表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の魔女リアナ  作者: かつおのかたたたき
2/7

2 呪いと赤

2話目投稿できたぞ!この調子で進めたい。




土で薄汚れたフードを被った赤髪の少女は足元がおぼつかず、よろよろと地面に座り込んでしまう。



―――――はやく、立たないと……



もう夕暮れだ。夜になったら街道の危険は増える。


街道両脇でこちらをにらんでいる魔物や、女や子供を躊躇なく狙ってくる盗賊など、いつもはそれらから身を守るために少し使える土魔術で簡単なシェルターを作るのだが、そんな力ももう残っていない。


日が落ちてしまう前に都市タリアには到着したいのだが、ここ数日食料をまともに口にできなかったせいか足が動かない。得意な火魔法ですらもこんな状態じゃまともに使えず、今襲われたらすぐにやられてしまう。



「ググルルル………」



―――そしてこういう時に限って魔物に襲われるんだ。



のそのそと近寄ってくる黒い塊。

その色は禍々しく畝り狂う触手のような毛が由来である。

その一つ一つの触手を器用に使って足のようなものや斧のような形状をしたものを作り出している。


リアナは魔物によく襲われるので、魔物には詳しい。

経験上、魔物の種類は大きく二つに分けられる。極めて人や動物に近い形状をしたもの、それと目の前の黒塊のようなとてつもなく気持ち悪い形状をしたものだ。


この気持ち悪い黒塊は、こちらの様子を窺いながらも縦に大きく割けた口で舌なめずりをしている。――強烈な臭いの涎を大量に垂らしながら。



もう立てるほどの力も残っていないというのに黒塊から逃げることなどできるのか。

リアナは考える。力を振り絞って少しくらいなら火魔法で短時間の目くらましができるだろうが、リアナが逃げるための体力さえ使ってしまう。いや、火魔法の範囲を極小にして石を高速で飛ばし、黒塊を打ち抜くことならできる。それならどこかにある急所を狙えて倒すことができるかもしれない。


でも、ーーーー


「一回しか使えな――――っっ!」


そうつぶやいた瞬間に黒塊が動く。

猛烈な速度でリアナの視界は黒く染まっていき、気付いた時には手と足は毛の触手に拘束され、動けなくなっていた。

このような状態では集中することができない。石で急所を狙うなんて精密な操作、出来る筈がない。

暗い空間の中でリアナは死の訪れが確実であることを予感する。



―――ああ、私はもう死んじゃうのか。



生きなければならないと思っていた。

夢や希望を抱くみんなを私の呪いで殺してきたのだから、死んで私だけが呪いから逃れようだなんて思ってはいけない。

どんどん増えてゆく血に染まった笑顔をこの先何十年も心に住みつかせなければならない。

そうやって苦しみながら生きていかなければならないと1年前に両親が魔物に殺されたときから考えていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



リアナは人大陸の西端の村で魔法使いの父と平凡な人である母との間に生まれた。

その鮮やかな赤髪がその地域では珍しかったため、「不吉だ」「忌み子だ」「悪魔だ」などと罵詈雑言を浴びることになったのだ。


大火によって村の住民が全滅してからは、暫く罵詈雑言も下火になっていたが、何年かすると今度は隣の町から大勢して『悪魔狩り』にやってきた。幸い、父の魔法の腕が良かったお陰で一般人集団の『悪魔狩り』を追い払うことができた。


しかし、また何年かすると今度は優秀な魔法使いが『悪魔狩り』にやってくるようになる。父はなんとかしてそれらを追い払い、たまに歯が立たない相手が来た時には必ず父の魔法ではない火の竜巻が敵を襲った。


歯が立たなくなってきたことに父は危機感を覚え、『悪魔狩り』に対処しきれなくなる前に人大陸を抜け出すという計画を立て始めた。


その計画とは、人大陸最西端の村であったここからさらに西へ海と島を渡って、獣大陸に行くという内容だった。

人大陸と獣大陸の中間に位置するグーラ島は無人島である。その島は3000年程前に人間と獣人が戦争をした際の激戦区となったことで魔物が殲滅されているらしいという情報があった。

