」


 そう言うとイルザは二人に背を向けると、町の方へと歩きだす。


「今回の事は宝石亀の件もあるし不問にしてあげる。次は無いわよ」


 振り返ることなく二人に向けて手を振るとイルザは仲間の騎士達を水魔法で連れて去っていく。

 その後ろ姿を眺めながらオルカはこう呟くのであった。


「よかったです。これで残りの敵が()()()()()()()

「おやおや、気が付いておりましたか」


 そんな声と共にマザリオを宝石亀の下へと仕向けたあの大男が姿を現すのであった。

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