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決めたはずの未来

作者: jeff


 いったい 誰がこんな結末を予想しただろう?

ぢるはもう一度その記事を見ていた。読むというよりただぼっと眺めている

そんな感じであった。

事故死・・・・・ その文字だけが 視界の中心にあった。


 3年前 ぢるはサイパンの海岸を 山田と歩いていた。

「もう2ヶ月になるね。早いものだ・・・」

「まだ2ヶ月よ。私たちの未来はこれからでしょ?」

「そうだね・・・そうだ!僕らの未来を一つだけ決めておかないかい?」

「えっ? 未来を決めるって・・・・どういう意味かな?」

「ずっと先のこと・・・そうだな30年後ってどうかな? その時この海岸を

もう一度 君と二人で歩く。どう?そんなに難しいことじゃなさそうだろ?」

「素敵・・約束じゃなくて未来なのね。必ずやってくる。」

ぢるは彼が言う言葉を光る波のリズムの中で夢のように聞いていた。


 その夏も公園通りの街路樹は歩行者を日差しから守るように覆い茂っていた。     

仕事が終わっていつものようにバスを待っているとぢるの前へ1台の車が停まった。

運転席には見覚えのある顔が・・そう、いつだったか彼の仕事関係のパーティで

同席した彼の上司だった。

「ぢるさん、大変なんだ。彼の赴任先のベトナムで巨大地震が発生して連絡が

取れなくなってるんだ。僕らはこれから全員会社で対策本部を作る君も来たまえ」

その言葉にぢるは動転した。さっき職場でこの地震の臨時ニュースを聞いていた

からであった。

 死者 行方不明者・・・7万人以上・・・・

その後の記憶は無く、気づいたのは彼のオフィスの革張りの黒いソファーの上

だった。

パーテーションの向こうでは慌ただしくスーツ姿の男たちが動き回っている。

「ぢるさん 大丈夫ですか?」先ほどの上司が近づきながら声をかけてきた。

「はい、彼は・・大丈夫なんでしょうか?・・」震える唇からやっと音を出す

ことが出来た。

「心配要りませんよ、彼ならきっと大丈夫。幸いにも震源地からは80キロ程

離れた地域に居たようです。ただ、まだ安否の確認は出来てないんです。

通信網が壊滅状態らしく・・・」

彼は少し微笑みながらぢるの顔を見ていた。その微笑が今まで体全体を押さえ

つけていたような何かを取り除いてくれた。多少引きつった笑みを返したぢるは

オフィスの中央に置かれた大型テレビに目をやった。

NHKの特番が 死者9万人と伝えていた。 


 2日後ぢるはベトナム行きの政府チャーター機の窓から光る太平洋を眺めていた。

ベトナムはインドシナ半島の中の国である。最近は日本との貿易も盛んで企業の

進出も近年の中国に迫る勢いであった。

山田が赴任する数年前までは社会主義政権により貿易を制限していた。

それがドイモイ政策によりダムの崩壊のように一気に民主化されていった。

とはいっても完全な民主社会ではなく、今回のような出来事があると情報が

極端に少なくなる。

首都ハノイ近くのノイバイ空港に到着した際も機内で長時間待機させられ日本との

違いを感じざるを得なかった。

「ぢるさんすみませんね、こんなに待たされるなんて・・・・

日本から6時間ほどなのにもうここで5時間も足止めだ、お腹すいてませんか?」

同行している杉田が頭をかきながら政府関係者の方を見た。

「私は大丈夫です。杉田さんこそ何か召し上がってください」

ぢるは窓の外をぼんやりと眺めた。相変わらず軍のトラックが行き来する

だけである。

時計を見た・・・21時。日本時間である。時差はマイナス2時間である。

19時に時計をセットした。

23時。ぢるはホテルの窓から首都ハノイの街を見ていた。

眼下の国道はこんな時間でもオートバイやトラックであふれていた。

18階でも聞こえるクラクションの音。ヘッドライトとテールランプが混ざった

国道を見ながら明日の事を考えていた。


 翌朝彼らを乗せたバスは被災地を避け約180キロ北にある彼の赴任先の港町へ

向かっていた。通常でも3時間近くかかるのだが、同乗する政府関係者の説明では

6時間は掛かるだろうという。目的地に近づいた頃ぢるの時計は15時を少し過ぎ

ていた。

震源地から80キロ離れているとはいえやはり今回の地震のエネルギーは凄まじ

かったらしく山崩れをあちこちで見かけた。

・・・大丈夫 彼ならきっと無事・・・・・

ぢるは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

バスは現地の対策本部の置かれたホテルに停められた。

ベトナム政府の説明ではここに日本人現地就労者などが集まっているという。

祈るような気持ちでエントランスに向かうぢるの後方から女性の声で話し

かけられた。

「ぢるさんでいらっしゃいますか?私は中川商事の田中といいます。山田さんの

ことで・・・」

というと彼女は名刺をぢるに渡した。

中川商事 ベトナム法人事業部 田中由美子 山田の部下だという。

「やあ由美子君心配したよ。こっちは全員無事なんだな?」

「すいません部長、連絡できなくて。通信インフラ自体が機能していなくて・・・」

「わかってる。良かったよ元気なんだね。大丈夫かい?・・それで皆は?」

「ホテルに居ます・・・ただ・・・」そう言うと彼女はぢるの方を見た。

「実は・・・山田所長とはまだ連絡が取れていないんです」

「由美子君・・それはどういう事なんだね?まさか・・・」

「いえ、所長はあの日休暇をとって現地の人た達と釣りに出かけたそうなんです」

「まさか津波に・・・」ぢるが言い終わる前に由美子が言った。

「中国との国境近くの湖だそうです。だから震源地からずっと離れた場所で・・・」

「由美子君、だとすると帰る手段が無くなっているという事かね?」

「・・・・たぶん・・・そうだと思います」

話を聞いていたぢるがその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。長旅とストレスのせいで

貧血を起こしたらしかった。その後ホテルで今後のことについて話し合いがあった。

会社関係者は明日の便で帰国する。ぢるは現地にもうしばらく滞在し彼と一緒に

帰国する。その間の費用・通訳は会社で用意する等々・・・

通信インフラは多分あと4~5日で復旧するだろう。

その時のための携帯電話なども用意してくれた。

そして3日が過ぎた。

昼食を取っていると突然ぢるの持っていた携帯電話が鳴った。

「はい、ぢるです・・・・」日本の杉田からであった。

「携帯電話が通じるようになったようですね。固定電話の復旧はまだのようですが・・」

ぢるは少し安心した。これできっと彼からの連絡が入るに違いない。

この番号は中川商事の現地法人のものである。

とにかく電話を待とう・・・

