『どうもこんにちは!私はリアナ・リンマーです!』
はじめての投稿です。いろいろと不慣れなのでご容赦下さい。よろしくお願いします!
「―――おいしい!」
赤髪の少女は赤らめる頬を左手の掌で押さえ、口の中に広がる濃厚な味わいを堪能しながら右手でグルメレポートを書く。
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どうもこんにちは!私はリアナ・リンマーです!各地の食べ物を堪能するため、獣大陸を旅しています!
さて、今日紹介するのは都市タリアの北にあるルプリ村の伝統おもてなし料理、ヤギのチーズリゾットです!
なんと、獣大陸の山脈に生息しているヤギは子ヤギを産むと死んでしまい、残された子ヤギは最初で最後のミルクをお母さんヤギの死体から飲むらしいのです。
お母さんヤギから受ける愛は子ヤギの人生でその一度きりだと考えるとなんだか涙が……。いいや私は子ヤギのリア、お母さんヤギから受けた愛は感謝のグルメリポートとして返すのだ!
―――気を取り直してっと、つまり!このヤギのミルクは短期間でしか手に入らないのです!
そんなとっても貴重なミルクと、そのミルクを使ったチーズ、そのお母さんヤギのベーコン、炊いたお米を火にかけながらまぜまぜしていい匂いがしてきたらお皿に移します!仕上げにピリ辛の黒い粉をまぶしてチーズリゾットの完成!
こんなにお母さんヤギの愛情がこもった食べ物はこの獣大陸どこを探しても見つからないのではないでしょうか!
ここだけの話、伝統の「おもてなし」料理とあるのですが、なんとお金を取られます。要注意!
そのお値段なんと銀貨20枚!そそ、そんなぁ……。
通りすがりの行商人から買うおやつですらも銀貨1枚だというのに、なんとお高いこと!リアは今回、ヤギの愛を体の中から外まで全身で浴びるために財布の底をはたいたのです!
さあ、食べますよ!木のボウルいっぱいによそわれた飴色のリゾット。リアはスプーンを使ってそれを掬います。口に近づくにつれて強くなっていくまろやかなチーズの香りと黒い粉のピリ辛な香りにリアのおなかと背中がくっついてぐぅという音を鳴らします。
ああ、思い出すだけでもよだれが……。
口を開けてリゾットをもてなす準備は万端。いよいよスプーンが口の中へ……!あつあつのとろとろチーズとお米の粒感のダブルパンチ。さらにここでピリ辛の黒い粒がアクセントとなってチーズの濃厚さをさらに引き立てます!飲み込んだ後も息をするたびに鼻を通っていくチーズの香りを楽しむことができます!
んー!おいしかった!皆さんもぜひ、ルプリ村の伝統おもてなし料理であるヤギのチーズリゾット、食べに行ってみてくださいね!
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「―――これでよしっと、とてもおいしかったです!ごちそうさまでした!」
リアナは書き終わった原稿とペンを魔物の革で作ったバッグに入れ、チーズリゾットのシェフである犬ような尻尾を持つ村長の奥さんに礼をしてから村長宅を出る。
「ここ数か月は物騒になったものでね、この村から都市タリアまでの道は少しでも外れてしまうと魔物がうろついているから気を付けるんだよ」
「はい!わかりました!……奥さんも、魔物に気を付けてくださいね!」
「は……はい。気を付けますね」
戸惑いながらも村長の奥さんはリアナの忠告を受け入れる。戸惑うのも当然だ。この村には屈強な戦士だって数人いるし、多少の魔物くらいなら村へと侵入する前にその戦士たちが追い払ってくれるのだ。
しかし、リアナは知っている。
それはこの村よりも少し大きな村で食事をしていたときの出来事。何の予兆もなく多数の魔物が村へと押し寄せて、その村の戦士や酒場で屯していた凄腕の冒険者達ですらその物量に押しつぶされて全滅したのだ。客人としてもてなされていたリアナは「せめてあなただけでも助かってちょうだい」と言われ、村を出、死に物狂いで次の集落へと向かった。
その後、冒険者からその村の生還者はいなかったのだと聞かされた時には悪寒が走った。戦士や冒険者が為す術もなかったのだから村の住人が誰一人として生き残らないのは明白だというのに。
―――否、私だけが生き残ったのだ。
私だけが村から生還したのだ。気さくに話しかけてくれた優しい猫耳戦士も、都へ修行に行きたいと話していた猫背のシェフも、一緒に遊んだぴょんと生えた6本髭のかわいい女の子も、最後に「あなただけでも助かって」と言っていた尻尾のない逞しい体つきのお姉さんもみんな死んで、それから私の心の中では、村のみんなが血に赤く染まった笑顔でこちらを見つめるようになっていた。呪いのように。
私はその呪いからいつも逃げていた。その村の出来事があった後から、私が行った町や村は私がそこにいるときかそこを出た時に必ず魔物が襲いにやってくる。魔物の数もピンキリだが必ず誰かが死んでいる。その度に呪いの笑顔は増えていくのだ。
呪いが嫌だから一人で生きていこうと決心した時もあった。でもそんなときでも魔物は私を襲ってくる。私は魔物から逃げながら移動をするが、逃げた先には必ず集落があるのだ。私は、死んだ人たちの笑顔に加えて魔物にも呪われていて、その二つの呪いが干渉しあって負のスパイラルを生む。
たまたま近くを通っていた冒険者に助けられたときにだって、必ず「いつもはこんなところに魔物なんていないはずなんだけどなぁ」と言われる始末だ。もう確実なのだ。
―――だからきっと、この村の笑顔も私の心を蝕む一つになるのだろう。
そう思いながらルプリ村を出て、街道の両脇遠方から魔物に睨まれながら都市タリアに向かう。
「あ!村長の奥さんの名前聞いとけばよかったかなあ?」
嫌になってくる気分を空元気で吹き飛ばすため、腹の底から声を出す。