114話 勝てない相手
イルザ達、第三部隊の面々が町を賑わせた翌日、疲弊した顔つきで大勢の冒険者たちが町へと戻ってくる姿が見受けられた。
その中の一人であるオリベルは隣で歩いているマザリオの顔を思案気に眺めている。
「……まだ消えないのか」
「どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ」
自身の顔を見るなり何かを呟くオリベルに対して問いかけるも返ってくるのはそんな返事ばかりである。顔の大半がフードで隠れているため、表情もよく分からないのである。
「依頼報酬貰えると良いね」
「はっ! そうでした! うわ~、これで貰えないとなると今後の私の生活が~」
ただでさえ、数日かけて旅をしてきたというのに更に依頼報酬も依頼失敗が故に貰えないとなればいよいよ明日からの彼女の生活が危ぶまれる。
そんな重大な話題を吹っ掛けるとマザリオは真剣な眼差しで明日からの資金繰りの事を考え始め、オリベルは話題を逸らすことに成功するのであった。
その間もオリベルはとあることを頭の中で反芻させる。それはマザリオの死期について。
他の冒険者は今回の依頼を撤収すると判断した時には既に正常な死期へと戻っていた。それに対しマザリオは未だに死期が変わらずにいるのだ。
これ以上どんな危険が彼女を襲うというのか。それを思案していたオリベルの頭の中にふととある考えが降ってくる。
そして未だ明日からの生活に頭を悩ませている少女の方へと視線をやる。
「そんなにお金がないならこのまま僕達と一緒に居れば良いじゃないか」
「……え?」
オリベルの言葉を聞いた少女の顔は突然の事に一瞬理解が追い付かず呆けた顔を見せる。そうして徐々に理解してきたのか少しパアッと明るい顔を見せた後、沈んだ表情を浮かべる。
「……その、ありがたいんですけど迷惑をかけてしまいますので」
「迷惑?」
「はい。私じゃリベルさん達の足手纏いにしかならないですし、それに……すみません」
そう言うと更に沈み切った表情を浮かべるマザリオ。こうなるとオリベルも無理に誘いづらくなり、静寂が訪れる。
「あっ、冒険者ギルドで今回の依頼報酬がどうなったか聞いてきますね。長くなると思いますのでオリベルさんは先に戻っておいてください」
「うん分かった」
そう言って足早に立ち去るマザリオの姿をオリベルは付いていくこともせずにどこか寂し気に見守る。
「リベル、何をボーっと突っ立っているのですか?」
「オルカか」
そういって話しかけてくるのは今回の依頼で最も疲弊したであろう黒髪の少女、オルカであった。
「君でも倒せないことあるんだね」
「私一人なら倒せてました」
オリベルの言葉をそう返すオルカの表情にはどこか不満げなところがあった。あながち一人なら倒せたというのは強がりでもないだろう。
しかし、元騎士としては守るべき者が居るのが当たり前なため、それがオリベルに通用しないのも分かっていたのだろう、その言葉にはどこか悔し気な感情も入り混じっていた。
「ところでマザリオはどうしたのですか?」
「ギルドに依頼報酬の事を聞きに行ったよ」
マザリオを仲間に誘ったことは触れないままオリベルはそう告げる。
「長くなるから先に戻っておいてくれだってさ」
「そうですか。なら早く帰りましょう。先程の戦いで少々疲れました」
グーッと大きく伸びをして寝床としてる空き家への帰路を歩み始めるオルカ。そしてそれを隣で労いながら歩くオリベル。
そんな二人が更なる騒動に巻き込まれることになるとはまだ誰も知る由は無かった。
♢
人気の無い、暗い路地裏の中を黒い制服を身に纏った騎士達が歩いている。その先頭を歩くのは第三部隊隊長イルザと副隊長のセレナであった。
そうして階段を下りていき、たどり着いたのは一件の空き部屋である。
「ここか」
「情報屋によれば恐らく」
ぞろぞろと集まっていくのはオリベル達が寝床としていた空き家である。実はこの町で紹介された情報屋から入手した情報により、怪しい人物が潜伏しているとすれば空き家であろうとこの町にある住所登録のされていない家を知ったのである。
そして片端から虱潰しに訪問していったところここにたどり着いたという訳である。
「うん? 鍵がかかっているな」
「もしかすると誰か住んでいるのかもしれませんね」
今までは本当に空き家であったのが今回初の住人がいるかもしれないという事で緊迫感の中顔を見合わせる二人。
普通の宿だと顔を隠し続けるのは不自然という理由から選んだ空き家がまさか裏目に出ることになるとはだれが予想できただろうか。
「すみません。衛兵です。少しお聞きしたいことがございますので扉を開けてくれないでしょうか?」
そう言ってノックをしながら告げるイルザ。しかし中からは一向に返事はない。
「留守ですかね」
「衛兵と聞いて居留守を使っているのかも。仕方ないわね。どうせ不法占拠にはなるしいざとなったら強行突破もありね。もしいらっしゃるのでしたらお開けください! お開けていただかなければこちらから無理やり開けることになりますよ!」
それから開く気配の無い扉を前にイルザとセレナ、そして他の騎士達も顔を見合わせて頷く。
「それではこちらから開かせていただきます!」
そう言うと腰に差している剣を目にもとまらぬ速さで振りかざし、扉を一瞬にして斬り破ると、ぞろぞろと中へと入っていく。
そんな騎士達が強行突破で空き家の中へと入っていく様子を陰で見ている者達が居た。
「……まさかこんなに早くバレるとは思いませんでしたね。どうしますか? オリベル」
そんな第三部隊の騎士達の動向を陰で見ていたオリベルとオルカ。尋ねられたオリベルはただ無言でその様子を眺めているのであった。
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