しかし、その後も日本からの着信は何度かあったが山田からの連絡はなかった。

そして、さらに2日が過ぎた。ぢるはこのまま待つよりも自分で捜しに行きたい

衝動をやっとの事で抑えていた、が通訳のティエンの一言で決心が出来た。

ティエンとはこの数日ほとんど行動をともにしている。

勿論、朝10時から夕方までという契約の範囲ではあるがこういった状況下で

しかも言葉が通じない国にぢる一人で居るということもあり、ティエンの方が

相当気を使ってくれていて自然に会話の量も増えていた。ティエンの話では

彼は7年間名古屋の大学に留学生として住んでいたという。

電子工学を専攻したが山田の会社では、主にジェトロと日本企業からの依頼で

現地調査を任されているらしい。時々ジョークを交える彼の話はぢるにとって

安らぎになっていた。

ぢるはティエンに山田を捜しに行きたい旨を伝えた。

「ぢるさん、私もその方が良いと思います。山田さんはきっとヤンモー湖の付近に

居るはずです。明日にでも車を用意しますよ。4輪駆動車だから心配ない。」

彼はそう言うとにっこり笑った。

翌朝7時にロビーで待ち合すことを約束しティエンはホテルを後にした。


「ぢるさんは山田さんと付合ってどれくらいになるんですか?」

ティエンが話しかけてきた。

ヤンモー湖に向かう県道はお世辞にも整備されているとは言えず、舗装されていない

赤土の道路は穴だらけであった。それでも40~50キロでヒュンダイ製の4WDは

走っていた。

「アイン・ティエンあとどれくらいでヤンモー湖に到着するの?」ぢるはあえて

アインとこちらの言葉を使った。「ぢるさん、言葉を少し覚えましたね。

どんな言葉覚えました?」

「そうねー、ホテルはカックサンでしょ? あと車はセ・オートだっけ?・・」

「じゃあ恋人は?」

「・・・わからない・・・・」

「イエウ。ゴイ・イエウって言いますよ・・」ティエンが笑いながらぢるの方を見た。

そんな会話をしながら40キロほど走ったところで道路が30cm程突起していた。

「ぢるさん、ここからは時間がかかりそうです・・」慎重にハンドル廻しながら

ティエンはヒュンダイを操っている。これではバスは勿論、普通の車も無理だ。

ぢるは自分が捜索に向かったことを正しかったと心底おもった。

「ティエンさん、大丈夫?少し休憩しましょうよ・・・・」

道路の状態は最悪であった。今回の地震の影響でかなりのダメージを受けている上に

上流で川が氾濫したためかこの辺りまで水が来ており、時々道路を10cmほど隠して

しまっていた。

「ぢるさん、これはどうやらがけ崩れか何かで川の流れが変わってしまたんでしょう。

 この先に村がありますから、そこで情報を聞いてみます。」

「もう2時間以上運転しているわ。そこでちょっと休みましょう」

しばらく走って車は海沿いの集落ティエン・イェンに止まった。

民家は数十世帯あるようだが人はあまり出ていなかった。

「ぢるさん、ボクはその家で色々聞いてきます。車で待ってていて下さい」

そう言うとティエンは民家の一軒の方へ歩き出した。

ぢるはこの国の田舎の民家を初めて目にする。なんとなく昔の日本と似ていると

思った。

「ぢるさん、やはりヤンモー湖の付近で大きな山崩れがあったようです。 

けが人は居ないようですがこの先はひょっとすると車が走れないかも・・・」

戻ってきたティエンは 少しこわばった顔で言った。

「そうですか・・・でも状況が分かっただけでも安心しました」

「とにかく行ける所まで行ってみましょう。」ティエンが力強く言った。

二人は持ってきた缶コーヒーを飲みながら地図を広げた。

ちょっと甘すぎる缶コーヒーを飲み終えた二人は川沿いの道をヤンモー湖に向け走った。

車の時計はすでに10時半になっていた。 

相変わらず慎重な運転でスピードメーターは40キロを超えることはないようである。

「ぢるさん、何か音楽でも流しましょうか?」そういうとティエンはカーステレオの

スイッチを入れた。聞き覚えのある曲が流れた。

「この曲知ってます。彼が前回帰国した時歌ってくれました。 

えっと、モッカ・・・・」

「モッ・カック・タム・ティン・グォイ・ハーティンです」彼はゆっくりと言った。

「どんな歌なんですか。恋愛の歌?」

「この曲は・・・・昔、戦争がありました。 そして大勢の人が死にました。 

この曲は そんなことがあっても海や山は何も変わっていない。

という意味のこと歌っています」

そういえば山田が何か物思いにふけるような目をして歌っていたのを思い出した。

戦争の歴史。ぢるはこの国であった悲惨な歴史が何か日本と似ているような気がした。

車は約1時間ほど走ってヤンタムという集落に着いた。ここから先はどうも車は

無理のようである。迂回路があるか地元の人に聞いてくると言ってティエンは

車を離れた。

山間の集落は先ほどの村と違いかなり貧しい感じがした。 

子供たちの着ているものが全然違っていた。

「ぢるさん!ちょっと降りましょう。事情を説明したら、ここの家の人がこれから

昼食だから一緒に食べようと誘ってくれました。さあ、行きましょう。」

ぢるはびっくりした。それほど豊かでは無いのにそんなことをしてくれる人達・・・

「でも、いいんでしょうか?私なんかが行っても・・・」

「いいんですよ。 逆に断ってはかえって失礼ですから。この国の人は年長者の

意見には素直に従いますよ」

初めて入る異国の家庭。ぢるは少しドキドキしながら玄関を入っていった。

昼食は豪華ではないが美味しかった。もっと食べなさいと家の主人が言っているのが

わかった。

「シン・カムオン!」ぢるはありがとうとこの国の言葉で言った。

それを聞いて家族中から拍手があった。7人がそれぞれぢるに話しかけてきたが

すまなさそうにしているぢるを見てティエンに何か言っていた。

「ぢるさんが言葉を話せると思ったみたいですよ。発音が良かったみたいです。」

そう言うと彼は笑った。

ティエンはヤンモー湖について家族に尋ねていた。それによると、ヤンモーは中国の

国境にある小さな湖で、ここから歩いて2時間ほどである。

山田らは国境を越えてチワン族自治区行った可能性がある。

なぜなら中国側の方が工業都市が近くにあり、食料や医薬品が買いやすい。 

車も向こう側へなら簡単に行ける筈である。

「ぢるさん、たぶん山田さんは中国に居ますよ。ただ問題は距離です」

「そんなに遠いんですか?」

「中国まではさっき話したとおり約2~3時間です。しかし、そこから中国の

ちょっとした街まで歩いてだと5時間。そうなるともう夜になってしまう。

しかもボクは中国語もチワン語も話せません」

「そうですか・・・・・」ぢるはこれはしかたがないと思った。

ティエンが家の主人と何やら話している。そしてぢるに言った。

「とりあえず今日はヤンモー湖の様子を見に行きましょう。夜はこちらの家に

