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113話 動き出した者

 至る所に転がる魔獣達の身体を尻目にオリベルは懸命に冒険者たちを運んでいるマザリオの下へと戻る。


「マザリオ。多分周辺の魔獣は粗方片付けた。だけど君はまだ僕の傍を離れないでほしい」

「お、おおお傍を!? あっ、す、すみません何でもないです。離れないです!」


 オリベルの言葉に顔を赤らめたマザリオ。しかしその言葉を発した当の本人は何故そうもマザリオが取り乱しているのかには気付かない。

 何故なら傍を離れるな、というのはまだマザリオの死期に変化が無いという事を意味していただけだったからである。

 オリベルの手の届かないところで死期が訪れてしまえば一切手出しをすることが出来ない、そういう意図で放った言葉であった。


「うん? まあ何でも良いか。取り敢えず馬車を呼ぶかなんかして倒れている人たちを町まで運ぼう」

「あれ? オルカさんは良いのですか?」

「ああ、オルカは大丈夫だよ。というかオルカで助からなかったら僕が行っても無理だよ。僕よりあいつの方が強いから」

「え、そうなんでんすか!?」

「うん」


 そう言いながらも実はオルカやベンディス達の死期を確認しているから安否が分かっているからこそそう言っているのである。

 しかし死期というのは突然に移ろうものでもある。

 何よりもオリベルがそれを理解しているが、恐らく大丈夫であろうと遠くの方から伝わってくる魔力の波動から推測していた。


「大丈夫、あいつら程じゃないから」

「あいつら?」

「気にしないで」

「?」


 マザリオの疑問を解消しないままオリベルは冒険者たちのもとへと歩いていく。それにマザリオは言われた通りに付き従うのであった。



 ♢



 一方その頃、オルカとベンディス達Aランク冒険者パーティの面々は目の前に立ちはだかる強大な敵を前にして攻めあぐねていた。

 理由は巨大宝石亀が持つ魔力阻害の装甲、そして有り余るほどの物理防御力にある。


 如何なる攻撃を繰り出そうと歴然とした効果が表れない頑強な装甲は彼ら彼女らを諦めさせるのには十分であった。


「どこかに打開の糸口はあると思うのですが」


 その中でオルカだけは宝石亀が身に纏う装甲に所々小さな傷が付いてるのを見て思考を働かせる。

 決して魔力を無効化しているわけでは無い。あくまで魔力を弱めているだけなのだ。


「オルカさん!」


 倒せない敵では無い、そう思い再度宝石亀の方へと駆け出そうとしたオルカを呼び止める声がする。


「どうされましたか? ベンディスさん」

「これ以上やっても宝石亀を倒す前に僕達が先に倒れてしまう。協力してもらっていて悪いけどここは一度退却しよう。約束はこれで果たしたって事で良いから」


 そう言われて後ろを振り返ったオルカの視界には既に魔力が尽きかけているのだろう、青白く染まった顔をした冒険者達の姿があった。


「……承知いたしました」


 他の討伐隊の面々は最早限界である事を瞬時に理解したオルカはそのままレイピアを腰に差し、臨戦態勢を解く。


「それでは私の爆発魔法で奴の隙を作ります。皆様はその間にお逃げください」


 そう言うと、目の前に巨大な魔力を生み出すと、宝石亀の鼻先に強烈な爆発を引き起こす。

 それは宝石亀の鈍重な体から逃げ出すには十分の効果を発揮し、その場から既にオルカ達の姿は無かった。



 ♢



 オリベル達が宝石亀討伐依頼から戻ろうとしていたその時、ルーベルの冒険者ギルドでは人で賑わっていた。

 その賑わいの中心に居たのは黒い騎士服を纏った集団である。


「ウォーロットの騎士様だー!」

「おいおいしかもあれって第三部隊のイルザ様じゃねえか」

「はい? 第三部隊だって?」

「すげえっ! 第三部隊がこんな田舎にまで来るなんて一体何事だ!?」


 町の者が皆、興奮冷めやらぬ状態で迎え入れる、騎士達もそれに応えるようにして手を振る。


「指名手配犯を探しにきただけだというのにまさかこんなに歓迎されるとは驚きですね、隊長」

「そうね」


 騎士達の先頭を歩くのは第三部隊隊長イルザ・ホーエンハイムと副隊長のセレナ・イスカールだ。

 オリベル達と共に妖精蝶の任務へと駆り出された彼女らはとある男を探しにこの地へと赴いていた。


「初めましてイルザ・ホーエンハイム隊長ならびにウォーロットの騎士団、第三部隊様方。私がこの町の町長を務めております、グロアール・ナビエと申します。ご案内しますのでどうぞこちらへ」

「ご丁寧にありがとうございます、グロアール様」


 そうしてイルザ達第三部隊の面々は町長に案内されて、大きい屋敷の中へと入っていく。


 中へ入ると隊長であるイルザ、そして副隊長であるセレナだけが他の隊員達と別れ、町長の部屋へと案内される。


「ご連絡させて頂きましたようにこの指名手配犯を探す期間、ここに滞在させていただきます」


 そう言ってイルザが机の上に出したのは白髪に金色の瞳をした少年の似顔絵が描かれた手配書であった。


「確か神の力を持ち出した元騎士団員、でしたね?」

「はい」


 イルザが淡々と受け答えをする隣でセレナは少し悲しみに顔を歪ませる。

 以前共にしたことがあるからこそ敵として追うのは心苦しいのである。

 しかし世間から見ればただの大罪人。町長の顔からそれが伝わり、余計に苦しいのだろう。


「承知いたしました。衣食住の場所はこの屋敷として、しばらくの間近くにある道場を借りさせて頂きましたのでそちらで訓練も行っていただけます」

「ご配慮に感謝いたします。それともう一つお願いがあるのですが」

「何でしょう?」

「情報屋を紹介してくださりますか?」


 イルザの情報屋という言葉に町長は一瞬驚くように目を見開く。

 情報屋はやり取りをしている相手の中に悪人もいる法的にグレーの存在だ。

 それをまさか騎士が欲しがると思わなかったのだろう。

 しかしまさにやり取りをする相手を金さえあれば選ばない情報屋にこそ手掛かりはあるとイルザは踏んでいたのだ。


「……承知しました。では近々、ご紹介させていただきます」

「ありがとうございます」


 そうして話を終えるとイルザとセレナは席を立ち、町長の部屋から出ていくのであった。

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