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9.そんな理由で?

目の前の紅茶はすっかり冷めていた。

私は口を挟むことも出来ず、ひたすらアンドリュー様の話をきいていた。10年前に亡くなったのはジェームズの前妻ではなく、本当の伯爵夫妻だった。

酷い、別邸の火事も偶然なのか疑問がわく、一人で戦って来た少年時代のアンドリューのことを思うと涙が出た。


「大丈夫、そんなに深刻にならないで、もうすぐ決着が着きそうだし」

「…大事な時期に私に話してよかったのですか?」

「話をきいたからには、エレンも俺の共犯者と言うことでよろしく」

アンドリューが微笑む、この顔は要注意だ。


「もしかして、私のこと疑ってました?」

「ごめん、まさか簡単に騙されて後妻に入るとは思えなかったからね。エレンを見ていて納得したけど」

つまり伯爵の回し者と思っていたのか、心外だ。

黙り込んでいると、入れ替えた温かい紅茶を前に置かれたのでひと口飲んで落ち着くことにする。


「もうひとつエレンに謝ることがある。別宅の使用人からあいつが子供を欲しがっているときいて、半年前に密かに不能の魔法をかけた」

「ふ・の・う?」

「つまり寝室で役立たずということだ、君も無事だっただろう?」

「あ…」

意味を理解して赤くなる、私に謝る必要はないのでは?むしろ助かった。


「俗世に不能の男は処女おとめと床を共にすると治るという迷信があって、あいつはそれを信じて君で試したのだろう」

何を言われているのか理解が追いつかない。

「最初メイドが狙われたけど、レイが『うちのメイドに処女はいない』とか報告したらしい。そんなこと把握してる執事はどこにもいないけどね」

アンドリューは楽しそうに笑っている。ちょっと待って、私には笑い事では無い。


「だから君が買われたのは僕にも責任があるし、レイにもちょっとあるかな、すまなかった」


すまなかったじゃない〜〜!!

そんなくだらない一夜の為に、私は捨て身の覚悟で嫁いで来ることになったのか。利用されて放逐されるのは決まっていたのだろう、許せない。


アンドリュー様もおかしい。

魔力が多くはない私は習得できる魔法の数に限りがある。オーラを視る魔法を選んだのは上位貴族を名乗る男に父が騙されたことがあるから。後は領地の役に立つよう、植物を元気に成長させる魔法とか、ともかく習得魔法を選ぶのにものすごく悩んだ。

伯爵に使ったという他人に干渉する制約魔法は習得にも時間がかかったはずだ。魔力にゆとりがあるとそんなロクでもない魔法を選ぶのか、残念すぎる。


恨みがましい目で睨んでも、アンドリューはにこにこしている。

「うん、そんな風に少しは怒った方がいいよ。君は諦めが良すぎるから。制約魔法は条件を満たさないと発動しない、あいつはクズだ。別宅を捜索する時に君の婚姻届も探して自由にしてあげるから」


どうやって?もちろんすぐに離縁したいが伯爵が戻り署名をもらうまで無理ではないだろうか。

「それからもう少し警戒した方がいい。夜、男の部屋に呼ばれたら行ってはいけないよ」

「アンドリュー様が呼び出しましたよね」

「うん、俺以外は気をつけてね」

さっき同情してしまったが、やっぱりこの人の笑顔は苦手だ。

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