泊まらせてもらいます。そして明日ご主人と一緒にチワン自治区に行き山田さんを

捜します。ご主人はチワン語が話せるそうですよ。」

ティエンがそう言うと家の主人は誇らしげに胸をたたいて笑った。

ぢるは涙が頬をつたわるのを感じていた。

昼食後2人はヤンモー湖に向かった。なだらかな山道を歩いていると何人かの

地元の人たちが声をかけてくる。皆親切でこの果物を持って行けなどと日本では

考えられないような体験をした。

通訳のティエンもそうだがこの国で出会った人々はすべて優しかった。

ぢるは彼の安否が気になるものの心は少し温かかった。

「ぢるさん、あれがヤンモー湖です」ティエンが山あいから数キロ先の湖を指差した。

二人の足は自然と速くなっていた。 少し行くと中国側が見えてきた。

「ぢるさん あの辺りがチワン自治区です。 結構都会でしょ?」

確かにベトナム側の何もなさに比べてそれは明らかに街である。大きな工場もいくつか

見える。

「国境を越えるのに手続きは要らないんですか?」ぢるは少し不安げに聞いてみた。

「ここは東南アジアへの唯一の接点です。ですから毎日多くの車が行き来します。

そのため高速道路のゲート以外は何の手続きも要りません。但し、

日帰りに限りですが」

彼の話では50キロほど南にはベトナム・中国を結ぶ高速道路も出来ていて帰りは

そちらから廻るつもりらしい。1時間ほどしてヤンモー湖に到着したが

とても近づける状態ではなかった。 

山崩れのため水位が10mほど上昇し道路など無かった。なるほどこの状態ならば

中国側へ逃げる方がが賢明であっただろう。

納得した2人は先ほどの村に引き返えす事にした。時計は3時になっていた。

二人が村に戻ったのは5時を少し回った頃であった。話を聞きつけた村人たちが

何人もぢるたちを迎えてくれたのである。身体は疲れているはずだが嬉しさで

何も感じなかった。

「食事の用意が出来ているそうです。行きましょう」

食卓では先ほどの7人以外に、彼らの親戚なども居りぢるたちを合わせ13人に

なっていた。

木製の簡素なテーブルには昼とは違いパーティーのように食事が盛り付けられていた。

「さあ、ご馳走になりましょう。」家の主人が何か言うと一斉に箸をすすめた。

「美味しいです!ねえ、ティエンさん。何ていえばいいの?」ぢるは笑いながら

話しかけた。

「ザッ・ゴンでもゴン・ラムでいいですよ。美味しいでしょ?これもどうぞ」

と言って魚を揚げたものをとってくれた。

食事が終わった頃家の主人が歌を披露してくれると言って民謡を歌いだした。

皆が手拍子をし主人を盛り上げている。ティエンは車からギターを持ってきた。

そんな感じで3時間近く楽しい時間をすごした頃、皆がぢるの歌が聴きたいと

言ったので1曲披露することになった。

「ぢるさん、何を歌いますか?」ティエンが笑いながら聞いてきた。

「それじゃあ・・おぼろ月夜」

「その曲なら知ってます。伴奏しましょう」

楽しい時間が流れていった・・・・


翌朝、家の主人ティンと一緒に中国の国境を目指した。

昨日とは違うルートであった。

ちょっと山道を通るが30分以上早く着くという。ティンは1ヶ月に一度は

中国側へ行くらしい。買い物などA国より便利なのだそうだ。

1時間半で国境を越えた。かなり大きな街である。車も結構走っている。

ティンが近くに居た現地の人に何か話しかけている。戻ってきてティエンに話しかけた。

「ぢるさん、ここからはタクシーを使いましょう。自治区の中心まで行けば何とか

なりそうです」

ぢるは始めて見る中国の風景に少し驚いていた。テレビなどで観るのとは少し

違うような気がした。とにかく道が広い。人が少なく見えるほど広い。

ティンにタクシーをひろってもらい目的地を説明してもらった。

自治区中心部に行けばベトナム語も通じるらしい。ティンとはそこで別れる事にした。

ぢるは心から感謝を伝えた。 

涙をぬぐいながらタクシーに乗り目的地を目指した。都市部までは約1時間の

道のりである。

タクシーの運転手がなにやら話しかけてくるがぢるは勿論、ティエンも

困った顔をしていた。

「英語でも通じれば良いんですけどね・・・」ティエンが苦笑した。

ぢるは少し眠くなり、そのうち軽い寝息をたてていた。

「着きましたよぢるさん」ティエンの声で目が覚め周りを見渡した。

自治区中心部は想像以上に大きな街であった。

車を降りた二人は銀行へ向かった。この辺りは両国の貿易が盛んである。

当然両替が必要で銀行には両国語を話せる者がいる。

中国銀行と書かれた建物に近づくと思ったとおり道端にベトナム人ブローカー

らしき女性たちが座っていた。

「ぢるさん、彼女たちに通訳を探してもらいます。ちょっと待っててください。」

そう言うとティエンは小太りの女性に近づいていった。暫くして女性と戻ってきて

ぢるに話かけた。

「ぢるさん、この人が今日一日通訳をしてくれるそうです。リーさんって言います。」

リーはぢるが日本人だと知ると、ティエンにぢるのことをいろいろ聞いていた。

なんでも以前日本人と付き合ってたらしく、少し日本語が話せるという。

「あなた恋人きっと見つかる。私助けるよ」リーがぢるに言った。

ぢるはまた心が熱くなった。

3人はまずタクシー会社を訪ね、あの日ヤンモー湖方面からの客があったかなど

いろいろ聞いた。

チワン自治区にタクシー会社はここだけである。半国営でドライバーの中には

軍人も居るそうだ。

ベトナムの大地震の日ヤンモー湖から長距離を利用した客の資料が出てきた。

ただ不思議な事にドンシン市には来ず途中の村で降りたという。

「ぢるさん、僕達は大変な思い違いをしていたのかもしれません」

ティエンが言った。

「どういうこと?」ティエンの少し困ったような顔に不安になり、ぢるはわけが

解らず問いかけた。

「つまり、山田さんたちは被災して逃げたのではなく、ひょっとするとある

調査が目的で中国側に来ていた可能性が・・・」

「それなら、なぜ会社に連絡しないの?・・・・だって・・」

「貴女には言いますが・・実は山田さんはこちらで別の仕事もしているのです。

それは・・・自分の会社です」

「そんな話一度も聞いたことないです。・・・・どうして私にまで隠して・・」

「それは解りませんが、私は山田さんに誘われていますので。この話は

中川商事の人間には絶対言わないでください。」

ティエンはその経緯をぢるに話した。詳細はこうである。

山田はベトナムが気に入っておりできればこちらに住みたいらしい。

そのためにこちらで自分の

会社を設立したい。しかしベトナムの法律で簡単には不動産などの収得が出来ない。

そこで、ベトナム人の友人に法人を作らせ自分が裏のオーナーとして運営する。

現在社員は5名おり、ティエンも来年には手伝って欲しい・・・

話を聞いてぢるは落胆した。山田がこれほど大事な話を何故私にしなかったのか? 

