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116話 何者か

「……んっ……あら? 私は一体」

「目を覚まされましたか、イルザ隊長」


 薄暗い路地裏にある隠れ家の近く、そこでいつの間にか気を失っていたイルザにそう話しかけるのは第三部隊副隊長のセレナである。

 未だ虚ろ気な眼のまま周囲を見渡すとセレナとイルザ以外はまだ気を失ったまま倒れ伏している。少し辺りを見渡してイルザはとあることに気が付く。


「あの子はどこへ行ったのかしら?」

「分かりません。私も先程起きたばかりですので」


 意識を失い、気が付けば目の前に居たはずの少女の姿が無くなっているのだ。状況を把握するためにイルザは意識を失う前の記憶を整理していく。

 脳を直接攻撃されたためかぽっかりと記憶が抜け落ちたような感覚に陥っていたのである。


「……確か突然あの子が叫びだしたかと思ったら周囲の魔力がものすごく高くなったわね。高すぎる魔力で気絶した? そんな訳はないわよね」


 神と称される魔獣を目の前にしてもなお魔力にあてられて気絶しなかったイルザだ。一人間如きの魔力で気絶することはない。

 明らかに他の原因があったはずだが、その先を思い出すことが出来ないのだろう。


「これが彼女の力だとは到底思えないですし、もしかするとこの隠れ家に潜んでいた者が助けにきたのかもしれませんね」

「かもね。まあここで考えても仕方がないわ。どうせこの家に誰も戻ってこないでしょうし、一度皆を連れて拠点に戻りましょう」

「了解です」


 そうしてイルザとセレナは周囲に倒れている騎士達が目を覚ますのを待つと、そのまま街中の方へと戻っていくのであった。



 ♢



「お待ちしておりました! 騎士様方!」


 イルザ達第三部隊の面々がここルーブルの町中にある拠点へと戻ると、そこには町長ともう一人、眼鏡を付けた女性の姿があった。


「どうされたのですか? グロアール殿。それにそちらの方は?」

「初めましてイルザ・ホーエンハイム様。私はこの町ルーブルの冒険者ギルドにてギルド長を務めております、アネット・デュランゼルと申します。今回、ウォーロットの騎士であるあなた様方に折り入ってご相談があり参上した次第でございます」


 そう言うとアネットは胸に手を当てて軽く会釈をする。イルザもそれに応えて会釈を返す。


「ウォーロット騎士団第三部隊隊長のイルザ・ホーエンハイムです。そしてこちらが副隊長のセレナ・イスカールです。それでご相談とはどういった内容なのでしょう?」


 指名手配犯の手掛かりとなる情報をあと少しの所で取り逃がしたため焦っているのだろう。少し急かすような口調でイルザは促す。

 対する町長とギルド長の方はそれを十分に理解しているようで、一切不快な感情を露にすることはない。


「指名手配犯を追っているところ申し訳ありません。少々長くなりますので一度私の部屋に来ていただければと」

「承知致しました。セレナ、あなた達は引き続きオリベルく……犯罪者の情報を集めておいて」

「了解です」


 そう言うとイルザは町長たちと共に部隊から離れていくのであった。



 ♢



「確かこの道で合ってるはず」


 一度通った記憶だけを頼りにマザリオは鬱蒼とした森の中で歩を進めていく。

 普段のマザリオならば一人では通らないような危険な道のりである。いつ魔獣が出てきてマザリオの命を刈り取ってもおかしくない、そんな危険地帯でマザリオはただ一人歩を進めていた。


 何故わざわざこのような危険な真似をするのか。それは偏に彼女の胸の中で引っ掛かっていたあの謎の男の言葉があったからである。


『宝石亀さ。奴の装甲がお前の魔力暴走を止めることが出来る』


 夢のような話である。マザリオが長年駆けずり回っても一切の解決方法を見出すことが出来ないこの苦悩を取り除く方法があるなど信じられる筈もない。

 だが、目の前で実際に発作を止めたのを見せられては縋りたくなるのも仕方がないだろう。


「それにしても魔獣の気配が全然ないわね。ちょっと警戒しすぎちゃったかしら」


 依頼で来た時と同じ状況ならば既に魔獣が現れてもおかしくない場所にまで来ている。そこまで行ってもなお魔獣の気配すら感じ取れないのはどこか導かれているような気がしてならなかった。


 しばらく歩いていくと、前方からドシン、ドシンと大地を踏み鳴らす轟音が鳴り響いてくる。


「居た。宝石亀だ」


 自分では勝てないという事はマザリオも分かっている。そのため、面と向かって戦いに行くことはない。

 前回の戦闘で剥がれ落ちたであろう宝石亀の装甲の破片を探そうというのである。


「宝石亀の移動の速さを考えたらもうちょっと行かないと駄目かな」


 宝石亀や他の魔獣に見つからない様にコソコソと進んでいく。

 息を潜めながら宝石亀が居る方向へと歩を進める。幸いにもマザリオは普段から魔力を封じ込めるのに長けているため、魔力の痕跡から魔獣達に感知されることはない。


 迂回しながら宝石亀の後方へと回り込もうという算段である。

 一歩、二歩、そうやって慎重に歩みを進めていく。

 そんな中、突如として背後から笑い声のような音が聞こえてくる。


「なにっ!?」


 マザリオが即座に後ろを振り返ると、蝙蝠のような翼の生えた小さな二人の人間が宙に浮きながらマザリオの方を指さし、笑っていたのである。

 見た目はまさに天使や妖精というよりも悪魔である。


「&$%#&&」

「#$&&%&」


 何と言っているのかは分からない。おおよそ人間の言葉ではないものの一見すると邪悪な魔獣には全く見えない。

 危険はない、そう思ったのが良くなかった。

 宙に飛んでいる二人の悪魔の見た目をした人間が突然両手を油断したマザリオの方へと向ける。眩い光がそこら中に走る。


「キャアッ」


 マザリオの視界が一瞬にして真っ白になり、思わず目を塞ぐ。そして次に目を開いた時には先程の二人の人間はその場から姿を消していた。


「な、何だったの?」


 何が起こったのか理解できずに目をパチクリと閉じたり開いたりして辺りを見回す。しかし、何の変化も見当たらない。

 首を捻りながらも取り敢えず目的の場所へ向かおうと宝石亀の場所を確認する。そうしてマザリオはとあることに気が付く。


「あれ? なんかこっち向かってきてない?」


 いつの間にかルーブルの町の方向を向いていた宝石亀が90度首を動かし、まさにマザリオの方を向いていたのである。

 そこで初めて自分が何をされたのかを悟る。


「……これヤバいかも」


 先程の小さな人間がマザリオに対して宝石亀をおびき寄せる何らかの力を掛けたのだろう。それに気が付いたマザリオはその場から一目散に駆け出していた。

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