104話 情報屋
Aランク冒険者たちとの話し合いの次の日、オルカとオリベルは再度同じ酒場へと呼び出されていた。理由は無論、オルカ達が提示した条件についてである。
「やあやあ、二人とも。来てくれたね。紹介するよ。この人が情報屋だ」
「どうも」
冒険者の男の横で帽子を取って挨拶をする男性。顎髭を生やし、キチンとした服を着こなし、ハットを被るその男性は情報屋というよりかは貴族と言われた方がしっくり来る見た目をしていた。
「それじゃ僕はこれで」
情報屋を紹介するとそのまま席を外す冒険者の男。彼の名はベンディスというらしい。二度目にあった取引の中で互いに自己紹介を交わした。
オルカはそのままの名で、オリベルは名前の最初の文字を取り払った『リベル』という名で紹介していた。
「それで聞きたい情報は何だい? ベンディスから頼まれたからサービスで一つはタダで教えてやるぜ?」
「では早速。この手配書に見覚えはありますか?」
そう言うとオルカはオリベルの似顔絵が描かれた一枚の手配書を机の上に置く。それを見た情報屋の男はほう、と一つ相槌を打つ。
「もちろんだ。ウォーロット王国から指名手配が出ることは少ねえしな。それに金額も初動で金貨百枚ってそりゃあもう聞いたこともねえ。それでこいつの何が知りたい?」
「いえ、この人の事ではなく、この人を追っている王国側の動きを知りたいのです」
オルカの言葉に更に可笑しそうな笑みを浮かべる男。報奨金狙いの者であればいの一番に知りたいのは犯人の男の居場所についてのはずである。
なのにオルカが教えてほしいと言って来たのは王国側の動きだ。そんなことを知りたいのはよほどの物好きか、それとも匿っているのか……。
「そりゃあベンディスを退席させたわけだ」
「何を仰っているかは分かりませんが、もしこの事を対外に言うようであれば……」
「おっと、その辺は大丈夫だ。情報屋ってのは信頼が一番だからな。顧客の情報は一切漏らすことはねえさ」
オルカの懸念をそう言って笑い飛ばす男。それを見たオルカは信用ならないなと思いながらも、それ以上問い詰めることはしない。
何故ならオルカの情報が漏れたとてそれが何の弊害にもならないことを知っているからである。
オルカの居場所を兵士が張ったとてその相手がウォーロットの騎士団員かそれ以上の力量を持つ者でなければ捕らえることは不可能なのだから。
「そうだな……俺の知っているところで言えば、軍部はもちろん今も血眼になってこの男の行方を捜しているらしいが、ウォーロット騎士団の中じゃ第一部隊以外の部隊は一切動いていないっぽいぜ」
「ウォーロット以外の国はどうですか?」
「ウォーロット以外の国でも一応、危険人物扱いとして指名手配はされてるな。なにせ神の力を持ち逃げしたんだからな。いつでもウォーロットの騎士団を呼べるようにはしてると思うぜ」
それを聞いたオルカは一瞬思案するような顔を見せる。
想定していた事ではあろうが、心のどこかで国外へと逃げ出せば大丈夫だという希望があったのだろう。
とは言え二人にはこれから先も今のように逃げ隠れするつもりは毛頭無かった。
取り敢えずの目的は安心できる拠点の確保である。その為の資金集めは先日の魔獣素材の換金で終了している。
「まあ、でも現状ヤベーのは王国じゃなくて賞金稼ぎの奴等だろうがな。何せ初動で金貨百枚だ。値上がりする可能性も大いにある。有名な奴等も動き出すだろうな」
「なるほど」
情報屋が吹っ掛けようとオルカに動揺した様子はない。
その様子を見た情報屋は自身の勘が見当はずれであったかと思い直す。
本来、自分達を付け狙うまだ見ぬ脅威の存在を示唆されれば少しの動きにでも表れるはずなのである。
それがオルカには一切無い。もしも手配書の人物を匿っているのだとしたら、あり得ない反応であった。
実際にはただ本当にオルカが興味を持てなかっただけの話なのだが。
「俺がその事について知ってるのはそのくらいだな。他には何も無いのか? まあ次からは料金はかかるが」
そう言って情報屋の男が顔を向けるのは未だ一言も発さずにフードを目深に被っている人物。
「いえ、もうありません。ありがとうございました」
その情報屋の視線を知ってか知らずかオルカがそう言って遮ると、席から立ち上がる。
続けてオリベルも立ち上がると、情報屋に向けてボソリとこう告げる。
「あなたはまだまだ死ななそうですね」
「へ? あ、ああ。ありがとう?」
脅しのようにすら聞こえるがその声色は一変穏やかである。その言葉の意図を掴めないまま情報屋の男は二人を見送る。少し時を置くと後頭部を掻き、更に酒を呷るのであった。
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