もし聞いたとしても自分が賛成しないと言ったら?・・・・

「ティエンさん。彼が行きそうなところが解るの? わたし、どうしても彼に会わなきゃ・・・」

言い切らないうちに ぢるは泣き出してしまった。

リーがぢるの肩にそっと手を置き「どうした?悲しいことあったか?」と心配そうに

声をかけた。

「ぢるさん、とにかく山田さんを見つけましょう。心当たりがあります・・」

ティエンはぢるを元気付けようと勤めて明るい顔で言った。

「ありがとう。ごめんね、泣いたりして。リーさんもありがとう」

ぢるは涙を拭きながら二人に言った。目的地はベトナムのランソンである。

ナータオ村に停めた車を取りに向かうことにした。ランソンと聞いてリーが

一緒に行くと言い出した。妹が住んでいるという。

ティエンとぢるは快く承諾した。

丁度昼になっていたので3人は食事をするために地元で評判の魚料理の店に入った。

見たことも無いような大きな魚やエビを食べることにした。

日本のような刺身は無かったがバターをふんだんに使いとても美味しかった。

食事を終えた3人はタクシーを拾いヤンモー湖に向かった。

途中リーが日本のことを色々訪ねてきた。彼女は10年ほど前旅行に来ていた

日本人と恋に落ち一時は本気で日本に行くことを考えたほどである。

しかしその当時日本はベトナムからの入国を厳しく制限していた。

同じ東南アジア諸国から売春を目的に多くの少女達が流入したからである。

「今、日本にはたくさんのベトナムの人が住んでいます。働いてる人も多いですよ」

ぢるはゆっくりリーに言った。確かにぢるの言うとおり多くのベトナム人就労者が

居るがほとんどは研修生という名目で月8万ほどで働いている。

しかも日本に行くにはびっくりするような借金をしなくては無理である。

事情を知っているティエンは黙って聞いていた。

タクシーが 中国側ヤンモー湖に到着する頃には4時近くになっていた。

そこから歩いて1時間半、ナータオ村に着く頃には日が沈みかけていた。

3人はティン一家に挨拶をしランソンに向かうことにした。

ぢるはティンに中国で買ったお土産を渡し再会を約束してナータオ村を後にした。

途中チェン・イエンまで来ると携帯電話が使えた。ティエンは中川商事に

確認の電話を入れた。

まだ山田からの連絡は無いという。

「もしランソンに居るなら携帯が通じるはずだし、何か連絡すると思います。

おかしいな?・・」

ティエンがぢるの顔をチラッと見た。後ろのシートではリーがすっかり眠っている。

「ねえティエンさん。ランソンは大きい街なの?」

「そうですね・・最近中国側との高速のおかげで賑やかになってきました。

町並みは昔からあまり変わってませんが倉庫や物流のための施設が増えましたね」

ティエンは何か考えているようだった。

チェン・イエンからランソンまでの道は地震の影響を受けてなくスムーズに

走行できた。

走行距離は150キロほどである。このペースでも3時間近くかかるだろう。

「ティエンさんは恋人は居ないんですか?」

ぢるの質問にびっくりしたようにティエンは振り向いた。

「寝てるのかなと思いましたよ。いいんですよ寝てください」

「だって、さっき眠ったから大丈夫。ティエンさんこそ疲れてません?」

「疲れたら途中で止まりますから、大丈夫です。そうそう恋人は実は日本に

居るんですよ」

ティエンの意外な言葉にぢるはびっくりした。

「そうなんだ、日本人なの?」

「ええ、名古屋でアルバイトしてた時に知り合った女性です。でももう1年も

会ってません。」

ティエンは少し寂しそうな顔をしていた。

「ティエンさんはどんなところでバイトしてたんですか?女の子と知り合うなんて

飲食店?」

「そうです。ベトナム料理店で働いてました。女性はアオザイを着ていましたよ」

「日本人が?スタイルが良くないと働けないですね。私には無理だわ・・」

そう言うとぢるは笑った。

「そんな事無いですよ。ぢるさんは奇麗だしスタイルもすばらしい。

きっとアオザイが似合いますよ。そうだ!山田さんが見つかったらアオザイを

作りに行くと良いですよ。、2日でで出来ますから」

「すてき・・・」ティエンの言葉にちょっと顔が熱くなっているぢるであった。

車の時計はもう9時を過ぎていた・・ステレオからははJAZZが流れていた。


「そろそろ休憩したほうが良いんじゃない?」チェン・イエンで食事を取って

以来運転し続けてているティエンを気遣い、ぢるが言った。

「ぢるさんもう少しでランソンです。このまま一気に行きましょう。

さっきホテルの予約はしましたから」

チェン・イエンで何箇所かに電話していたのをぢるは聞いていた。

予約はその時していたのであろう。1時間ほど走りランソン市内に入った。

リーの妹が居るというドンキン市場の近くのアパートに寄り、翌朝の約束をして二人は

ホアン・ニャンホテルに向かった。夜12時前だというのに街は賑やかである。

ホテルはそれほどきれいではないが設備は整っていた。明日は10時にロビーにリーと

待ち合わせである。ぢるは疲れていたが眠れないので自動販売機でビールを

買うことにした。

1Fのロビーに下りるとティエンもビールを買っていた。

「ぢるさん、お酒飲めるんですか?一度も飲んでるの見たこと無かったですよ」

ティエンが笑いながら言った。

「なんだか眠れなくて・・・どれが美味しいんですか? これかしら?」

ぢるがティエンと同じビールを押そうとするとティエンが言った。

「それならここのバーで飲みませんか? 少しお腹も空いていたんで。」

ぢるはうなずいた。

ホテルのバーは5つのテーブルとカウンターがあった。ウォールナット仕上げの

上品なカウンターに二人は座った。

「ぢるさんはビールが良いですか?カクテルも出来ますよ」

ティエンが写真つきのメニューを見せてくれた。

「じゃあ・・・この奇麗なカクテルを・・」

