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04.情報量の多すぎる彼女(2)

 その後、話が噛み合わないながらも何とか聞き出したところによると。

 少女はやはり人間ではないらしい。超高度にプログラミングされた人工頭脳と強化された人工骨格、人工筋肉と擬似神経回路を備えた、いわゆる“人造人間”なのだそうだ。ただし肉体の大部分は機械ではなく有機的な生体組織で構成されているそうで、だから見た目も皮膚や筋肉の感触も普通の(・・・)人間(・・)とほぼ変わりないのだという。

 要するに簡単に言えば、アンドロイドとかサイボーグとか、そういったものであるらしい。


「やだマイマスター、そんな旧世代の(・・・・)規格(・・)なんかと一緒にしないで下さい!」

「えっ同じじゃないの?」

「全っ然違います!私たち“O.a.c.h(オーチ)”は旧規格みたいな単なる機械人形ではなくて、全く新しい有機的人造⸺」

「あー、それはもういいから」


 なんだか目を釣り上げて怒られた。一緒じゃないのか。

 でもまあ、確かに“ア○モ”や“ペ○パー”と同類だと言われたと考えれば、怒るのも無理はないかも。


「んで?結局その“オーチ”って何なの?」

「はい、O.a.c.hはですね⸺」



 人類は、自らに代わって様々な作業や労働をこなす次世代型の“ロボット”の開発を模索し、改良を重ねた。その中で分かったことと言えば、『人類に勝る労働力なし』ということである。当然のことながら細かい作業が求められる指先の動きも、細部まで自己で判断し即応する思考力も柔軟性も、しなやかで可動域の広い身体構造も瞬時に反応し動ける反射神経も、既存の技術では何ひとつ再現できなかったのである。

 だがそれで終わってはそれまでの開発に試行錯誤した労力も費用も無駄になるし、何より人の生きられない極寒帯や高温域、深海域、あるいは宇宙空間など人類が活動できない場所での労働力問題が解決できない。

 そこで人類は、人類を(・・・)模倣した(・・・・)人造人間(・・・・)の開発に舵を切った。だがそれまでに概念すらなかった全くの新規での開発であり、開発(それ)は試行錯誤を含めて相当に難航が予想された。


 だがそこに、ひとりの“救世主”が現れる。

 その人物は世界の誰よりも早く、世界が望む形の人造人間の設計と開発を人知れず進めており、世界が気付いた時にはすでに試作機を何機か製作するまでになっていた。

 それが、日本の松橋(まつばせ)慧人(えいと)博士である。


 彼の研究は順調に成果を出し続け、有機素材を用いた人工筋肉や人工骨格、人工皮膚、それに擬似神経回路をも開発して人体の完全再現さえ実現し、さらにはメイン動力炉としての“霊炉(エンジン)”と高度な思考能力を備えた自己制御基盤となる“霊脳(ブレイン)”の開発までも成し遂げた。


 そうして完成したのがOrganic artificially created humanoid、頭文字を取った略称が“O.a.c.h(オーチ)”である。

 その記念すべきロールアウト第一号が試作第18番機、人類史上初の女性型O.a.c.h、MA‐IKO‐018なのだ。


 彼女はロールアウト後、のちに量産される全てのO.a.c.hの“原型(アーキタイプ)”となった。松橋博士が製造データを秘匿せずに有償契約のもと世界に公開したため、各国はこぞって博士と契約しO.a.c.hの生産を始めた。それ以降の世界は、人類に代わる貴重な労働力にして人類の新たなパートナー、O.a.c.hが存在することが当たり前の時代になった。


「だから私は皆から“母なるO.a.c.h”とも呼ばれるんです。最初の一機(オリジナル)で、女性型ですから」


 いや外見年齢18歳で母とか言われても。

 そう思ったが慧人は口にはしなかった。

 代わりに、別のことを聞いてみた。


「危険箇所での代替労働力ってことは、お前のあともたくさん造られたってことか?」

「そうですね、2100年時点で世界人口のおよそ1割がO.a.c.hです」

「マジで!?」


 世界人口は国連の予測によれば、2100年にはおよそ109億人に達すると言われている。一方で米ワシントン大医学部の保健指標評価研究所、IHMEによれば同じ2100年でおよそ88億人と予測されている。

 その1割となると、人造人間だけで9億から11億近くも存在するということか。


「開発からたった20年でそこまで増えるもんなのか?」

「2085年にはインドで大規模生産工場(・・・・)が稼働を始めて大量生産が可能になりましたので。

あっでも、世界人口は予測を下回って70億人ちょっとですよ?」


 なんでも、アフリカで起こるはずの人口爆発がなかったらしい。正確には起こりはしたのだが、世界的なパンデミックに見舞われて増えた以上に減ったのだとか。

 他にも色々要因はあるらしいが、未来のことはあまり詳しく過去の人には教えられないのだと言われてしまった。

 だがそれにしたってO.a.c.hだけで7億ほど存在することになる。ちょっと多すぎやしないか。


「あー、実はですね……」


 当然に予想されたことではあるが、O.a.c.hは戦場にも投入されたのだという。ドローンによる遠隔操作攻撃にも限界があったため、人類と同じように考えて行動し、しかも人類を死なせずに済むO.a.c.hを兵士(・・)として各国が先を争って大量に配備したのだ。ゆえに世界の主要先進国の将兵は、責任権者となる一部の高級将校を除けばほとんどがO.a.c.hで占められているという。

 そのほか、様々に問題を抱える風俗産業などにもO.a.c.hの進出が目覚ましいという。人類とほぼ変わらぬ身体構造を持つO.a.c.hは、その手の(・・・・)機能(・・)さえ組み込んでやれば性行為すら可能になったのだ。となると妊娠の恐れがなくなるため、未来では男性向けだけでなく女性向けの風俗店も当たり前に存在するのだそうだ。


「まあ、私にそうした機能は付与されてないのでご安心下さい」

「いや心配してねえよ!?」


 彼女は最初の一機であるため、ごく基礎的なスペックしか与えられていないという。そういう意味では“普通の女の子”なのだ。







O.a.c.hの正式名称とか略称とか、割と適当に付けています。大目に見てやって頂ければ有り難いです。

世界人口の予測なども一応調べてはいますが、かなりざっくばらんですので悪しからず。


ただし、明らかに修正が必要な誤用や誤表記などがもしありましたら、遠慮なくご指摘下さい。

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