110話 依頼対象
「やっぱ凄いよな、Cランク以上の冒険者たちは。俺達が倒せない危険度Dの魔獣すら倒せるなんて」
「ですね」
そうマザリオに話しかけるのはオリベルではなく、冒険者の男である。先程話しかけてきた者とはまた別の冒険者で、マザリオがFランク冒険者であると聞いても難色を示さなかった。
この男自身も長い間、Fランク冒険者として燻っていたらしく最近ようやくEランク冒険者に上がれたとのことで気持ちが分かるのだとか。
そしてEランク以下の冒険者の中ではそのような人が意外と多いらしく、一人また一人とマザリオへと話しかけてくれる人が増えていき、いつの間にか孤立しなくなっていた。
「マザリオちゃん。さっき馬鹿にしてきた人は気にしなくて良いよ。冒険者って実力至上主義だからああいう人が多いんだ」
そう言って女性の冒険者がマザリオを励ます。相変わらず冷ややかな視線を向ける冒険者はいることにはいるが先程までの孤立状態よりはマシである。
「リベルさん。みんな良い人ですね」
「そうだね」
オリベルは相変わらずマザリオと以外話すことはない。声はかけられるもののオリベル自身がそっけない返事しかしないため、結局マザリオの方へと流れていくのである。
次第にそれが定着していき、遂にオリベルに話しかけるのはマザリオだけとなってしまっていた。だが、オリベルにとっては好都合であった。
冒険者の中には指名手配犯を追う賞金稼ぎを兼業している者も多い。その関連でオリベルについて情報を集めている者がもしこの場に居れば顔を隠していても話し方ひとつで正体がバレるかもしれない。
そういう意味で言葉少なくこの場を乗り切れるのはオリベルにとって都合が良いという訳なのである。
「あの……少しお聞きしたいんですけど」
「うん」
「私って本当に魔力が多いのでしょうか?」
「うん。多いよ」
断言するオリベルを前にマザリオは疑問を抱く。彼女は魔力を少しでも放出すればそれだけで気を失ってしまう。
そのため、普段は魔力を一切出さないように制御している。魔力量など他人から推し量れる筈などないのだ。
「今は魔力を制御しているみたいだけど、一度君が魔力を放出しているところを見たことがあるからね。ほら、気絶した時」
「あっ」
そう言われてマザリオは先日、倒れていたところを助けられた時を思い出す。確かにあの時、溢れ出す魔力を制御しきれずに暴走し、気絶した。
その時のマザリオを見ているのであればオリベルが彼女の魔力量がどのくらいなのかを把握していてもおかしくはない。
「あれだけの魔力を一切外に出さないように制御できているのは凄いよね。少なくとも僕には出来ない」
「でも肝心の魔力が使えなかったら意味ないです……」
オリベルの言葉に少し嬉しくなるも、そもそもその長所は魔力が使えて初めて活きるものであり、魔力を使う事すら出来ないマザリオにとって何の意味も持たない。
「そうかな」
「そうですよ」
そう会話を交わしていると、前方からDランク以下の冒険者たちは止まるようにという指示が飛んでくる。宝石亀の近くまで行き過ぎると魔獣が大勢出没するからである。
「なんか音聞こえない?」
「おい見ろ! あれだ!」
そう言って冒険者が指さす方を見ると遠くの方に虹色の輝きを放つ20メートルはあるだろう巨大な亀が大地を踏みしめていた。
有り余る圧倒的な存在感に肌をひりつかせるほどの威圧感、あれこそが今回の標的である宝石亀であった。
「本当にあんな魔獣倒せんのか?」
「Aランク冒険者でも難しいんじゃないか?」
口々に不安を述べる冒険者たち。それもそのはずで、10メートルほどの宝石亀で既に危険度Sの力を持つ。それが20メートルほどもあるのである。
危険度Sでは収まらない可能性があり、その場合ベンディス達では太刀打ち出来ないだろう。
「オルカさん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。オルカは強いから」
「やけに余裕ですね」
「うん。僕はオルカの力を知ってるからな」
そう言うと運んでいた物資を地面に下ろす。ここから物資を見張る係と届ける係に分かれるのだ。Fランク冒険者であるマザリオは当然の如く物資を見張る係であった。
「あんたはどうする?」
「マザリオが見張る係だから僕もここに残るよ」
「分かったぜ。それじゃあ俺達は前衛に付いていくから」
結果的に物資を見張る係として残ったのはオリベルとマザリオ。そしてその他に10人程度の冒険者たちが残ることとなった。
「Dランク以上の冒険者一人も居ないのか? 俺達の方が危険だったりして」
「まあ大丈夫じゃないか? ここは別に危険地帯ってわけじゃねえしな。出たとしても倒せる程度の魔獣だろ」
「だよな。ガッハッハ! 俺としたことが柄にもなく弱音を吐いちまったぜ」
そんな風に冒険者が言い合う中、オリベルだけ唯一人周囲へと注意を張り巡らせているのであった。
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