「いいですね。それはネプモイと言って米から出来た焼酎のようなお酒を

ジュースで割ったものです。じゃあボクはバーバーバーね」

バーバーバーとは333というラベルの日本でもお馴染みのビールである。

二人の前に飲み物が出された。

「わあー キレイ・・・・」オレンジ色のベースに透明のクラッシュゼリーが

乗せてありミントの葉が飾られていた。

「じゃあ明日山田さんが見つかることを祈って乾杯!」

ティエンがグラスを持ち上げた。

「ティエンさん山田はどうして会社やあなたに連絡しようとしないのかしら?」

30分ほど話していてあらためてティエンに聞いてみた。

「それは・・・・ボクにも解りません。電話が出来ない状態・・・」

言いかけてティエンは口をつぐんだ。

「電話が出来ない。そんなことあるのかしら?」不安げなぢるを気遣って

「この国は電波事情がとても悪いです。少し山間部に行くともう使えません・・・

たぶんそれが原因じゃないかと」

とにかくティエンの言葉を信じるしかない。ぢるはそう思った。


翌朝ホテルに来たリーと一緒にランソン市内のタクシー会社に行った。

そこで重大な事実を知った。ナーラムから日本人を含め3人の客を乗せた

運転手が居るという。

「それだ!」ティエンがその運転手に話を聞きたいと言うと、丁度外で車を

洗っているらしい。

「ぢるさん、きっと何かわかりますよ。」一緒に来たリーも心配げである。

運転手の話では地震当日中国から来た客をナーラムに送った帰りに、幸運にも

ランソンまでの客を見つけ彼らをそのままドンタン駅で降ろしたという。

「ドンタン駅には中国の電車が来ています。やはり・・・」

ティエンは運転手に彼らがどこへ行くと言っていたか聞いてみた。

客の話の中で何度もニンミンという中国の街の名前が出たという。

ニンミンはドンタン駅から2時間ほどの町である。

「とにかくニンミンに行ってみましょう。ドンタンまでお願いします。」

ティエンは運転手に言った。幸いぢるのパスポートは帰りのトランジットに備え

中国のビザを取ってある。3人はドンタン駅から再び中国ニンミンに向かった。

切符の手配などはリーがやってくれた。電車の中で今後の事について話し合った。

まずニンミンの駅でホテルなどがあるかを確認する。それほど大きく無い街なので

中川商事とつながりのある企業を調べる。タクシー会社で日本人を乗せたか確認する・・・・等々。

リーが中国語を話せるので大変助かっている。しかもリーは中国用の携帯電話の

チップも持っていた。

「リーさんが居てくれてよかったわ」ぢるは改めて出会いの大切さを感じていた。

駅にから出るとタクシーが一台だけ停まっていた。駅は市街から少し離れた

場所にある。

3人がタクシーに乗り込むと運転手が何か言っている。ぢるがリーに聞くと

「今日お祭り。車入れないところある、言ってる」リーがそう言うと運転手が

さらに何か言った。リーがティエンに何か言っている。

「ぢるさん、運転手が僕達が日本語を使ったのを聞いて、たまに日本人を乗せると

言ったそうです。もしかすると・・・もう少し詳しく聞いてます」

と言ってリーに話しかけた。

「ぢるさん中国でもこの辺りは日本人が少ないです。とにかくその日本人を

よく乗せるという建物へ行ってもらいましょう」

ほんの少し希望が見えたぢるであった。

ニンミンは比較的整備されて町並みはどこかヨーロッパを感じさせる。

タクシーの案内でその日本人をよく乗せるという建物の前に車を停めた。

「ぢるさんここだそうです。中に入ってみましょう」ティエンの言葉に鼓動が

早くなった。

 J.corporation(ジェイ・コーポレーション中国にしては珍しい英語表記の

看板のついた3階建でエントランスは大理石である。

分厚いガラスの扉を開けると受付用のカウンターが置いてある。

パーテーションを隔てた事務所から麻の白いスーツを着た50前後に男が

出てきた。

「どちらさま?」男は日本語で3人に話しかけた。それを聞いたティエンが

名刺を出し日本風に挨拶をした。

「私は中川商事のグエン・タイン・ティエンです。初めまして。

実は中川商事の山田所長のことをご存じないかと思いまして・・・」

ティエンがそう言うと男は3人を奥の応接室に案内した。

「皆さん中川商事の方?」男は名刺を出しながらぢるの方に向かって言った。

名詞にはJ・corporation 後藤俊と書いてある。

「いえ、・・私は山田の婚約者です。今回の地震で心配になりこちらに来ました」

ぢるがそう言うと男は心配そうに言った。

「それはそれは・・・しかし地震はベトナムでしょ? 何故こちらに?」

ティエンが経緯を説明した。

「なるほど・・・お困りですな。だが申し訳ないが山田さんはの事は存じ

上げません。」

「この辺りで日本人を見かけたことはありませんか?」

ぢるがすがるように言ったが結局ここでは有力な手がかりは得られないかった。 

そう思いながら事務所を出ようとした時・・・ぢるがあるものに気づいた。

しかしその事には触れず建物をあとにした。

「ティエンさん山田はやっぱりここに来てるわ!」タクシーに乗ったぢるが

ティエンに言った。

「ぢるさんも気づきましたか?・・あの携帯電話には見覚えがあります」

事務所の机の一つに置いてあったドコモのプレミニの事である。

山田は海外に行く時携帯を2台持っていく。1台はノキア。

もう1台はこのプレミニである。

これは国内専用で海外ローミングには対応していない。それがこの中国にある。

「ぢるさん・・・やはり山田さんは何かトラブルに巻き込まれています。

しばらく張り込みましょう」ぢるは先ほどの建物をじっと見つめた。


 港に近い 物流倉庫の3階・・・・

チンピラ風の男が3人、男を取り囲むように座っている。

「もういい加減に話したらどうなんだ。そのうち痛い目にあうぜ・・」