3000年前の情報など当てにならないと考えるのが普通だが父は焦っていた。いつ『悪魔狩り』がくるかもわからないし、火の竜巻が味方であるという確証もない。3000年前の情報に縋りたくなってしまったのだ。ーーーー


船を作り、人大陸を出てグーラ島に上陸するまでは良かった。

最初の犠牲は船だった。船は父の数倍ある背丈のワームに喰われ、逃げ道を失った。

次に父が緑色の体をした矮躯で会話のできる魔物数人に致命傷を負わされ、主戦力を失った。

とてつもなく運が悪かった。人類が魔人の存在を初めて確認することになった歴史的な瞬間であったのだから。人の形に似ているが、魔物の特徴が残っており、人と会話ができるのだから、そこらの魔物よりもずっと頭が良く、倒すのも簡単ではない。

最後に父とリアナ以外の母や魔物、魔人たち諸共そこに突如現れた強烈な光によって姿を消した。



残されたリアナと反応のない父、新たに群がってくる魔物。湧き上がる寂しさと恐怖ーーーーーーー



そこから自分が獣大陸へと渡っているということに気づくまで、リアナの記憶はすっぽりと消えてしまっていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーー父が魔人に殺されたのも母が閃光と共に消えたのも、全て元を辿れば私の赤色の髪が原因だったのだ。私の呪いだったのだ。



両親のことを思い出している間にも黒塊はリアナによだれが垂れかかる程に近づいていた。

大きな口が左右に開く。


―――丸呑みするつもりらしい。ああ、臭い。ここで死んでしまうなんて悔しい。みんなもこんな気持ちだったのかな。



「あ、でも」



夢や希望も何もない私にはみんなの気持ちはわからないのかもしれない。

夢のようなものがあったような気もするが思い出せない。

思い出せなくてもいいや、もう終わりだし。


目を瞑らずに見開くことで、呪いからの解放にせめてもの抗いを試みる。

あと少しで頭が口の中に入る。なんだか時間がゆっくりになったように黒塊の動きが遅い。これも呪いの効果なのだろうか。



「!?」



急に視界が開けた。

目の前の臭くて大きな口がない。

手足に巻き付いている毛が黒塊本体へと向かう途中で途切れている。

他には特に異常がない。

生き延びたのか。


―――いや、呪いに死を認められなかったのか。



「…こっちに飛んでいった?」



黒塊が飛んでいったような気がする方向を見やると、そこには黒塊だったと思われる赤黒い塊と一人の男の後ろ姿があった。

男はこちらへと振り向いてリアナの様子を確認する。


「よお、お嬢ちゃん。無事かい?」


その男は獣人の特徴である動物のような体つきではなかった。

リアナはフードを深く被り、魔物に遭遇したときよりも警戒する。


「ぁ……ありがとうございます」


強張りすぎたせいか、少し声が掠れてしまった。


「おうよ。お嬢ちゃん都市タリアから逃げてきたんかい?」


「いいえ……今、都市タリアに向かっていたところです」


「歩けっか?こっちも丁度そこに用事があるんだわ、どうせだったら運んでってやるぜ?」


「ーーーー」


正直連れて行ってほしいところだが、人間が相手となるとこの後リアナの髪色がバレた時の方がリスクがある。

だから首を横に振ろうとするがーーーー


「なんだ、可愛らしい顔してんじゃねえか、ーーーーって」


「ーーー!!」


赤髪を隠すためにフードを深く被っていたため、男の動きを読み取りきれずにいた。完全に不意打ちで顔を覗き込まれた。


ーーーーあれ?だけどこの人、耳が長くてツンツンしてる?



「獣人?」

「龍の子じゃねえか?!」


2人の疑問と驚きの声が同時に発せられた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