103話 取引
男と別れた後、オルカはそのまま人気のない路地へと歩を進める。今度はちゃんと男が尾行してきていないかを確認しながらどんどん人気のない場所へと進んでいく。
やがて少し広めの路地に出ると、その更に奥にある階段を下りていき、たどり着いた金属製の扉をゆっくりと押し開ける。
「戻りました」
「お帰り、オルカ」
そう言ってオルカを出迎えるのは白髪に金色の眼をした少年、オリベルであった。
騎士団を脱走してから数か月の間髪の毛を切れていないため、肩に届くくらいにまで伸びた髪も相まって少し雰囲気は変わっているようである。
「ここに来るまでに倒した魔獣、かなりの値段で換金できそうでしたよ」
「そうなんだ。襲ってきたから倒しただけだけど、案外ラッキーだったんだな」
こじんまりとした部屋の中にはソファが二つ、そして丸い机が一つだけ置かれている。一応、料理をする場所も設けられてはいるが、使われている様子はない。
それもそうだろう。二人がこの町、ルーベルに来たのは今日が初めてなのだから。
「そういえばあなたの手配書、もうこんなところまで出回っていましたよ」
そう言うとオルカはもう片方のソファに座り、机の上に先程町で手に入れたオリベルの似顔絵が書かれた手配書を置く。
「ホントだ」
「だから外に出るときはフードを被っておいてください」
「分かった」
基本的に昼間の外出は指名手配されていないオルカに任せている。神の力を持って逃げ出したとしてウォーロット王国から指名手配を受けているオリベルとは違い、オルカは指名手配を受けていないのだ。
脱走犯のオリベルを手伝っているというのになぜ指名手配されていないのか。それはオルカの父が軍務大臣であるということが大いに関係していた。
まさかディアーノ家から脱走犯が出るなど軍務大臣にとっては都合の悪い話である。オリベルと共に脱走したとするよりも、事件に巻き込まれて失踪したことにすれば都合が良い。
それにオリベルが逃亡した際に、オルカは顔を見せていないというのも大きい。状況証拠的には明らかではあるが、オリベルを逃がすところを見た者はステラとグラゼル以外には存在しない。
「取り敢えず今日のご飯、買ってきましたよ」
そう言ってオルカは手配書を避けて弁当を二つ机の上に置く。
「ありがとう」
「あと、かなり興味深い話があります」
そうしてオルカは弁当を食べながらオリベルに先程の冒険者パーティに勧誘された話を伝える。
「――とのことです。一応、情報屋を紹介してくれるという条件で協力するという話になりましたが、どうしますか?」
「情報屋か……悪くない話だな」
逃亡の身であるオリベル達からすればいち早く情報を手に入れられる情報屋の存在は必要であった。しかし、素性の知れない二人では情報屋自体を探すのがかなり困難となる。
それをAランクパーティという強力な肩書の下、紹介してくれるというのだ。それは二人にとって願ってもないことであった。
「協力というのも次の任務に同行してくれればそれで良いらしいのでかなり好条件だと思います」
「逆に怖くなるくらいだな。まあ受けない手はないか」
「では引き受けるという事で良いですね?」
「うん」
「では明日、魔獣のお金を取りに行く際に会う約束をしておりますので」
「分かった。僕も行くよ」
♢
次の日の夕方、オリベルとオルカは魔獣の金を受け取った後、約束の場所である近くの酒場へと向かう。
「おーい、ここだよ」
そう言って手を挙げてオリベル達を呼ぶ男。近くには同じパーティのメンバーであろう者達も座っていた。
「お待たせしました」
「いやいや、大丈夫さ。どうせこの後、予定なんかないからさ。それでその人が昨日言ってた人?」
そう言って男がフードを目深にかぶったオリベルを指差す。
「はい。私の仲間です」
「へえ、結構変な武器使ってるんだね」
オリベルが背負うのは黒い大鎌である。どうしても目立ってしまうこれが手放せないからこそオリベルはあまり早い時間に外出したくないのだ。
「不要な詮索は……」
「分かってる分かってる。冒険者でも素性を隠す人は少なくないからね。だからこそ、身分証なしで魔獣の素材を換金できる訳だし」
鋭い視線を向けるオルカに両手を上げてそう答える冒険者の男。それを見てオルカとオリベルも席に着く。
「それで昨日の話ですが、引き受けることにしました」
「おお! それはありがたい! 次の任務がちょっと人手が足りなくてさ。でもパーティのSランク昇格もかかってるしで困ってたんだ」
「その代わり情報屋を紹介してもらえるんですよね?」
「もちろんさ。都合の良い時間さえ教えてくれたら場は作るよ」
「私達はいつでも問題ありません」
「おっけー。じゃあ明日の夕方、またここに集合で。それで肝心の依頼の内容なんだけど……」
Aランク冒険者パーティとの協力関係が築き上げられていく。
そんな話し合いの最中、フードの下から覗いている金色の眼が何かに視線を合わせながら妖しげに光るのであった。
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