黄色いTシャツを着た男が言った。

「そうですよ・・・我々も決してあなたに危害を加えようなんて思っちゃいない・・

ただね我々も仕事なんですよ。ちゃんと話してもらわないと命の保障は

出来かねますがね。」

「いったい俺が何をしたって言うんだ」

「だから・・例のカバンがどこにあるかだけ分かれば私ら帰りますんで・・・

言ってもらえませんか?山田さん。」

そういうと黄色いTシャツの男が山田の腹部に蹴りを入れた。

「うぐっ・・・・」椅子に縛り付けられた山田がうめいた。

ここに監禁されてからもう5日である。

まさか友人だと思っていた田中がこんな事をするなんて・・・

田中との出会いは1年前の事である。中川商事の創立30周年コンペにゲストとして

招かれたいた。当時の田中は羽振りがよく、その後何度か梅田のクラブにつれて

行かれた。山田は酒は嫌いではないがクラブなどはあまり好きではない。

しかし中川商事にとって田中の会社は情報源としての価値があった。

飲みに行くうちより親しくなり今回のベトナム赴任後も数回現地で遊んだりもした。

しかし彼の会社には数億の負債があることを山田が知ってしまうと田中の態度は

一変した。

「田中、オレはいったいどうなるんだ?殺されるのか?」田中をにらみつけながら

言った。

「それは、君次第だな」そう言うと田中は階段を降りていった。


タクシーの中で3人は2時間ほど待っていると1台のポルシェ・カイエンが建物の

前に停まった。

「ぢるさん今停まった車から降りた男を知ってます!・・・確か・・

中西だったと・・」

以前ティエンが山田に呼ばれ田中という男と一緒にリゾート地の視察に行った

ことがある。

なかなか羽振りの良さそうな男で帰りに寄ったクラブでは大金を使っていた。

その時この中西が途中から合流してきたという。どうも田中の子分という感じ

だったらしい。

「何で中西がこんなところに居るんだろう?きっと何か知っているに違いない。

ぢるさん、もうしばらく様子を見てみましょう」

それから1時間程して建物の中から後藤と中西が一緒に出てきた。二人は前に

停めてあった車に乗り込むと出かけた。

「後を追いましょう・・」ぢるの言葉にティエンは首を横に振った。

「ぢるさん 大都市ならまだしもこんな町で尾行したなら怪しまれます。

それよりもこれで後藤と田中に関係があることがわかりました。

田中のことは調べればすぐ分かります。 

一度ホテルに戻りましょう。ボクも事務所で調べたいことがあります」

リーとはランソンで別れ、再びハイフォンにあるホテルに到着した頃にはすでに

深夜になっていた。

翌日ホテルのレストランで昼食をとっているとティエンから電話があった。

「ぢるさん 田中の居場所が分かりました。彼は今この国に居ます。」

3時にロビーで待ち合わせ2人は田中が居るというホテルに向かった。

「ぢるさん、ボクは田中に顔を知られています・・・これが田中の写真です。」

そう言ってリゾート地を視察に行った時撮った写真を見せた。

「わかりました・・私にいい考えがあるわ。 きっとうまくいく・・・・」

「ぢるさん、くれぐれも無理はしないように」ティエンが心配げに言った。

 田中はベトナムの首都ハノイに居た。Fホテルというディスコやカラオケバーを備えた・・

見方によれば売春斡旋を公認しているホテルに宿泊している。

「ぢるさん何かあったら必ず電話してください。ボクは事務所に居ますか」

「大丈夫心配しないで。」ぢるはそう言うとホテルに入っていった。

「アイハブ・ノーリザベイション・・・ドゥユーハブ・・」ぢるが言いかけると

フロントが笑顔で「日本語大丈夫ですよ。ご1泊ですか?」

「すいません1泊です・・・」パスポートを提出し名簿に記入したぢるはフロントに

こちに日本から来ている田中という男はいるかを尋ねた。

「8025号室です。お繋ぎしますか?」ぢるは後で自分で電話するからと言って

エレベーターに乗った。

7012号室・・・・ ぢるの部屋は田中の1階下である。

一息つくと8025号室に向かった。緊張で震える指でチャイムを鳴らす。

「だれ?」ドアを開けるなり男は言った。

「すっ、すいません。お友達の部屋と間違えちゃって・・・ごめんなさい」

「そうなんですか・・・日本から?こんな時期に旅行ですか?」

「いえ・・・友人の家に遊びに来てたら震災で、電気とか使えなくって・・・

で、ホテルに泊まってます。」ぢるはそう言うとにっこり笑った。

「それは大変でしたね。お友達は何号室?」

「7025号室です・・・一階下でしたね・・あっ、この近くに日本語が通じる

レストラン知りませんか?今夜お友達が外出しちゃうから・・・

私、言葉が話せなくって・・」ぢるがそう言うと

「じゃあ、もしよかったら一緒に食事しませんか?いいお店知ってるんですよ」

ぢるの思ったとおり男は乗ってきた。

部屋に戻りティエンに経緯を説明した。ティエンには携帯で必ず連絡を入れることを

約束した。

6時になりぢると田中は待ち合わせをしたロビーから出てタクシーに乗った。

レストランはホテルからそう離れていない場所にあった。

「ぢるさんは嫌いなものはありませんか?この店はカニが美味しいんですよ」

「大丈夫です。カニって、タラバとかそういうの?」

「ちょっと違いますね。クア・ロット日本ではソフトシェルクラブという名前でたまに

見かけますが脱皮したばかりのカニ・・多分渡り蟹を殻ごと食べる料理です。

美味しいですよ。」

「殻ごと食べるんですか? どんな味だろう?・・・」

「月夜のカニって呼ばれてるんですよ。ほらきました、揚げたてを食べましょう」

カニは少し泥臭かったが味は美味しかった。お酒も少し入ったところでぢるは言った。

「田中さんはしばらくこちらに滞在されるんですか?お仕事なんですよね?」

「ええ、ちょっと仕事で。しばらく居ますよ。ぢるさんは色んなところ行きましたか?

