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118話 成長した二人

 オリベルは宝石亀からの攻撃を黒い大鎌を振るう事で防御すると、意識を失い、今にも地面へと倒れ伏すマザリオの身体を抱える。


「難儀な呪いです。こうも頻繁に発作が起こっていてよく今までの冒険者生活を乗り越えてこられましたね。普通なら死んでます」


 そう言って姿を現したのは艶やかな黒い髪を棚引かせた美しい少女、オルカである。

 オルカの言葉も最もである。戦闘中に自分だけではなく仲間までもが意識を失うという状況は普通ならば絶体絶命の危機に陥るものである。

 本来ならば冒険者を続けられるものではない。それはマザリオも理解していたからこそ今までは討伐任務に出向かなかったという背景があるのだが。


「運が良いのかもね」


 そう言ってオリベルは腕に抱いているマザリオの顔を見る。

 苦しみに歪んだ顔。意識の無い今もなお、うなされているのか時折くぐもった呻き声が聞こえてくる。


 その様子を見た時からオリベルの中には一つの気付きがあった。

 以前までの自分と同じだ、と。


 もしかすればマザリオからすれば否定されるかもしれないし何ならオリベルよりも過酷な人生を歩んできた事だろう。

 しかしそうは思わずにいられないのだ。


 いつの間にか他人の死期が見えるという力に苛まれてきたオリベルにとって彼女の苦悩は共感出来るところがあった。

 だからこそ一緒に来たら良いと発言したのだろう。


「オリベル。取り敢えず彼女は回収出来ましたし逃げますか?」

「いや、どういう訳かあいつ、マザリオを狙ってるみたいだし倒した方が良いんじゃないかな」

「なるほど。一理あります」


 オリベルに同意を示したオルカは前方で暴れ狂っている宝石亀を見上げる。

 相手はAランク冒険者達はおろかウォーロット騎士団第三部隊全ての力を以てしてもなお討伐不可能であった魔獣である。


 二人はそれを理解していながらなお、軽い口調で「倒す」と言っているのだ。

 万人はそれを蛮勇という事だろう。無知だからこその見栄であると。


 だが果たしてこの二人の力を見てもなおそれが言えるのかは疑問だ。


 オリベルが全身に静かなる魔力を纏い始める。オルカもまた自身の身体に魔力を纏い始める。

 その力は冒険者と同行した際に見せたものとは全くと言っていいほど異なる強大な魔力。


 騎士団を抜けて長期間生き抜いてきた二人のそれは騎士団時代とは隔絶たる力を付けていた。


「エクスプロード」


 オルカがそう唱えた直後、宝石亀の頭部が凄まじい爆発に巻き込まれる。

 そしてそれを開始の合図として黒い不死神の姿へと()()を同化させたオリベルが飛び上がり、大鎌を振るう。


「不死の鎌」


 強さが凝縮された漆黒の刃が宝石亀の首を断ち切らんとして迫りゆく。

 そしてその大いなる斬撃は今まで何人たりとも攻撃を通せなかったであろう巨大亀の首元に大きな傷跡を付ける。


 グオオオオオオッ……


 生きていて初めて付けられたであろう傷に苦悶の声を上げる宝石亀。

 その呻き声は芯に伝わってくるほど重厚に大地へと響く。


「かったいな」


 鉄壁の装甲に多大な傷を与えたというのにオリベルから発された言葉に纏われていた感情は喜びではなく不満であった。

 そしてオルカが爆発魔法を放った頭部はというと焼け爛れ、こちらも宝石亀に大きなダメージを与えている。


 オリベルは地面へと降り立つと、オルカの隣に並ぶ。


「オリベル。私はマザリオの事を見ながらですので、遠方から足を狙います。あなたは装甲が剥がれた頭を集中的に攻撃してください」

「了解」


 そうして再度二手に分かれる。

 宙を自在に動き回るオリベル。完全にとはいかないが、全身を同化させる事に成功させていたかの少年は神の魔力を使って飛行が可能となっていた。


 オリベルが大鎌を振るう、その瞬間に宝石亀の口から全てを焼き尽くさんとする光線が吐き出される。

 光の如き速さで迫り来る光線もオリベルにとってはゆっくりに見える。

 静かなる身体強化魔法を極めた、オリベルの感知網は一瞬にして光線の避け道を確保しながら、宝石亀へと近づいていく。


 そして振り下ろされるは超常の斬撃。身に余るほど大きな黒い斬撃は易々と宝石亀の頭部を斬りつける。


「まだまだ!」


 続けて鎌を縦に回転させて宝石亀の身体を斬り裂いていく。

 その痛みに踏ん張って耐え忍ぼうとした宝石亀の脚を凄まじい爆発が吹き飛ばす。


 グオオオ……


 凄まじい衝撃に耐えかねた宝石亀はその場に倒れ込む。

 ズズゥンと辺りに響き渡る轟音。巨大が地面に落ちるだけでこうも響くものかとオルカは少し顔を顰める。


「こ、これは一体」


 そんな時、オルカの背後から何かに驚きを示す声が聞こえてくる。

 オルカはその人物の接近に気が付いていたようでくるりと振り返るとニコリと笑みを向ける。


「初めまして、騎士様」

「いや、流石に覚えてるわよ。あなたほど目立ってた新人は居なかったもの、オルカ・ディアーノ」

「ディアーノ、それはもう捨てた名ですよ、イルザ隊長。今はただのオルカです。私の事なんかよりそちらに浮いているお仲間さんを町まで運んでいかなくて大丈夫なのですか?」

「まだ大丈夫よ。今も私の力で癒しているもの」


 水球に包まれた他の騎士団員達は不思議な事に窒息死する事がない様だ。

 むしろ安らかにそれに包まれている。


「まさか本当にその子と関係があったとはね」

「私はそこまでですけどね」


 そう言うとオルカはイルザからマザリオの方へと視線を移す。


「それであれがあの子ね?」

「……」


 あの子が指す言葉はこの二人にとって1人しかいない。

 それが分かっているからこそオルカは肯定も否定もしない。


「まさかこんなに強くなってるとは……あんなの神殺しレベルじゃない」


 宝石亀と今も戦い続けているオリベルを見てイルザは驚嘆する。

 少し前まで隊長である彼女であれば押さえつけられる程度の実力しかなかったというのに今では彼女が倒せないであろう魔獣相手と渡り合えている、いや圧倒している。


「どうしますか? 私達を捕らえますか? 私達無しであの魔獣と戦えるのなら、という事になりますが」

「そもそも私じゃあなた達を捕まえられない事を分かってて聞いてるでしょ? いい性格してるわね」


 そう言って戦意がない事を示すと、イルザはオルカの隣に並ぶ。


「捕まえはしないけど、報告はするわよ」

「良いですよ。第二部隊の方々への生存報告にもなりますし」

「まったく、リュウゼンはとんでもない問題児をほっぽり出したわね」


 今となっては王子専属の部隊にまでなっている第二部隊。

 その戦果は以前の第十部隊の見る影もないらしく、ゆくゆくは第一部隊を超えるとも言われている。


「あなた達は一体何を考えているの?」

「志は皆さんと大して変わりませんよ」

「そう。なら良いけど」


 そう言うとイルザは再度戦いに舞うオリベルへと目を移すのであった。

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