よかったら案内しますよ。」

「ホントですか?明日も独りなんですよ」

「じゃあ是非。二人の出会いに乾杯!」

二人はレストランを出たあとホテルのバーで飲んでいた。

「ぢるさん恋人は居ないんですか?」田中が聞いてきた。ぢるを口説く気であろう。

どちらかというとぢるの嫌いなタイプである。年齢は50前後小太りで声が大きい

日本のレストランなら絶対に同席したくないはずであるが山田のためである。

「恋人ですか・・居るのかな?どっちだろ・・どう思いますか?」

「きっと居ますね。でも最近うまくいってない・・・ そんな感じかな?」

「・・・・わかります?」ぢるはそう言ってグラスに唇を近づけた・・・

時間は11時をまわっていた。

バーで飲んでる間にに仕事の事を色々聞き出した。

そして最近はどこで仕事をしているのかがわかった。

ハイフォンで仕事をしているという。

「ハイフォンですかー。 一度行ってみたいな」

「よかったら明日行きますか?途中ちょっと用事があるのでコーヒーでも

飲んでてもらって。」

田中は良かったら部屋で飲みなおさないかと誘ってきたが、友達が遅くに

戻ってくるかもしれないと明日の約束だけをしてバーを出た。

部屋に戻ったぢるはすぐにティエンに明日の事を伝えた。 

「わかりました。ぢるさんボクが尾行しています。念のために時々連絡して

ください」


翌日10時にロビーで待ち合わせていた田中とタクシーに乗った。

少し離れてティエンのヒュンダイが後をつけている。

ハイフォンまでの道路は結構込んでいる。昼を少し過ぎた頃タクシーは

ハイフォン市内に入った。

「ぢるさん、私は少し用がありますのでこの店でお茶でも飲んでいて

いただけますか。30分くらいで戻りますよ」

コーヒーショップでぢるを降ろしタクシーは走り出した。

5台後ろをティエンの車が追っている。

ぢるはコーヒーショップに入りティエンに電話した。

「ぢるさん?今追跡しています。しっぽを出せばいいんですが・・」

「30分で戻ると言っていたわ。そんなに遠くないと思うの。」

「わかりました。また連絡します。」ぢるは電話を切りコーヒーを一口飲んだ。

苦いコーヒーだった。


「おい。白状したか? 中西」

「あっ、田中さん。おはようございます。なかなか口を割らないんですよコイツ・・」

「なあ山田さん。このままだとあんた死ぬ事になるぜ・・」そういうと山田の

顔を殴った。

「俺には何の話かわからないんだ・・・カバンって何の話だ?」

山田がすがるように言った。すでに相当衰弱している。

食事は与えられてはいるがもう限界である。

「そこまで言うなら・・・仕方ない。明日には死んでもらう」そう言うと

田中は降りていった。

タクシーが 倉庫から出て行った。それを見てティエンが車から降り

倉庫に近づいた。

「ぢるさん、出来るだけ時間を稼いでください」携帯でそう伝えると

倉庫に入った。

「山田さんあんたも強情な人だ。命と引き換えに金を守るのか?馬鹿なやつだ」

「教えてくれ。カバンて何のことだ?・・・・金っていったい・・・・」

「まだ そんなことを・・・・50億の証券の入ったカバンの事だよ・・・」

この時初めて金のことを中西は口にした。 

「本当に知らないんだ。たのむ助けてくれ!」

「田中さんにあんたの始末をつけるように言われているんだ。

明日の朝には楽になれるぜ。」

「なぜ俺が殺されなきゃならないんだ?・・・・」山田は中西を睨みつけた・・・

と、その視線の先にティエンの姿が映った。

ティエンはゆっくりうなずき山田に合図を送った。 

「わかった・・・カバンのありかを話す・・・・」山田は中西の注意を引くため

小声で言った。

「やっと話す気になったか。」その時すでに中西のすぐ後ろにいたティエンが

角材を首筋に振り落とし小さなうめき声を上げ中西は床に崩れ落ちた。

「山田さん大丈夫ですか?」椅子に縛られたロープをほどきながらティエンが言った。

「ありがとう・・・・どうしてここが?」 

「ぢるさんに感謝してください。彼女がここを突き止めました」

「ぢるが来てるのか? ・・・・で、今どこに?」

「田中とコーヒーショップにいる筈です。心配は要りませんよ、もう公安が到着する

頃です。」

ティエンはすでにこの場所とぢるの所に公安を向かわせていた。

その時外で数台の車のブレーキの音がした。

公安が到着したようである。山田は安堵感から薄れてゆく意識の中でぢるの笑い顔が

うかんだ。


インターナショナルSOSクリニックのベッド、ぢるとティエンが見守る中山田は

目覚めた。 

「山田さん気づいたのね!・・・よかった・・」ぢるは山田の手を握りながら

嗚咽を漏らした。

「ぢる・・・・・会えてよかった。」

「山田さん、今先生が来ます。どこか痛いところはありませんか?」

ティエンが心配そうに話しかけた。

「ありがとう・・大丈夫みたいだ」

「心配したわ。もう会えないかと思った。」山田の目を見つめながらぢるが言った。

顔は無精ひげが伸び、少し頬がこけていた。殴られたせいかまぶたが腫れている。 

「あいつらは・・・・」山田はティエンのほうを見て言った。

「公安に連行されました。田中は逃走しようとして車にはねられ重体です」

「そうか。しかし何で俺を襲ったんだ?あいつら・・・・」

「山田さん。あんまり喋らないで・・無事だったんだから・・会えたんだから・・」

ぢるが山田の頬を触りながら震えるような声で言った。

「ぢる・・・・」山田の指がぢるの髪に触れる。

「ありがとう・・・・」


1週間後、帰国した山田とぢるが江ノ島のシェリーズキッチンでデスカレーを

食べていた。

「・・・・・山田さん・・・ひどい・・・こんなの食べれない」

「帰国したらここのカレーを食べたいって思ってたんだ」

そういうと山田はいたずらっ子のような顔をした。

「あの時のお礼にご馳走するっていうから・・・・辛いよー」

ぢるは涙目で笑っていた。

「それにしてもあの時の50億というのが気になるなぁ・・・・」

ぢるが山田の言葉をさえぎった。

「もう忘れましょう。きっと警察が何かつかんでるわ。まかせましょうよ」

食事を終えた二人は海岸を歩いていた。

少し汗をかいた肌に海風と水面に反射する光が心地よかった。


同じ時刻ハイフォンでは大変な事件が起こっていた。

二人が乗った車が藤塚インターチェンジを越えた辺りで山田の携帯が鳴った。

センターコンソールにある携帯電話が青白く光っている。

「ぢる、悪いけど電話に出てよ」山田が言った。

「私が出てもいいのかしら・・・仕事の話じゃないの?」

といいながらディスプレイを見た。

「何この番号・・84・・ベトナムからだわ」ぢるは急いで通話ボタンを押した。

「もしもし山田さん?大変な事になりました!・・・・」相手はティエンである。

「ティエンさん私。ぢるよ、どうしたの? 何かあったの?」

「ぢるさん、お久しぶりです。山田さんは?」何か緊迫したものを感じ携帯を

山田に渡した。

「どうしたティエン、何かあったのか?」

「杉田さんが撃たれました。」杉田は山田の上司で取締役部長である。

今回の事件と被災したベトナムの事情を考えしばらく山田の変わりに現地を

仕切っていた。

「なんだって?・・・それで まさか・・・・・」

「幸い銃弾が貫通したために命に別状はないと」

ティエンの話では杉田が仕事帰りによく行く日本料理店の駐車場に車を停めた

ところを撃たれたらしい。 銃声はしなかったという。

「ティエン君、それはプロの犯行だなサイレンサーを使っている・・・・・

だとすると殺そうとしたわけじゃないな・・・多分脅すつもりなんだ」

山田は言った。普通銃はサイレンサーをつけると威力が弱まる。

しかしこれが一旦体内に入ると渦を描きながら弾丸が止まる。

まず生きてはいられないはずである。

あえて貫通しやすい場所を狙った・・・

「ぢる、しばらくベトナムに行かなければならない」

すまなさそうに山田が言った。

「わかってる・・・でも私もついていきます。 もう一人で心配するのは嫌」

ぢるの家に着くまで二人は色々話し合ったが、渋々山田は同行する事を認めた。

3日後、二人はベトナム・フレンチ・ホスピタルの302号室にいた。

「いやあ、すまなかったね。ぢるさんまで・・」弱々しい声で杉田が言った。

「部長良かったです、命に別状がなくて。犯人を見たんですか?」山田の問いかけに

「山田さん部長さんまだそんな事を聞ける状態じゃないのよ・・・ダメじゃない」

ぢるが さとすように言った。

「いや、ぢるさん大丈夫だ、肩を撃たれただけだから。君達の顔を見たら

安心しちまって」

さっきまで看護婦をからかっていたという杉田の話を聞いて二人は少し安心した。

「犯人の顔はわからない・・夜なのにサングラスしてやがった。

こっちの公安も調べてるみたいだがどうもプロの仕業らしい」

車のシートに残った銃弾はワルサーから発射されたもだという。

最近ではあまり使われない銃らしい。

「しかし部長助かって良かったです・・ところで部長、何故撃たれる事に?

例のカバンと金の話と何かつながりがあるんじゃ?」山田が監禁されていた時

中西に聞いた話である。

杉田は思い当たる事は無いという。 

「部長中国のジェイ・コーポレーションはどうなりました?」

ぢるとティエンが中西を見つけた会社の事である。 

「さすがにこの国の公安も中国までは捜査出来ないらしい。

中国の公安に任せてあるそうだが実はティエンが見に行ってくれた話だと

すでに建物には誰も居ないそうだ」

「そうですか・・・とにかく僕が明日から事務所に行きますからゆっくり

休んでください。」

二人は杉田にお見舞いのマンゴープリンを渡すと病院を後にした。

「せっかく二人できたんだ、何か美味しいものでも食べに行こうか?」

山田がぢるに言った。

「山田さんに任せるわ。どこか美味しいところ知ってる?」山田の左腕に

手をまわしながら甘えるように微笑むぢるであった。


 翌朝ぢるはデウホテルのレストランで昼食を摂っていた。

さすがに山田の仕事場に行くわけには行かない。一緒に来たのはいいが言葉が

わからないので外出も不便である。昨夜レストランで山田が通訳をつけようかと

言っていたが大丈夫だと断った。とにかくこの国に慣れなくてはとぢるは考えた

からである。ティエンに聞いた山田の計画の事はまだ本人に聞けずじまいでいる。

もしこちらで一緒に住むのなら少しでも早く言葉を覚えたほうがいい。

「少しずつ勉強しよう」ぢるは山田が使っていたベトナム語のテキストを

開いた。

「すいません・・・ぢるさんですか?」

「はい・・・あなたは?」30代前半の細身の男性が声をかけてきたが

会ったことが無い。

ひょっとして山田の会社の関係者か?ぢるが考えていると男が言った。

「あっと・・すいません。私は日本の警察のものです。いやいや・・

楽にしてください

こちらでは捜査権はありませんので・・・プライベートです」

「そうなんですか?・・・私に何か?」男はぢるの前の席に座り話し出した。

「実は今回の一連の事件を捜査してまして・・・ただあくまでプライベートですが・・・」

「どうして プライベートなんですか? 」

「今回の事件はちょっとややこしくてね・・・あまり詳しくはお話できませんが」

男は竹内と名乗った。名刺は渡されなかったので本当かどうかはわからない。

「少しだけお話が聞けたらと思いまして・・・杉田さんご存知ですよね・・」

「ええ、もちろん。杉田さんがどうしたんです?」

「実は・・・ある組織とつながりがありまして。ここからは私の独り言と思って

ください」

竹内の話では最近国際的な麻薬密売組織が摘発されたが、その直前預金口座が

解約され証券化された。しかしその証券を何者かが強奪した。

組織が血眼で追っていて中国のある組織を嗅ぎつけた・・・その組織と杉田が

関係があるのでは? そういう内容であった。

「いや、すいませんねこんな話を貴女にして。おっと、話しすぎた。

私はこれで失礼します」

そう言って竹内は席を立った。

「ちょっと待ってください!この事は山田に言っても・・・」

ぢるがそう言いかけると

「もちろんかまいませんが・・・動いたりしては危険ですので・・」

そう言ってレストランを出て行った。

夕方山田に会うまで昼の件を話すかどうか迷っていた。

というのも山田の性格であれば必ず自分なりに調べ出すに違いない。

そうなれば危険な事に巻き込まれる可能性がある。 

そう考えたからであった。ショッピングをしたりカフェでお茶を飲んだりしたが 

そんなことを考えていたのであまり楽しくは無かった。

「やあ、お待たせ。退屈しなかった?」山田が優しく話しかけてきた。

「あっ・・・・・ごめんなさい 気づかなかった」

デウホテルのラウンジに座っていたぢるはあわてて山田の顔を見た。 

「どうしたの?考え事?わかった何食べるか考えてたんだ」そう言ってぢるの顔を

覗き込んだ。

「そうね・・・何食べようかしら。フレンチがいいな」ぢるは平静を装い

返事をした。

ベトナムは過去にフランスに統治されていた事があり、その影響から現在でも

すばらしいフレンチを出す店が多い。山田が案内したグリーン・タンジェリンも

その一つである。

1920年代に建築された民家を改装したレストランでメインもさることながら 

デザートは芸術的ですらある。優雅な時間をすごした二人は旧市街を歩く事にした。

8時を少しまわっているが賑やかである。道路はくもの巣のように複雑で政府が

町並みを保全しているためどの建物を見ても興味深い。

「ねえ、あそこで売ってるの何かしら?」ぢるが道路わきで絵のようなものを

並べているのを指差した。

「あれかい、あれはキャンパスにのりを塗ってそこにキラキラした金属の粉を

ふりかけて作る絵だよ。やってみるかい?」

「うん、やってみたい。面白そう。」二人は子供用のような樹脂の椅子に座り

隣に居た地元のカップルを真似てカラフルな粉で絵を描いた。

40分ほど悪戦苦闘の末、ちょっと似ていないぢるの似顔絵が出来上がった。

それに額縁をつけて日本円で500円ほど支払った。

「たのしかったわ。こんなに笑ったの久しぶりよ」ぢるが大はしゃぎで山田の

手を引っ張った。

「おいおい、せっかくの傑作を落とすじゃないか」山田はよろけながらぢるの肩を

抱き寄せた。 

ぢるはその時昼レストランで会った竹内の話をしないでおこうと思った。


 今回のぢるのベトナム滞在は2週間である。観光目的ならビザは要らない。

一度戻って身の回りを整理し、こちらに長期で滞在するつもりであった。

山田の会社に臨時雇用という形で3ヶ月のビザを申請する。

もちろんずっとホテル住まいというわけにはいかないので、手ごろなアパートを

探すつもりで山田の休みの日不動産屋に出向いたりもした。

 ぢるの帰国の日ノイバイ空港のロビーで、二人は12時50分発の

CX香港行きを待っていた。

10分遅れだそうである。

「ねえ、アパートが決まったらすぐ電話してね。荷物を送らなきゃいけないし」

「わかったよ。でも、こちらで全部揃えたっていいんだよ。

一緒に買い物するのも楽しいんだから。」

「うん。必要なものだけにするわ。なんだか楽しみ」

「メールでアパートの写真送るよ。あっ、ゲートが開いたね・・

それじゃあ待ってるよ。気をつけて・・・」

「ええ、貴方も気をつけて・・・絶対無茶しちゃだめよ」

「わかってる」

出発ゲートの前で軽く唇を交わしぢるはセキュリティチェックへ向かった。

振り返ると黄色いアロハシャツを着た山田が、白い歯を見せながら手を振っていた。

それがぢるの見た山田の最後の姿であった。


 山田の消息がわからなくなって何度もぢるはベトナムへ行った。

その都度ティエンが力を貸してくれたが何一つ手がかりは得られなかった。

その間に上司の杉田が警察の事情聴取を受け中国マフィアの金の事について自白した。

杉田はジェイ・コーポレーションの闇資金を証券化する手助けをしていてその証券を

ベトナムの中川商事ハーティン支社の金庫に隠していた。

そこは普段はほとんど使っていない建物で売れ残りの在庫などを一時的に

保管していた。

それが震災で全壊し隠してあった証券を入れたバッグごと消えたのだった。

犯人は分かっていない。50億の証券は不明のままであるらしい。 

その事もあり中川商事はベトナムからの撤退を決めた。

それによりティエンも解雇されたが、ぢるが訪問すれば必ず出向いてくれた。


 そして一年が過ぎた。

ぢるは思い出のサイパンの海岸を一人で歩いていた。

あの時と何も変わらない風景がそこにあった。

目も眩みそうな太陽の光と真っ白な砂浜。コバルトブルーの海に浮かぶクルーザー。

さっき読んだ新聞の記事を頭の中で何度も読み返した。


(中川商事のベトナム支店で行方不明であった山田氏は事故死していた

可能性が高い。本人のパスポートと所持品が沈没していた船から発見された。

氏の遺体は発見されなかったが状況から座礁に乗り上げ乗組員共々死亡した

ものと思われる。船は7人乗りの小型クルーザーであった)

ぢるは信じなかった。信じることによって記事が本当の事になるのが怖かったのだ。

不思議と涙が頬をぬらすことがなかった。

水面はあの日と同じようにキラキラと輝いている。

一つ一つの光がたくさんの思い出を照らしているだけであった。







この小説はインターネットラジオ ライブドアねとらじの番組「猫☆印」で番組中

DJのぢるさんに朗読していただくために投稿しました。

本来は続編があるのですが、それはまた別の機会に・・・・

作品中の一部架空の地名等ありますのでご容赦ください。

DJぢる様・リスナーの皆様には何かとご協力を頂 誠にありがとうございました。

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